《斷罪された悪役令嬢は、逆行して完璧な悪を目指す(第三章完結)【書籍化、コミカライズ決定】》06.悪役令嬢は揺する

年相応に若くはあるものの、ダークブラウンの髪と褐、そして人を甘くう桃花眼は見間違えようがない。

から気が溢れているようで、瞳だけはビターチョコレートのように理を刺激してくるところも。

「これで一晩過ごしたことにしてくれ」

客として、はじめてクラウディアの元を訪れた彼は、札束を渡すなり一人カウチで眠った。

仕事で疲れているのかと思いきや、次も同じだった。

回數を重ねるにつれ、派な見た目とは裏腹に、が苦手だと知った。

ただ対面を保つためだけに、高級娼婦であるクラウディアを買っていたのだ。

それでも一緒に過ごす時間が長くなれば、自然と會話が増える。

「ディーは人だし可いし、欠點が見つからなくて困る」

「ウルは男前だし可いものね?」

「……」

「ちょっと、照れないでよ」

いつしか稱で呼び合うようになり、ただカウチで寢るだけだった彼は、次第に起きているようになった。

「オウラー、なぁ、一緒にバーリ王國へ行かないか」

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「オウラー、顔を見せるなり、何なの?」

請けの話は、普段の會話と変わらない調子で持ちかけられた。

――嬉しかった。

クラウディアも、ウルとは相の良さをじていたから。

けれど、すぐに答えは出せなかった。

クラウディアにとって、娼館にいることは罪の償いだった。

娼婦として稼げる間に、娼館を去るのは許されない気がした。

(本當に、あのウルなの? 王弟だなんて、聞いてないわよ!?)

娼館では、客の詮索は法度とされるが、噂は流れる。

客が王族ともなれば、どこかしらから報がるはずだった。

あえて伏せられていたのかもしれないけれど。

(伏せる理由がある? それか、もしかして……王族じゃなくなっていたの?)

現在、王弟は王太子の誕生によって、微妙な位置にいる。

王太子の基盤を盤石にするため、臣籍降下していてもおかしい話ではない。

しかし、王弟がそこまでする必要もないように思えた。

既に國王によって國外へ出されているの上だ。

國王が、王太子への王位継承を確固たるものとしている以上、王弟が王族を抜ける必要じられない。

「王族」というネームバリューは、國、國外雙方に通用し、外のカードにもなる。

バーリ王國としても、臣下に下るとはいえ、貴重な王族を手放したくはないだろう。

(今となっては確かめようがないわね。でも今後、きがあるなら見逃せないわ)

懐かしい顔にが揺さぶられるけれど、クラウディアには今の人生がある。

いつまでも娼婦時代を引きずってはいられない。

壇上で留學の発表が終わると、今度は個人間でシルヴェスターから王弟ラウルを紹介される。

気づいたら、兄のヴァージルも合流していた。

「ラウル、こちらが私の婚約者候補であるクラウディア・リンジー公爵令嬢とルイーゼ・サヴィル侯爵令嬢だ。そしてクラウディア嬢、ルイーゼ嬢、先ほど壇上でも紹介されたラウル殿下だ」

紹介されるままに挨拶をわすと、早速ラウルが人好きする笑顔を見せる。

「シルヴェスターとは子どものときから面識があるんだが、ハーランド王國は酷なことを強いるな。これほどしいご令嬢方から、婚約者を一人に絞るなんて。オレには到底無理だ」

が苦手なクセに、よく言うわね)

彼なりのリップサービスだと理解しているものの、心の中では早く退散したいと思われているのを知っているだけに、手を抓りたい衝にかられる。

しかし改めて至近距離で見るラウルは、中々に刺激が強かった。

バーリ王國では緩やかな服裝が好まれるため、正裝であっても首元のボタンは外されることが多い。

鎖骨から筋質なまでが、僅かに覗く姿は目に毒だった。

それが下品にならないよう著こなしているのだから凄い。

(歩くフェロモンは、伊達じゃないわ)

先輩娼婦が、たまたまラウルを見かけたときに、つけたあだ名だ。

気に関してはシルヴェスターも負けていないが、二人は系統が違った。

ハーランド王國では、細部にまでこだわった意匠が好まれるため、ラウルとは対照的に、シルヴェスターは第一ボタンまでしっかり留めている。

(例えるならシルは白百合で、ラウルはバラかしら)

白百合は上品に見えて、近付くと強い芳香に曬される。

片やバラは、ガーデニングでも好まれる通り、見た目にも華やかで、香りも申し分がない。

そんな二人が立ち並ぶと、相乗効果なのか香で頭がくらくらしてきた。

にこやかな表を保ちながらも、それとなく視線を外す。

しかし気になる人が、ラウルの背後にいた。

學園に留學するのはラウルだけではなく、王弟派の令息や令嬢たちもいる。

中でも際立ったのが、の白さが印象的な青髪の青年だった。

すらっとした肢に、裝いは他の令息たちと変わらないものの、どこか違和を覚える。

溫暖な気候のバーリ王國では、褐が一般的だからだろうか。

クラウディアの視線を追ったラウルが、おや、と笑みを濃くする。

「クラウディア嬢は、レステーアみたいなのがお好みかな?」

「ほう、それは興味深い」

続くシルヴェスターの黃金の瞳に、剣呑なが宿る。

そういう意味で気になったのではないけれど、ここで否定しては、相手に悪かった。

シルヴェスターの視線をけて、背中で冷や汗を流しながらも、何事もないように微笑む。

「レステーア様と仰るのね。とても綺麗なお顔立ちだから、見惚れてしまいました」

事実、レステーアの目鼻立ちは整っていた。

ラウルに比べると線が細く、淡い碧眼と合わさって繊細なイメージが勝つ。

クラウディアが和やかに答えると、レステーアはお辭儀をし、一歩前へ歩み出た。

「レステーア・デガーニと申します。お心遣い、ありがとうございます。リンジー公爵令嬢がじられた違和は、正解ですよ」

何が、どう、正解なのか。

尋ねる前に、違和の正に納得がいった。

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