《斷罪された悪役令嬢は、逆行して完璧な悪を目指す(第三章完結)【書籍化、コミカライズ決定】》08.悪役令嬢は追い詰められる
「シル!? ここにいて、よろしいの?」
婚約者の定はあっても、表向きはまだ婚約者候補に過ぎない。
二人っきりでいるところを誰かに見られるのは、都合が悪かった。
それに王弟の紹介を兼ねた案は、もういいのだろうか。
「時間はかかったが、人払いは済んでいる。バーリ王國のものたちも、それぞれ用意された部屋へ帰った」
平然と答えながら、シルヴェスターはクラウディアの隣に腰を下ろす。
彼が者に合図を送ると、馬車はき出した。
「もしかして待ち時間が長かったのは……」
「あぁ、私の都合だ。ヴァージルとは話がついてるから、安心していい」
「安心していいのかしら……?」
視線を下ろせば、當然のように手が握られていた。
このぐらいなら許容範囲だけれど。
意識すると、頬が熱くなる。
まだまだ初心さが抜けない我がが悔しい。
クラウディアの視線に気付いたシルヴェスターは、軽く手を持ち上げると甲にキスを落とした。
「私は君にを伝えたいだけだ」
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言いながらプロポーズのときのように、指の一本一本にを贈られる。
リップ音が聞こえると、全にが駆け巡った。
直視していられず、窓へ顔をそらす。
(そういえば二度目のプロポーズは、室だったのよね)
啓示のような夢では、一度目と二度目を混同されたのだろうか。
二度目はシルヴェスターからされていることを知り、今までにないにのまれて、夢とは真逆の心地だった。
「何を考えている?」
「その、以前のことを。シルは、わたくしの指が好きなの?」
「指も好きだが、他の場所はキスを許してくれないだろう?」
「當たり前です!」
完璧な淑になると決めてから、過度なれ合いはじていた。
まだ未な自分たちが、燃え上がった熱を上手く処理できると思えないからだ。
現に今だって、指先へのキスだけで、が熱っぽい。
「頑なだな。でも顔をそらさずとも――」
顎を軽く持たれて、顔の向きを正される。
しかし目が合うなり言葉が途切れた。
鼻先が當たって、慌てて両手でシルヴェスターの口を塞ぐ。
「ダメ……っ」
「君は、そんな表を、しておきながら、拒むのか」
どんな表かは、クラウディアにはわからない。
けれどシルヴェスターのは、わかる。
小刻みに呼吸を挾んだ彼は、眉を寄せ、最後は辛そうに重たい息を吐いた。
「今すぐ君を抱きたい」
「直球にもほどがありますわよ!?」
婚約者に定してからというもの、とみにシルヴェスターはを隠さなくなった。
ただ本人も反省はしているらしく、すぐに非を認める。
「……すまない、他にのを伝える良い表現が浮かばなかった」
クラウディアの予想通り、上手く熱を処理できないのか、珍しくシルヴェスターが暴に髪をかき上げる。
手からこぼれた銀髪が、靡なを散らしていた。
その合間から黃金の瞳が覗く。
もし第三者がこの場にいれば、自らを差し出しただろう。
苦々しい姿すら絵になるシルヴェスターに、クラウディアから提案できることは限られた。
「とりあえず前の席に移されては?」
「嫌だ」
二人きりになると、いつも似たようなやり取りをしている気がする。
「しばらく會えなくなるというのに、離れたくはない」
飾らない言葉は、本音が吐されていた。
ふと、顔を出した現実に、クラウディアも寂しさが募る。
「領地に行かれるのですよね」
「あぁ、短期滯在の予定だが、いかんせん往復に時間がかかる」
現地で留まるより、移時間のほうが長いのは、シルヴェスターにとっても負擔のようだ。
「頻繁に會えているわけでもありませんのに、急に寂しくじてしまうから不思議ね」
「君もそうなのか? 私だけではなかったのだな……」
目に見えて安堵するシルヴェスターの姿に、首を傾げる。
自分だけが寂しいと思っていたのだろうか。
「わたくしだって寂しいですわ」
「うむ、今日の君はラウルに釘付けだったから、落ち込んでいるのは私だけかと思っていた」
「あれは……!」
相変わらず、シルヴェスターの勘の良さには肝を冷やされる。
どこまで心を読まれただろうか。
娼婦時代があったことを、シルヴェスターは知らない。
しかし、それでも核心を突いてくるのが、シルヴェスターだった。
「焦らなくていい、接待に徹してくれていたのだろう? レステーア嬢のことも、よく見抜いたな」
シルヴェスターには事前に、令嬢だと紹介されていたという。
浮気心はないとわかってくれていて、一先ずほっとする。
「シルの視線が厳しくじられたのは、気のせいだったのね」
「嫉妬はしたが?」
「……」
「理解することでが制できれば、私も困らないのだがな」
苦笑しながら、肩に落ちた髪の一房をでられる。
シルヴェスターの言う通り、ほど扱いが難しいものはない。
自分のことなのにままならなくて、クラウディアもどれだけベッドでバタついたことか。
共できたからこそ、優しい接を拒めなかった。
そして髪の流れを追う指が二の腕へ至り、皮の薄い部分を刺激されて、が反応しかけたとき。
「ディアは、ラウルと面識があるのか?」
弾を落とされて、悲鳴を上げそうになる。
どうして相手への視線だけで、そこまで勘付けるのか。
どうして毎回的確に、気がそれた瞬間を狙えるのか訊きたい。
「あ、ありませんわっ」
「ふむ、その割りには保つ距離を心得ているようだったが」
「そのように見えまして?」
「初対面の相手なら、君はまず観察してパーソナルスペースを計ろうとするだろう? ラウルに対しては、それがなかった」
よく見ている。
しかし今のクラウディアに、気を配られていることを喜ぶ余裕はなかった。
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