《斷罪された悪役令嬢は、逆行して完璧な悪を目指す(第三章完結)【書籍化、コミカライズ決定】》20.悪役令嬢は意識改革をおこなう

「本日はお招きいただき、ありがとうございます」

「こちらこそ、ご協力に謝いたします」

レステーアを迎え、早速本題にる。

議題は、大きなにシャーロットの対するコンプレックスについて。

しかし話を進める前に、シャーロットからレステーアへ質問があった。

「レステーア様は、その、に興味がないんですよね?」

「はい、ありません。ご令嬢の善し悪しは、で決まるものではありませんから」

「そうですよね……! クラウディアお姉様の言った通り、興味のない方もおられるんですの!」

シャーロットは笑顔を見せて喜ぶものの、クラウディアはその反応に違和を覚える。

思い返してみれば、レステーアにどう協力してもらうのか、詳細は伝えていなかった。

「ねぇシャーロット、もしかしてレステーア様が、男裝の麗人だとご存じないのかしら?」

「へ……?」

クラウディアが看破した場に、シャーロットはいなかった。

それでも噂になっていそうだけれど、あえてレステーアをだとは言わず、ご令嬢方が夢を見ている可能も否めない。

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「男裝の麗人……ということは、男じゃ、ないんですの?」

シャーロットの大きい目が、こぼれ落ちそうだった。

愕然とする彼に、レステーアは微笑む。

「えっ、だってもぺたんこですよ!?」

「シャーロットは、が男役を演じる演劇を観たことはない?」

「は、初耳です……」

なら、すぐに理解できなくても仕方ないわね、と頷く。

「この場合、俳優はを布で押さえて、膨らみを隠すのよ。レステーア様には、布の巻き方をご教授いただくの」

馴染みの劇団に聲をかけても良かったが、彼らが演じるのは舞臺の上に限る。

それより私生活でも男裝を続けるレステーアのほうが、実用的な方法を知っているように思えた。

「じゃあ、あたしのもぺたんこにできるんですの!?」

「殘念ながら平らにするのは無理だと思うわ。とりあえず移しましょうか」

気味のシャーロットを落ち著かせながら、応接間を出る。

あまり期待させてしまっては申し訳ない。

シャーロットのの大きさでは結果は芳しくないと、クラウディアには予想できていた。

向かったのはダンスホールだ。

部屋が広い分、どうしても足元が冷えるけれど、ここには全が映る大きな鏡があった。

鏡に気付いたレステーアが、珍しく目を瞠る。

「これは……! 流石リンジー公爵家ですね、これほど大きな鏡を用意できるなんて凄いです」

「わああっ、全が映るんですか!? わああ……!」

シャーロットに至っては、鏡の前で跳びはねている。

無理もない。

クラウディアも娼館で鏡の価値を知って、開いた口が塞がらなかったのだから。

鏡の製作には手間暇がかかる。

大きくなればなるほど、しい鏡面を保つのは難しい。

そして一番の問題は、出來上がった鏡の運搬方法だった。割れやすい鏡を、振の大きな馬車で運ぶのは至難の業だ。

おかげで巨大な鏡の所有は、権威の象徴となっていた。

「どうやって王都まで運搬したか、クラウディア嬢はご存じですか?」

「人足を雇ったと聞いています。人足には、警備もつけて……途方もない話ですわ」

鏡は、ハーランド王家の姫がリンジー公爵家に降嫁する際、當時の當主が贈りものとして用意した。

人の手によってゆっくり運ばれたため、納期には間に合わなかったらしいが、新妻となった姫は泣いて喜んだという。

クラウディアが生まれる、ずっとずっと前の話だ。

「古いものですが、今でも使えます。さあ、シャーロット、こちらへ來てくださる?」

「はい……!」

鏡の正面にシャーロットを立たせ、彼の両肩に手をのせる。

を隠したい気持ちの表れでしょうけど、貓背になるとぽっちゃりして見えるし逆効果よ」

言いながら肩を開き、姿勢を正させた。

「でもクラウディアお姉様、これだとを強調してるように見えませんか?」

「気分的にはそうかもしれないわね。けれど鏡を見て? だけじゃなく全をね」

「全……」

「ここへ連れてきたのは、あなたに全像を把握させるためよ。いい? だけでシャーロットを判斷する人は、ほぼいないわ」

が好きな人も。

が大きいだけだと蔑む人も。

シャーロットの姿勢を見て、人となりを判斷する。

「どうしても大きいには目が行ってしまうわ。口撃するときも、目立つ場所を狙うでしょう。けどね、考えてみて? シャーロットは、わたくしのつり目だけを見て、怖い人だとは判斷しなかったでしょう?」

「はい、お姉様は人な上、頭もスタイルも良くて、あたしの憧れですから!」

「ふふ、ありがとう。結局のところ、欠點も自分の一部でしかないのよ。だから鏡を見て、全像を頭に叩き込んで」

そしてこれから言うことを覚えておいて、と言い含める。

「わたくしのつり目のように、シャーロットも大きいとは生涯付き合っていかないといけないわ。これから試そうとしている対策は、あくまで欠點と付き合いやすくするためのものよ」

の一部である以上、なくすことはできない。

ならば嫌いでいるより、好きになれるよう努力したほうが建設的だ。

「今日はシャーロットが將來、自分に自信が持てるように、大きいを認められるようになるための、第一歩にするの」

「はい……!」

「良い返事ね。じゃあ、布を巻く方法から試していきましょうか」

「では、ぼくが実際どうしているのかお見せしますね」

上著をいだレステーアは、そのままシャツのボタンに手をかける。

一つ目のボタンが外されると、シャーロットがきゃっと小さく聲をらした。

「レステーア様もよ?」

「は、はい……でも、その、人が服をぐところを見たことがなくて」

頬を染めるシャーロットに、クラウディアは雷に打たれたような衝撃を覚える。

娼婦だった記憶のあるクラウディアにとって、人の著替え――それも同の――で恥じらうという発想がなかった。

(こ、これが普通のご令嬢の反応なのね……考えてみれば、経験がないのだから當然だわ)

クラウディアも逆行してから、人のを見た記憶がない。

レステーアがためらいもなくいだので、すぐには気付けなかった。

しかし今更恥じらうのも不自然だ。

だから大丈夫、ということにしましょう!)

令嬢らしくなかったかと焦ったものの、シャーロットはレステーアに釘付けだった。

この場にシルヴェスターがいなかったのが救いだ。

(いっそお風呂にヘレンをって、は見慣れているという事実を作ろうかしら)

そんなことを考えているに、レステーアがボタンを外し終える。

わになった上半は、ほとんどが布で覆われていて気も何もない。

レステーアが恥ずかしがらないわけだ。

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