《斷罪された悪役令嬢は、逆行して完璧な悪を目指す(第三章完結)【書籍化、コミカライズ決定】》34.悪役令嬢は王太子殿下と再會する

余っていたリボンで子貓と戯れていたときだった。

「私がいなくても、ディアは寂しくなさそうだな?」

「シル!?」

れなく姿を見せたシルヴェスターに、慌てて立ち上がる。

本來なら王家の馬車が公爵家の門をくぐった時點で連絡がくるはずだ。

「驚く君の顔が見たかったんだが想定と違ったな。貓を飼いはじめたのか?」

「この子はヘレンの貓です。今日はじめて會って、見せてもらっていたの」

言いながら子貓をヘレンに預ける。

子貓をに抱いたヘレンが壁際に下がるのを、シルヴェスターは橫目で見屆けた。

それからソファに座ろうとするので、咄嗟に待ったをかける。

子貓が遊んでいたソファだ。抜けないといっても、全くないわけじゃない。

テーブルと揃いになっている椅子を薦める。

「お待ちになって! お茶を飲まれるでしょう? こちらへどうぞ」

「ソファに何かあるのか?」

「先程まで子貓がいましたの。今座ったらがついてしまいます」

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「なるほど、私のことを忘れるくらい楽しんでいたのだったな」

「忘れていません!」

束の間、子貓の可さに魅了されていただけだ。

知らせがあればすぐにシルヴェスターを出迎えにいった。

久しぶりの逢瀬はクラウディアも待ちんでいたのだ。

ただちょっと、ほんのちょっと、子貓に気持ちがいっていたのは否定できないけれど。

優先事項は変わらない。

「ふっ、冗談だ。無邪気に子貓と戯れるディアもらしかったよ」

「もう……」

ふわりとした微笑と共に、指の背で頬をでられる。

(いつぶりかしら、こうしてシルをじるのは)

何気ないやり取りが楽しくて、會話できるのが嬉しくて。

溢れる思いに、目元が染まる。

クラウディアも笑顔を返せば、ふと視界がった。

天気のせいではない。

軽い接だったけれど、に余韻が殘る。

「シル、困るわ」

思った以上にか細い聲が出た。

(危ない)

熱がの芯で燻りはじめる。

このままでは黃金の瞳に囚われる気がしてを捩った。

「ディア」

自分を呼ぶ、しっとりとした婚約者の聲。

絶対に目を合わせてはいけないと一歩退く。

けれどびてきた腕から逃げるはなかった――というより、逃げたくなかった。

もっと傍にいたい。

より深く繋がりたいと願ってしまう。

「ディア、私のしいディア」

熱を持った吐息に顔をでられる。

額に落ちるシルヴェスターの髪がくすぐったい。

(ダメだって、わかっているのに)

切ない熱にが焦がれた。

腰へ回された腕の力強さに、を任せたくなる。

シル、そうぐ。

二人の境界線が曖昧になる、正にそのとき。

「シル、今すぐディーから離れろ」

底冷えするほど冷え切った聲に貫かれた。

的にクラウディアは、シルヴェスターのを両手で押し返す。

「お兄様……っ」

足早に近付いてきたヴァージルに腕を引かれた。

しかしシルヴェスターも、クラウディアを解放しようとはしない。

「小舅を呼んだ覚えはないが」

「お前が暴走するのを止めに來てやったというのに何て言い草だ。妹を離せ」

「斷る」

クラウディアの頭越しに壯絶な睨み合いがはじまる。

そんな中、二人に挾まれる形になった當事者の一人は、両手で顔を覆っていた。

(わたくしったら、ヘレンたちが見ている前で何をしようとしていたの!?)

存在を消してはいるが、壁際にはヘレンの他にも侍が待機しているし、シルヴェスターが引き連れてきた護衛騎士たちもいる。

ヴァージルが止めに來なければ彼らの前で起こしていた事態に、赤面せずにはいられない。

「お兄様、助けてくださってありがとうございます」

「ディーはよくわかってるな。ほら、ディーもこう言っているんだ。とっとと離せ!」

「ディア……」

シルヴェスターは裏切りをけたような悲しい表を見せるが、クラウディアもここは引けない。

王太子にとって使用人は空気のようかもしれないけれど、クラウディアにとってヘレンは友人であり心の姉でもあるのだ。

そう簡単に割り切れるものではなかった。

味方を失ったことで、シルヴェスターはしぶしぶ腕の戒めを解く。

けれど完全には離れず、乞うように指先を握られた。

「ディー、このまま同席してやってもいいぞ?」

「いいえ、それは流石に遠慮させてくださいませ」

「そうか……」

若干、我を失ってしまったものの、逢瀬を邪魔されたいわけじゃない。

妹の確固たる拒絶に今度はヴァージルが眉を落とすことになったが、氷の貴公子は空気を読んだ。

無理を通してクラウディアに嫌われたくなかったのだろう。

ヴァージルが去るのを見屆けて、シルヴェスターに著席を促す。

間にテーブルがあれば、間違いは起こらないはずだ。

先程の甘い雰囲気を取り戻すのは難しいと悟ったのか、シルヴェスターも大人しく椅子に腰を下ろした。

離れた溫がしくもあるけれど、指先は握られたままだった。

「ヘレン……は、手が離せないわね。誰か頭がすっきりするお茶を淹れてくれる?」

子貓がいたずらをしないよう、ヘレンは白い玉をに抱えていた。

の熱を忘れるためなら、いっそ渋すぎるお茶でもいいかと思ったとき、シルヴェスターから提案をける。

「ディア、今すぐ結婚しよう」

「無理を言わないでくださいませ」

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