《斷罪された悪役令嬢は、逆行して完璧な悪を目指す(第三章完結)【書籍化、コミカライズ決定】》37.悪役令嬢はを唱える

「君には負けるな」

シルヴェスターは降參と共に、クラウディアの腰を引き寄せた。

橫抱きの形で膝に乗せられてクラウディアは焦る。

「シル!? 重いわよ」

「重くない。ディア、していると言ってくれ」

またあとで、と言われていた文言だろうか。

顔を上げれば、黃金の瞳を彩る睫が艶を帯びていた。

そこへ前髪がかかる様は耽で、しばし見惚れる。

しい人)

のようにらかなは作りものめいて見えるけれど、シルヴェスターにはちゃんとが通っている。

だからこそもっと近付きたいと思う。

(けれど今はダメ)

自分を律する。

己の正義を貫いてこそ、誰かの悪になれるのだ。

クラウディアにとっての正義は、淑であり続けることだった。

(まぁ膝の上に座りながら言っても、説得力なんてないけど)

クラウディアは服越しに伝わる溫にを預け、言葉に気持ちを込める。

「わたくしはシルだけをしているわ」

「もう一度」

「わたくしはシルだけをしてる」

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もう一度、と繰り返されるたび要に応えた。

おかげで何度かは噛みそうになった。

「私もしているよ、ディア」

口付けが頭に落とされる。

そして髪を伝って頬へ。

に到達するのは手で制した。

「いいではないか、悪いになるのだろう?」

「バーリ王國にとってです」

「私にもしぐらい悪くなっていいのではないか?」

ちらりとシルヴェスターの視線が、クラウディアのへ落ちる。

先程抱き締められたが忘れられないらしい。

(早まったかしら)

視線をけて、今日はデコルテが見える裝いだったのを思いだす。

谷間は見えないけれど、これだけ近寄れば素を意識せずにはいられないだろう。

「そうを見るものではありませんわ」

「不躾に見ていたなら謝ろう。……ヴァージルを同行させる。あいつならラウルにも怖じしないだろうからな」

急な話題転換だったが、クラウディアは即座に頷いた。

「はい、わがままを聞いてくださって、ありがとうございます!」

「といっても私の一存で決めていい話ではない。危険はないから父上は反対されないだろうが、君の家族までは説得しないぞ?」

「う……はい、もちろんですわ」

一番の難所は越えられたが、同じくらいの難所があることを失念していた。

(お兄様も許してくれるわよね?)

大丈夫だと信じたい。

ただヘレンと説得するための作戦は練ろうと思った。

とりあえず第一関門は突破したのだから一段落だ。

で下ろしたところでシルヴェスターに背中の髪を梳かれ、そちらへ視線がく。

「できれば直接、ラウル様のお考えを聞きたいのです」

現狀から察せられることも多い。

けれど心の中は本人にしかわからないものだ。

「うむ、ラウルが何を考えているのか、知りたい気持ちは私にもある」

悪い男ではないしな、とシルヴェスターは溜息をつく。

「相手がディアでなければ応援してやったものを」

「あら、想像以上に気心が知れた仲なのですか?」

「今は國外へ追い出したい」

「落ち著いてくださいまし」

これはいけない。手段がバーリ國王と同じになっている。

話題を変えようとして、レステーアが頭に浮かんだ。

元々ラウルと話させたがっていたのは彼だ。思は違うだろうけれど。

「レステーア様からのおいはどうしましょう?」

子寮でおこなわれるお茶會か……何故こちら側の招待客が一人に絞られるのか気になるところだが、あそこなら大丈夫だろう」

先にこちらがラウルと話す機會を設ければ、また出方が変わってくるかもしれない。

レステーアについては、あえて泳がして様子を見ることになった。

「そろそろ下ろしてくださるかしら」

「まだいいだろう?」

「足が痺れてしまいますわよ」

「正當な対価だ」

「もう……」

下心を隠そうともしないシルヴェスターに笑みがれる。

(嫌ではないから始末に負えないわね)

離れがたいのはクラウディアも一緒だけれど、淑であるためにあとしだけにしようと決めたときだった。

ヘレンがぶ。

「あっ、キャンディ! ダメっ!」

今まで大人しくしていた子貓が急に活発化した。

シルヴェスターが來るまではクラウディアと遊んでいたので、疲れていたのかもしれない。

ヘレンの手から逃れた子貓は、一目散にクラウディアへと駆ける。

空いた椅子へ跳び、更にテーブルの上へ。

そこからクラウディアの元に著地するまで一瞬のことだった。

しかし足場となったは、上手く子貓を支えきれず――。

「きゃっ!?」

ずり落ちそうになった子貓は爪を立てて必死にしがみつく。

幸か不幸か、子貓の重はまだ軽く、落下は免れた。

ただその結果、の生地を思い切りずり下げることとなる。

谷間がほとんど出し、クラウディアは咄嗟に片手でシルヴェスターの目を覆った。

「見ないで!」

(こんなの、何てことないはずなのに)

項に熱が走った。

シルヴェスターの目があるだけで顔が火照る。

しい黃金の瞳に、自分のが映っているのかと思うと平常心を保てない。

「いや、私より他を気にするべきだろう!?」

「背を向ければ他の方からは見えませんから!」

言いながら、空いてる手で子貓を抱きかかえる。

もふもふとした手りに癒され、しずつ冷靜さが戻ってきた。

「あぁ、ダメだわ。生地がびてしまったわね」

元を正しても、谷間が覗いてしまう。

「申し訳ありません……!」

泣きそうな表で頭を下げるヘレンに子貓を返し、待機していた侍にストールを持ってきてもらうよう頼む。

寮に戻さず、子貓を部屋に留めていたのはクラウディアの判斷だ。

気にしないようヘレンへ言葉を重ねる。

「驚いたけれど、は引っ掻かれていないし大丈夫よ」

最近、腳力が増しているとも聞いていた。

今回のことは子貓に魅了された自分の落ち度だ。

「そろそろ私の視界も解放してくれないか?」

「ストールが屆くまでお待ちください」

話している間にもストールを手にした侍が視界に映る。

ちゃんと合いや生地の種類を合わせてくれていることに有能さをじた。

「はい、もう大丈夫ですわ」

「とても惜しい時間を過ごした気がする……」

未練がましく注がれる視線に、クラウディアは苦笑するしかない。

「子貓には罰として、毎日魚を食べさせよう」

「シル、見ましたわね?」

すぐに視界を遮ったものの、後手だったのは否めない。

シルヴェスターは穏やかな笑みでとぼける。

「何のことだ。私は罰を定めただけだぞ」

後日、王城から魚が屆けられたことで、クラウディアは確信した。

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