《斷罪された悪役令嬢は、逆行して完璧な悪を目指す(第三章完結)【書籍化、コミカライズ決定】》39.悪役令嬢は畫策する

「ディーには敵わないな」

奇しくもシルヴェスターと似たことを、ヴァージルは口にした。

最初こそ難を示したものの、結果的にラウルと話すことを認めてくれる。

「お兄様も、わたくしが政治に関わることに反対ですか?」

「反対じゃないさ、俺たちは貴族だからな。でも間接的に関わることになるだろう。ディー、俺は心配しているんだ」

そっと頭をでられる。

見上げるヴァージルのつり目からは角が取れ、慈に満ちた眼差しがあった。

「婚約者に定したからといって、無理をする必要はないんだぞ」

「無理はしていません。それに話をするだけですわ」

報を聞き出すんだろう? 立派な諜報行為だ。後ろめたさが負擔になっていないか?」

ないとは言い切れない。

けれどシルヴェスターも、ヴァージルもし過保護な気がした。

(二人とも、わたくしの娼婦時代を知らないものね)

娼婦はでお金を稼ぐ。

日々神が耗していた頃を思えば、この程度の負擔は微々たるものだ。

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そう思うのに、頭をでる優しい手にが熱くなる。

心配してくれるのが嬉しかった。

(みんなが幸せになれる方法があればいいのに)

誰も傷付かず、悲しまないような。

けれど現実が甘くないことはに染みて知っていた。

だからこそ最小限の傷で済むようにしたい。

(わたくしの手は小さいわ)

摑めるもののなんとないことか。

(でもわたくしには、手を握り返してくれる相手がいる)

頼れる人がいる。

目を閉じれば、んな人の顔が浮かんだ。

そして目を開ければ、自分と同じ青い瞳とかち合う。

「大丈夫ですわ。わたくしにはお兄様がいますから」

一人ではないことが、何よりも心強かった。

◆◆◆◆◆◆

シルヴェスターが設けてくれた場は、長期休暇中の學園だった。

表向きはリンジー公爵家が、學園の案を王城から仰せつかったことになっている。

クラウディアがお茶會で功を収めたのもあり、接待役として他からも異論は出なかった。

ラウルだけではなく留學する令息令嬢も一緒なので、休暇中にもかかわらず學園のエントランスはそこそこの賑わいを見せている。

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中には、もちろんレステーアの姿もあった。

バーリ王國の一団を學園のエントランスで出迎えるのは、クラウディアとヴァージルだ。

「オウラー、ようこそおいでくださいました」

格式張った場ではないので気軽な挨拶を選択する。

バーリ王國側からも口々に「オウラー」が返ってきて、クラウディアの顔も自然と綻んだ。

この短い挨拶だけで仲良くなったようにじられるのだから不思議だ。

相手も同じなのか、ラウルが満面の笑みを見せる。

「オウラー、同じ制服姿でもクラウディアは大のバラのようだ。実は花の霊なんだろ? きみだけの花園へ、オレをってくれないかな」

「お褒めにあずかり栄ですわ。ラウル様もとても良くお似合いでしてよ」

しでも學園の雰囲気を味わってもらおうと、今日はお互い制服姿だった。

顔を合わせるなり甘い聲が屆けられるが、じてはいられない。

基本的にラウルは分け隔てなくを褒めた。

(だからお兄様もお気になさらないで……!)

隣に立つヴァージルから妹を口説くな、と冷気が漂う。クラウディアだから気付ける程度のものだったが。

しかしそれもラウルの次の言葉で霧散した。

「リンジー公爵令息と並び立つ姿は、絵に殘したいくらいだ。二人を結ぶ強い絆が、一対の寶石のように輝いて見える」

「有り難きお言葉を頂戴し、恐悅至極に存じます」

「そう畏まってくれなくていい。學園では分を超えた流が推奨されているんだろう?」

「自分は卒業したです」

「オレが後輩になることに変わりはない。堅苦しいのは苦手なんだ。リンジー公爵令息もラウルと名前で呼んでくれ」

「では俺のこともヴァージルと。後悔しても知りませんよ? 俺のお小言はうるさいそうですから」

(トリスタン様の意見かしら)

の同級生が頭に浮かぶ。

王都へ帰ってから、ルイーゼと連絡は取っているのか気になるところだ。

幾分対応が砕けたヴァージルに、ラウルは寶を見つけたように笑った。きらきらと瞳が輝いている。

(この笑顔にみんな絆されるのよね)

特に男へは素であるから質が悪い。

相手とは違い、構える必要がないからだろう。

シルヴェスターは穏やかな表を保つが、ラウルはじたままに表をころころ変えた。

もちろん作為的なときもあるけれど、ラウルは裏表のない人間だ。

「お小言については、ぼくからもお願いします。ラウルにはいくら言っても足りないので」

レステーアが軽く頭を下げ、青い髪をさらりと靡かせる。

用の制服が似合い過ぎていて貴公子にしか見えない。

「心得ました」

「そこは忖度してくれないか?」

軽口の応酬に、早くも和気藹々とした雰囲気が漂う。

學園の案をはじめれば、引率するヴァージルが堂にっていた。

「流石は元生徒會長だな。今期はシルヴェスターが務めるのか?」

「はい、本來は三年生が務める予定だったのですけど」

昨年の終わりに生徒會長を決める投票がおこなわれていた。

しかし急遽ラウルの留學が決まったことで、人事は覆された。

「あぁ、オレのせいか」

「當人は諸手を挙げて喜んだそうですわ。いくら學園だけとはいえ、シルヴェスター様の上に立つ自信はなかったようです」

気にせずシルヴェスターを使えるのは、ヴァージルくらいだろう。

「確かにあいつを従えるのは骨が折れそうだな」

打ち合わせ通り、ヴァージルの引率で令息令嬢たちの一団が先行していく。

クラウディアはゆったりとした歩調を保ち、一団と間隔を空けていった。

ラウルの側を離れなかったレステーアも、クラウディアが目配せすると先頭集団に合流する。

先にラウルと話すよう提案してきた手前、彼が斷れないのはわかっていた。

程なくしてクラウディアは、ラウルとの空間を確保する。

後方には護衛騎士が隨行しているものの、話している容まではわからない距離だ。

(注意すべきは、シルが付けてくれた影ね。口元を曬さなければ大丈夫かしら)

危険がないとわかりつつも、王家からは一人影が派遣されていた。

、諜報を得意とする彼らは、口のきから発言を読むことができる。

クラウディアには、シルヴェスターにも見せられないカードがあった。

言わずもがな、娼婦時代に仕れた報だ。

(ルイーゼとお揃いの扇があって良かったわ)

プレゼントされてから、クラウディアも頻繁に扇を手にするようになった。

今なら扇で口元を隠しても、特別変には思われないだろう。

ちらりと隣を歩くラウルを窺う。

歩調を合わせてくれている彼も、クラウディアが意図的に他と距離を取っているのはわかっているはずだ。

(もうし詰められるわね)

腕をばしきってラウルに辛うじて屆くかどうか。

隣で會話するには遠い気がした。

「右手に見える……あっ、ごめんなさい」

するフリで一気に距離をめる。

ぶつかりそうになったところでを引き、更に半歩分だけ離れた。

甘え上手な令嬢なら、そのまま抱きとめてもらう場面だ。

「まだ離れたほうがいいかしら?」

「い、いや、クラウディアなら大丈夫だ。気を使わせて悪いな」

ダークブラウンの瞳が僅かに揺れる。

彷徨う視線に嫌悪ではなく照れを読みとって、クラウディアは微笑みを返した。

「苦手なものは、どうしようもありませんもの」

ラウルはびるが嫌いだ。

好意を抱かれていると知りつつも、それに甘えてはいけない。

理的にも、神的にも押しては引くのが肝心)

程良く揺れき、相手が食いつくのを待つ。

貴族令息が狩猟を嗜むことからもわかるように、男には狩猟本能があると娼館では習う。

だから揺れるもの、くものに目を奪われるのだと。

加えて黒いものがくと注意を引きやすい。

潛伏する兵士は、それを理由に黒い裝備を避けるほどだ。

(クセのある黒髪に生んでくれた両親には謝しないとね)

そっと黒髪を耳にかけ、艶のある先を揺らす。

ハーフアップにした髪を長いリボンで留めているのも計算のだった。

ラウルと目が合えば、はにかんで見せる。

(わざとらしくならないよう、あくまで控えめに)

クラウディアの娼館仕込みの心理戦は、まだはじまったばかりだ。

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