《斷罪された悪役令嬢は、逆行して完璧な悪を目指す(第三章完結)【書籍化、コミカライズ決定】》33.悪役令嬢は走る

日暮れにはホテルへ戻っていたクラウディアだが、外が真っ暗になってもシルヴェスターとは會えなかった。

定期的に連絡は取り合っているものの、顔を合わせる機會に恵まれない。

々にことを済ませられるよう、スラフィムと協議を重ねているからだった。

事件が表沙汰になれば國際問題に発展するため、対応には慎重を期する。

忙しくしているところに、個人的な用件では伺えない。

ヘレンと二人でナイジェル樞機卿の申し出について考えていると、ホテルから訪問者があると連絡がる。

風貌と名前を聞いたクラウディアは訪問を快諾した。

ロビーへ降りると、そばかすが目立つが待っていた。

サニーの浮かない顔に、嫌な予を覚える。

「ケイラお姉様からの伝言です。こう言えば伝わると伺ったんですけど……」

〈島に咲く希な花が善き人の手に渡ろうとしています〉

隠喩は娼館でよく用いられる表現だ。

ローズなら理解できるとケイラは踏んだのだろう。

Advertisement

知らせを聞いたクラウディアは、すぐさまスラフィムの居場所を確認する。

「まだ協議中かしら? シルへも使いを出して!」

前の連絡では一緒にいるはずだが、現狀はわからない。

普段通りなら、そろそろ夕食の時間だった。

食事前に祈禱する習慣のあるスラフィムが、別行を取っていることも考えられる。

(ダメ、待っている時間はないわ)

ホテルの祈禱室へ護衛を引き連れて走る。

(やっぱり樞機卿は、ケイラお姉様の顧客だったのね!)

そして犯罪ギルドとも繋がりがある。

でなければ、わざわざケイラがサニーを寄越すはずがない。

スラフィムの危険を察し、知らせてくれたのだ。

な花、善き人は、それぞれスラフィムとナイジェル樞機卿に他ならなかった。

祈禱室の前で待つスラフィムの護衛を見つけ、冷や汗が背中を伝う。

シルヴェスターとの協議は、一段落ついているようだった。

スラフィムが一人でいる事実に心臓が早鐘を打つ。

「祈禱中に室るのはご遠慮ください!」

「危険が迫っているかもしれないのよ!」

止められるのを無視して強行した。

先に自分の護衛がり安全を確かめるが、気が急いてばずにはいられない。

「スラフィム殿下!」

部屋には上半のスラフィムが一人でいた。

どうやらそれが祈禱中の裝いらしい。

腹部に痣があるが、平然と立っているところを見ると影響はなさそうだ。

「ご無事ですか!?」

「あいつは無事だよ。まさかあんたが來るとはな」

ぶっきら棒な返答にクラウディアは固まる。

目の前にいるのはスラフィムではなかった。フードの男だ。

男はちょっと待ってろと言うなり、祈禱室の壁に手をかける。

「こんだけ大騒ぎしてたら、暗殺どころじゃねぇだろ」

「そうですね、クラウディア嬢が來られるなんて自分も予想外でした」

壁は、ただの壁であるはずだった。

しかし取っ手もないのに一部が開き、中からスラフィムが姿を見せる。

「祈禱中の襲撃に備え、この部屋は二重構造になっているんです。ご心配をおかけして申し訳ありませんでした」

「い、いえ、ご無事なら良かったですわ。……もしかして余計なことをしたかしら?」

同じ格好の二人が並ぶと鏡映しのようだった。

しそうになるが、二人の態度が対照的なおかげで間違えずに済む。

それよりも新たな懸念が発生していた。

フードの男が囮になって暗殺者を捕まえようとしていたのではないか、ということだ。

自分が現れたことで、準備が水の泡となったのではと焦る。

「大丈夫ですよ。念のためルキには影武者役をお願いしていただけですから」

「肩が凝って仕方ねぇ」

「このまま本當に影武者になってくれたら嬉しいんだが」

「斷る」

即答されたスラフィムは殘念だと寂しそうな表を浮かべる。

けれどすぐに切替え、クラウディアには笑顔を見せた。

「事を説明させていただきます。人払いをお願いできますか?」

斷る理由はなく、護衛には部屋の前で待機してもらう。

貴族の慣例に従い、扉が完全に閉められることはなかった。

「まず紹介させていただきますね、こちらはルキ。自分の腹違いの弟です」

「腹違い、なのですか?」

母親が違うなら、雙子ではないということだ。

全く同じ容姿だと言っても通じる二人であるため、にわかには信じ難い。

「驚かれるのも當然です。自分もはじめて見たときは、鏡に殺されるのかと思いましたから」

「おれは幽霊でも見ている気分だったがな」

ルキは、現國王の落し胤だった。

昔ハーランド王國へ滯在中、一夜を共にした相手がいたらしい。

年は同じだという。

「スラフィムが樞機卿に狙われたのは、これがはじめてじゃない。過去にも一度命令が下って、おれが派遣された」

暗殺に向かった先で、ルキは自分の出生を知ることになった。

そしてルキとスラフィムは協力し合うことを決めた。

暗殺は失敗したことにし、ルキも返り討ちにあったとナイジェル樞機卿へは説明された。

「ドラグーンも協力しているのですね?」

現在ルキはベゼルと行を共にしている。

二人だけで終わる話でないのは明白だ。

    人が読んでいる<斷罪された悪役令嬢は、逆行して完璧な悪女を目指す(第三章完結)【書籍化、コミカライズ決定】>
      クローズメッセージ
      あなたも好きかも
      以下のインストール済みアプリから「楽しむ小説」にアクセスできます
      サインアップのための5800コイン、毎日580コイン。
      最もホットな小説を時間内に更新してください! プッシュして読むために購読してください! 大規模な図書館からの正確な推薦!
      2 次にタップします【ホーム画面に追加】
      1クリックしてください