《斷罪された悪役令嬢は、逆行して完璧な悪を目指す(第三章完結)【書籍化、コミカライズ決定】》35.暗殺者は奔走する
いつだって地下の拠點は鬱だ。
が屆かないから仕方ないのかもしれないが。
(おれにはお似合いかもな)
住めば都。
姿を隠したいルキにとって、地下の拠點は文句があっても手放せなかった。
「いいか、無茶だけはするなよ。お前がギルドのことを考えてくれてるのはわかるが……」
「ちゃんとフードを被っとくから大丈夫だって」
育ての親なのもあってベゼルは心配を隠さない。
暗殺に失敗したルキが、隠れて生きるようになってからは拍車がかかった。
幸いナイジェル樞機卿にルキの顔はバレていない。
ルキがずっとフードで顔を隠しているのもあるが、犯罪ギルドのいち構員に彼は興味を持たなかった。
(無駄に整い過ぎなんだよ、この顔は)
フードを被るのはい頃からの習慣だった。
顔が良いとそれだけで危険が増す。
(変態が際限なく湧いてくるおかげで、殺しは上手くなったけどよ)
を守るためには、襲ってくる相手を殺すしかなかった。
暗殺を生業にできるほどになったのは何の皮か。
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心ついたときには親はなく、ルキの記憶はベゼルに拾われるところからはじまっている。
子どもの頃は、自分の顔を何度傷つけようとしたかわからない。
(そのたびにベゼルに止められんだよな)
あの図で可いもの好きだからだろう。
ベゼルは趣味だった。今でもよく隠れて娼婦たちと盛り上がっている。
(ぬいぐるみもよく渡されたもんだ)
そして渡されたぬいぐるみは、しばらくすると決まって消失した。
ルキが興味を持てず放置すると、ベゼルが回収するのだ。
枕元に飾ってあるのを見たときは呆れたものである。
ぬいぐるみを買う口実に使われていたとわかったからだ。
それからは祝い事があるたびに、ルキから贈っている。
口には出さないが、ルキにとってベゼルは正真正銘、家族だった。
の繋がりなんて関係ない。
ルキに限らず、貧民街ではみんなそうだ。
互いに守り合って生きている。
(だってのに、あのクソやろう……!)
ナイジェル樞機卿に家族を人質に取られた。
見せしめに殺された者もいる。
、子どもだろうがお構いなしだった。
それでいて表では善人として通っているのだから、この世界は狂っている。
自の手で殺してやりたかった。
けれどナイジェル樞機卿の守りは堅く、我がに何かあれば貧民街を焼き払うと脅されれば手も足も出ない。
(スラフィムは肝心なときに使えねぇし)
暗殺に出向いた先で出會った腹違いの兄。
そっくりな顔が薄気味悪くて仕方なかった。
手を組むことになったものの、ルキが優先する家族は変わらずベゼルで、貧民街の者たちだ。
スラフィムは権力者だが住む國が違う。
人質を解放できない限り、ルキたちはナイジェル樞機卿に支配されるしかない。
狀況を打開するには現地で味方を探すしかなかった。
どれだけルキたちが訴えたところで、犯罪者の証言など聞きれてもらえない。
スラフィムとは別に権力を持った味方がいる。
そこへ現れたのがローズだった。
男裝の貴婦人。
娼館で悪質な客を退治した彼の評判は、今はフラワーベッド以外の娼館にも広がっている。
ルキは娼婦と近なわけではないが、フラワーベッドの最古參であるミラージュには何度か遊んでもらった記憶がある。ミラージュは貧民街の出だった。
(ミラージュの姉貴が心酔してるってどんだけだよ)
ベゼル曰く、すっかり骨抜きにされているという。
見た目に限らず、人となりも魅力的らしい。
(公爵家なら権力も申し分ねぇな)
何せ王家に次ぐ権力者だ。
ローズがリンジー公爵家と縁があることは、娼館のオーナーから報されていた。
ちょうどしていた現地での味方。
話を聞く限りローズは娼館の環境を危懼していた。出資額以上に環境を改善することを條件に話をつけられないか。
話を持ちかける余地はあると、ルキはローズを見つけるため奔走した。
しかし男裝の貴婦人の影はどこにも見當たらない。
裏社會の報網を駆使してもだ。
ルキにはローズが霞と消えてしまったように思えた。
明を見たのは、ステッキについて報を得たときだ。
リンジー公爵家がステッキを買っていたという。當主かもしれないし、嫡男かもしれない。
自分で使うのではなく、プレゼントという可能もある。
ルキはその可能を片っ端から潰していき、最後にクラウディアが購したことを突き止めた。
まさかと自分の推測を疑った。
けれど他に候補者が挙がらない。
ローズの膽力、立ち振る舞いは貴族そのものだったと聞いている。
ルキは、クラウディアがローズその人だと答えを出した。
(仲間にできたら心強ぇんだけどなぁ)
正がわかったとて、すぐに渉とはいかない。
ハーランド王國の人間は、基本的に唯一神信仰の教徒だ。
信仰の度合いによってはルキたちの敵になる。
確信が持てるまで、接は控えねばならなかった。
ベゼルがケイラに付いてアラカネル連合王國へ赴いたのは、ナイジェル樞機卿から出來うる限り彼を守るためだが、ルキはクラウディアを探るためだった。
商館を手にれた彼がどうくのか、ナイジェル樞機卿との関係はどうなのか。
確証は得られなかったけれどナイジェル樞機卿の目論見を知ると黙ってはいられず、一縷のみをかけて警告しに行った。
警告をどうとらえるかも見たかった。
まさか一発でスラフィムではないと見破られるとは。
「そうとも、穏やかじゃない! おれが顔を出すのも結構危ないんだぜ? だからこそ忠告しに來た。あんたにはまだ倒れてしくないからな」
言いたいことだけ言って、その場を辭したが笑いを堪えられない。
「はははっ、どんだけ察力があったら見抜けるんだよ」
シルヴェスターならまだしも、クラウディアがスラフィムと會った回數は片手で足りる。
何せこの間が初対面だ。
味方に付けたいが、敵にも回したくないと思う。
クラウディアにケイラが助けられる場面は痛快だった。
(警ら隊の逃げっぷりったらねぇな)
娼婦たちが魅了されるわけである。彼たちは守られることに慣れていない。
自分と同じく、娼婦も自分のは自分で守らねばならなかった。
(おもしれぇの)
クラウディアを知るたび、興味が盡きない。
今度は何をしてくれるのかと期待にがわくわくする。
クラウディアが単獨でいているということは、このあと商館へ向かうつもりだろう。
そちらを覗いてみようとベゼルたちとは別行を取った。
一人路地を進んでいたとき、どこからともなく當たりを食らう。
「この……っ」
腹に衝撃が走り、視界で星が散った。
フードを被り、影に隠れて生きてきた。
どれだけ上機嫌になろうとも警戒を怠ったことはない。
隙を見せれば、すぐそこに死が待ちけているのが日常だった。
だというのに、急所を突かれたのか意識が遠のいていく。
(しくった……)
暗くなる視界に、ルキは死を覚悟した。
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