《斷罪された悪役令嬢は、逆行して完璧な悪を目指す(第三章完結)【書籍化、コミカライズ決定】》36.暗殺者は痛みと引き換えに明を見る

意識が戻ったのは、息苦しさをじたからだった。

「ごほっ、ごほ……!」

藻掻くものの、の自由は利かない。

後頭部を押さえ付ける手に、眼前には水が張られた桶。

どうやら水に頭を沈められていたらしい。

「もうちょっと、優しく、起こせねぇのかよ……っ」

まだ息があるのは朗報だが、拷問は嫌だ。

視界がはっきりしはじめ、汚れ一つない綺麗な靴先が目にとまる。

(もう一人いるのか)

一対二では分が悪い。両腕を拘束されているとなれば尚更だった。

両膝を地面につけるルキに対し、正面にいる人は椅子に座っていた。

見上げた先で肝が冷える。

黃金の瞳に、息のを止められた気がした。

の気が引き、寒くもないのにがガタガタと震える。

「ドラグーンが彼に何の用だ?」

(くっそ怖ぇええええええ!)

夏であることを忘れてしまいそうなほど、シルヴェスターの視線は冷え切っていた。

恐ろしいほど整った容姿が恐怖に拍車をかける。

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ルキがシルヴェスターを見たのはこれがはじめてだが、目の前の青年が自國の王太子であることは直でわかった。

(スラフィムも怖いって言うわけだ)

シルヴェスターと同じ分であるスラフィムですら、ハーランド王家の怖さを語っていた。

言い逃れできる雰囲気は微塵もない。

噓を言えば、この場で殺されるだろう。

(正直に話しても殺されそうだけどな!)

犯罪者の証言が信じてもらえないことは承知していた。

生殺與奪の権利がシルヴェスターにあることも。

半ば死を覚悟したやけっぱちでルキは事を話す。

彼にしてみればクラウディアを守るための行で、後ろめたいことは何一つやっていないのだ。

「考えてもみろ、おれが暗殺者だったら今頃――」

続きは言えなかった。

元にシルヴェスターが抜いた剣先が當たる。

濡れた髪から滴る水が目にっても、気にしていられない。

目を閉じた瞬間、死ぬ。ルキは本気でそう思った。

「次に余計なことを言えば、貴様の命はないと思え」

単調な聲音であったものの、心臓を凍らすには十分で。

吐く息さえ白くなったような錯覚を覚える。

しかし次の瞬間には、押さえ付けられていた頭部の圧迫がなくなった。

元にあった刃も納められ、解放される。

(もしかしてワンチャンあるのか?)

生き殘れる可能が。

覚で監視されているのはわかった。

それでも路地へ出てを焼くような日差しを全けた瞬間、心から安堵する。

凍てついた溫が戻ると、ルキはその場でしゃがみ込みたくなった。

(生きてる。おれは、まだ生きてる)

生かされた理由はわからない。

言い分が認められたのか、まだ利用価値があると思われたのか。

(この顔が、助けてくれたのか?)

今まで邪魔でしかなかった顔。

シルヴェスターにしてみれば、よく知った顔だ。

スラフィムとの繋がりも気付かれているだろう。

命を繋げられた安心で力が抜けそうになるが、時間を無駄にはしていられない。

むしろ捕まっていたことで、どれだけ時間を浪費しただろう。

幸い日差しはまだ高い。

ルキはナイジェル樞機卿の向を探るべく走り出した。

ベゼルとに連絡を取り合いながら、祈禱室でスラフィムとれ替わる。

ナイジェル樞機卿がクラウディアと會っていたことも聞いたので気にはなるが、直近の危機が最優先だ。

今回、これだけの人員をかしているナイジェル樞機卿が、王城ではなく港町に滯在しているスラフィムを狙わない理由はなかった。

(つっても、シルヴェスター殿下まで狙ったのはやり過ぎだろ)

実行犯は現地の犯罪ギルドで、あくまでシルヴェスターが襲われたという構図だけが必要だったとしても。

今でも見下ろされたときの瞳を思いだすと背筋が凍る。

に震えが蘇り、慌てて腕をった。

そこへクラウディアがやって來る。

「スラフィム殿下! ご無事ですか!?」

このときばかりはルキも、きまぐれな神様に祈りたくなった。

(スラフィムを守りに來たってことは……!)

は味方たり得る。

なくとも唯一神信仰の狂信的な教徒ではない。

ルキは自分の顔が綻ぶのを自覚した。

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