《斷罪された悪役令嬢は、逆行して完璧な悪を目指す(第三章完結)【書籍化、コミカライズ決定】》48.悪役令嬢は宣言する
22/01/29演説容を改稿しました。
今日集まったのは王都中心部で活する構員だけだ。
それも主要メンバーだけだったが、人數は五十を超えた。
広い倉庫とはいえ、これだけの人數が一室に集まれば窮屈そうに見える。
中には肩がぶつかって睨み合う者もいたが、誰一人としてクラウディアには剣呑な視線を送らなかった。
荒くれ者を代表する者たちが大人しく跪いている景に、ルキがほらな、と笑う。
「みんな姉に謝してるんだ」
謝されるようなことなどあっただろうかと、クラウディアはここへ至る経緯を振り返る。
シルヴェスターが修道者たちを検挙した折、結託していたとされるドラグーンにも捜査の手がびた。
貧民街にいる家族を人質に取られていたことで彼らには狀酌量の余地が與えられたが、無罪放免とまではいかず。
個人の罪を問わない代わりに、組織としての弱化が求められた。
ナイジェル樞機卿が関與した証拠こそ得られなかったが、裏で繋がっている組織を合わせると國が把握している以上に力を持っていることが判明したからだ。
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まず手始めに、ドラグーンの資金源となっている娼館が解される運びとなった。
しかしただ解したところで別の犯罪ギルドが運営するだけである。それも今度は摘発されないよう隠れて営業される可能が高い。
そこで、潛まれるよりは日の當たる場所にあったほうが管理しやすいと、公娼が設立される運びとなった。
國が管理すれば衛生も保たれるし、犯罪ギルドの資金源にもならない。
議會での反発は皆無に等しかった。
事前にクラウディアがいたのは言うまでもない。
娼婦たちも自分と同じであると訴え、公爵家を通して公娼設立への支援金も寄付した。
今後商館の売上げはそちらへ回される予定だ。
クラウディアが寄付したことで考えに賛同する貴族からも寄付が集まり、初の資金は確保できた。
加えてドラグーンはトップの引退を余儀なくされたが、あまり力を削ぎ過ぎると別の犯罪ギルドが臺頭しかねない。それでは國が長年必要悪としてドラグーンを黙認してきた意味がなかった。
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議論が重ねられ、國は監査役として政府の息がかかった者を新たなトップとして派遣することを決めた。
ベゼルはドラグーンのトップから退くことになるが、運用は引き続きおこなう形だ。
白羽の矢を立てられたのは、リンジー公爵家と縁があるとされるローズだった。
ここではクラウディアの意見を取りれたシルヴェスターが裏で手を回した。
(シルは反対するかと思ったけれど)
顔を見せないこと、影を連れていくのを條件に、ローズとして活することを許してくれたのだ。
ちなみにローズの設定は、さも新しく考えた風を裝い、娼館へ行ったのは伏せたままだ。
ベゼルとルキも、これで第三者から脅かされずに済むならと話を呑んだ。
けれどもうドラグーンを続けることは葉わない。
今回の摘発をけて、世間的にドラグーンはなくなったと思わせる必要があるからだ。
そのためクラウディアはローズとして新しい犯罪ギルドを作り、トップとして就任することとなった。
構員から反発が噴出して當然だろう。
彼らにとってローズは部外者でしかないのだから。
だというのに、彼らはローズへ向けて頭を垂れる。
驚いている雰囲気を察したのか、ルキが楽しそうに笑いながら説明する。
「姉がいなかったら、おれらは今もあいつに支配されてた」
きっかけはローズが娼館フラワーベッドを訪れたこと。
ローズが現れなければ、ルキは未だ味方を探し続けていた。
スラフィムがドラグーンとの繋がりをシルヴェスターへ打ち明けても、クラウディアの介在がなければ処遇がどうなっていたかわからない。
味方になってくれる確証がなければ、ルキ――ドラグーン――も詳細な報を渡さなかった。ナイジェル樞機卿と通じていたら一巻の終わりだからだ。
「それこそ誰かわからねぇやつがトップとして派遣されたら暴が起きてたさ」
人となりがわかるローズだからこそ、構員たちはけれたのだという。
貧民街出のミラージュをはじめ、フラワーベッドの娼婦たち全員がローズは信用できると保証したのも大きかった。
ルキが視線を投げた先には、ケイラだけでなくミラージュ、マリアンヌと娼婦たちの姿もある。
(お姉様たちも期待してくださっているのね)
ローズがトップになることを。
不安がないわけではない。
犯罪ギルドは、地域著型の犯罪組織だ。
ドラグーンは數あるの一つに過ぎず、別の犯罪ギルドが縄張りを侵せば抗爭にだって発展する。
娼婦だった記憶があるとはいえ、上手く立ち回れる自信はない。
けれど。
(大丈夫、わたくしは一人じゃないもの)
傍にいるヘレンを筆頭に、いつだって自分を思ってくれている人がいる。
眼前で頭を垂れる構員たちだって、みんな仲間になるのだ。
かつての先輩娼婦たちの姿に、改めて気合いがる。
ルキはクラウディアへ頷き、言葉に力を込めた。
「ローズの姉がいなきゃはじまらなかった。こうして誰も欠けることなく新制へ移れるのも姉のおかげだ。おれたちは法を犯しても、けた恩は一生忘れねぇ」
はっきりと告げられる。
跪く構員たちからも頷きが返ってきた。
誰よりも絆を、家族を大事にする人たち。
犯罪に手を染めていても、その一點だけは違わない。
ヘレンが歩み出て、クラウディアを促す。
「みなさん、ローズ様のお言葉をお待ちです」
頷きで答えたクラウディアはステッキを手に立ち上がる。
まだ犯罪ギルドの雰囲気には慣れないけれど、ここが理想への足がかりであるのは確かだった。
ならば、しっかりと地に足をつけようと決意を固める。
全ては未來のため。
一歩前へ踏み出す。
ランタンがレンガの壁をオレンジに照らしていた。
大勢が一か所に集まっているのもあり、熱気でが汗ばんでくる。
けれどを包むのは不快ではなく、高揚だった。
軽くステッキを持ち上げ、コツッと音を鳴らす。
「ここから新しい時代がはじまる」
靜寂の中、低く落ち著いた聲が壁へ吸い込まれる。
トーク帽から垂れる黒のレースで顔は見えなくとも、その場にいる者たちは目の前に立つ男裝の麗人から放たれる覇気をじていた。
どこからともなく唾を飲み込む音が聞こえる。
「樞機卿の支配でみなが辛い経験をしただろう。心に傷ができた者は、まだ乗り越えるのも難しいと思う」
でも、だからこそ。
青い瞳はを湛える。
「私がみなの希となる。我々で新たな時代を築くのだ!」
目標の設定は前を向くための足がかりになる。
そしてこれは単なる世代代ではない。
パラダイムシフト。
価値観や認識を劇的に変化させる良い機會だった。
犯罪に手を染めるしかなかった人々へ、新風をもたらす。
「肝に銘じよ! げられた時代は終わった! 今度は樞機卿でなく我々が國に必要とされる番だ!」
必要悪を超えた存在へ、たかだか王都から北東部を支配する犯罪ギルドで終わらせない。
ドラグーンも自分と一緒に新たな一歩を踏み出すのだ。
すぐに全てを刷新することは難しい。
それでも人は変われる。
逆行前のクラウディアも娼館で人生を學び、考えを改められた。
(あなたたちにも、わたくしの獨善に付き合ってもらうわ)
だとしても彼らに全てを押し付けたりはしない。
「社會で最下層に位置付けられようとも、卑屈になる必要はないと私が証明する! 私は決して足を止めない。逃げない。立ちはだかる敵は潰す! そして守るべき者たちの盾となろう!」
もう二度と、構員の家族たちが被害に遭わないように。
支援をけるべき弱者が傷付けられないように。
「ここに新生犯罪ギルド『ローズガーデン』の樹立を宣言する! 忘れるな、私と共にあることを! そなたらの家族は、私の家族でもあることを! 刮目せよ、今、ここから、新時代がはじまるのだ!」
風が吹いていた。
地下に窓はないはずなのに、ローズを見上げる者たちは確かに新しい風をじていた。
これからはその風の中心に自分たちがなるのだと信じて疑わない。
宣言を理解した者が拳を上げ、咆哮する。
怒號にもじられる聲は、全てを飲み込む奔流の音にも似ていた。
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