自室で一人機に向かい、リシェルは地図を見ながら思案を重ねていた。

リシェルには自由にかせる手駒がない。

資金援助をしてくれるマルクと、リシェルを守ってくれるシークがいるが、実際にいてくれる人間がいないのだ。

これだけではまだ手持ちの駒が足りない。

もっと手足となっていてくれる戦力を手にれないと。

末端の戦力は分を隠し金銭で雇えばいい。

けれど、もっと自分側でいてくれる戦力。

それも裏切らない、駒。

リシェルには一つだけ思い當たるものがあった。

確か逆行前では今の時期、名の知れた暗殺ギルドで派閥爭いがおきているはずだ。

ギルドの當主の死亡により、派閥が二つに別れ、敗れた派閥の殘黨がラムディティア領に逃げ込んできているはず。

未來では結局は捕まり皆元の國に強制送還され処刑されたはずだが……。

もし、彼らをリシェルの手駒にできたなら――。

暗殺者ギルドは一度主と認めたものには最後まで忠誠を盡くす。

だからこそ、主が死んだ場合、崩壊しやすい組織でもあるが味方につければ心強い。

逆行前。事件が全て片付いた後。

リシェルは父の書類を見た事がある。

事件の経緯。捕まった暗殺者達の潛伏場所などはすべて記憶してあった。

実際、自分でも頭の廻るほうだとは思っていない。

リシェルにある武は逆行前の記憶と闘う意志のみ。

けれど先を知るということはそれだけで最大の武のはず。

－－必ず彼らを私の駒にしてみせましょう－－

次々と首を切られ死んでいく大事な人たちを思い浮かべ、リシェルは誓う。

リシェルが逃げたばかりに死んでいった人たち。

今世でも何もせず、リシェルが他國に逃げられて現実から逃げたとしても、あの橫暴な王子の事だ。

リシェルのいるいないに関わらず意に沿わない意見を言うものを殺していくだろう。

それならば。もう二度とあのような事のないように。

私は全力をつくしましょう。

たとえどんな手段を使ってでも。

□■□

「あなたたちを全員引き取りたい」

そう言って小さな薬草売りの店に現れたのは一人のとそれを護衛する男だった。

なりは小金もちの商家の娘とその従者というじだが、の方は歩き方やその仕草からかなり高位の貴族だと知れた。

「何の事でしょうか？」

ニコニコと、その店の店主ジャミルは応える。

茶髪の気の良さそうな青年だ。

街中にある小さな薬屋で、突然訪ねてきたがそう切り出したのだ。

一何をフザケた事を言っているのか。

ジャミルは不機嫌にはなったが商売なのでニコニコと想のいい笑みを浮かべる。

「アクラ・ペル・シャーク」

の一言でジャミルは心で舌打ちする。

ジャミルは暗殺者ギルドの元役職者だ。

それくらいで表を変えるわけもない。

けれど、このが言った言葉は……暗殺者ギルド「紅蓮の炎」が分裂し、派閥爭いに破れジャミル達が新たに作り出した暗殺者ギルド「黃昏の槍」の合い言葉の一つである。

最近出來たばかりの言葉で、まだ知る者はごく一部だった。

と、いうのもジャミル達は紅蓮の炎から離はしたが誰が裏切り者で誰が味方かそれを判別している段階だった。

現紅蓮の炎幹部に不満を持つものは多くいる。

紅蓮の炎の當主が殺された理由となった、貴族の下で働こうと言い出したからだ。

不満を持つものが多いのは確かだが――圧倒的な経済力でギルドを牛耳っているのも事実。

下手にくるものを全員招きいれれば、紅蓮の炎の幹部達が偵を紛れこませてくる。

彼らは必ず邪魔な自分たちを潰しにくるだろう。

このも幹部連中の差し金だろうか？

「何の事でしょうか？」

「私は未來が見えます。

明日。クレンダル地方で大きな地震が起こります。

クレンダル地方の都市部は無事ですが古代跡などは被害をけることになるでしょう」

「お客様おっしゃっている意味が……」

「１０日後。また來ます。

その時に詳細をお話ししましょう。

くれぐれもこちらに追っ手を付けるなどということはしないように。

もし付けてくるものがいれば容赦なく殺します。

それでは」

そう言ってはそのまま店を出る。

追いかけて居場所を突き止めてやろうかとも思ったが、護衛する者ののこなしからいってかなりの手練だろう。

ジャミルは毒殺などを得意とする暗殺者だ。

恐らく返り討ちに遭う可能が高い。

しかも１０日後にまた來る？

それはこちらに準備期間を與えることになる。

罠か？紅蓮の炎の幹部達の差し金だとしたら厄介だ。

名も顔も変え、死人の経歴まで奪ってなり変わったのにこちらに気づいた事になる。

あのは囮で警戒したこちらに人を集めさせるための罠。

を殺そうと集まったこちらの人間を一網打盡にでもするつもりなのか？

そもそも引き取るとはどういう意味だ。

あれは一どういう意図がある？

面倒な事になった。ジャミルは心の中で舌打ちするのだった。