《【書籍化】厳つい顔で兇悪騎士団長と恐れられる公爵様の最後の婚活相手は社界の幻の花でした》噂の真相
陛下へ報告をしてから數日後、サランジェ伯爵家へ訪問した。結婚までの詳細を詰めるために初訪問の時點で約束をしていたのだ。
しかし、今日は結婚までの詳細を詰めるよりも先に聞かなければいけない事がある。もしも本當に病弱なのだとしたら、とても惜しいがこの話は破棄させてもらわなければならない。
クローデル公爵家では、縁戚から養子を取れる見込みが今のところないのだ。
このままずっと老齢になるまで獨なら、その頃までには見つかるかもしれないが、現時點では養子となれる男児がいない。
この國ではの當主も認められているが、基本は男子優先。縁戚の児を養子にしても良いが、嫁探し以上に婿探しは大変と聞くし、養に余計な苦労を背負わせたくない。
だから、できれば自分の子供を跡継ぎにしたい。噂の真相を確かめたいのだけど……
リラ嬢は今日もキラキラした瞳でどことなく嬉しそうに微笑んでこちらを見てくるものだから、凄く聞きにくい。
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「あの~」
「はい!何でしょう?」
「え~っと……あ。リラ嬢は社界の幻の花と呼ばれているそうですね」
「そうなのですか?」
きょとんとして小首をかしげる姿は可い。思わず頬が緩みそうになる。
まあ、頬が緩んだところで兇悪顔が優し気になる訳でもないけど。
「それよりも、リラと呼んでくださいませ。もう婚約者なのですから」
「あ、はい」
「よろしければ、敬語もなしでお話しください。私の方が格下の家の娘なのですから」
「あ、はい。それでですね」
「敬語……」
眉を下げて軽くちょんとを出し、不満げな表をしていても可い。寧ろそんな顔まで可すぎて困る。
「あ~えーっと、今日は確認したいことがあって。良いかな?」
「はい。何でもどうぞ!何でも聞いてください」
「え、リラは敬語のままなの?」
「敬語じゃなくても良いのですか?」
「婚約者だからって言うなら、お互い様だよね。敬語を使わないで話そうよ。俺の名前も呼び捨てで良いよ」
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「じゃあ、そうする」
俺に対してにっこりと嬉しそうに笑う姿を見せてくれるだけで、満たされた気分になってくる。もうなんでも良いやって思いそうになるけど、だめだ。自分の、公爵家當主としての使命を忘れるな。
「それで……リラは病弱って聞いたんだけど本當?病弱だから王家主催の夜會にしか出られなくて、幻の花と呼ばれているんだって聞いたんだけど」
「……えっと―――王家主催の夜會にしか出ていないのは本當。でも、病弱ではないよ。その……病弱のふりなの」
「ふり?なんで病弱のふりなんかしてるの?」
「子供の頃は本當に合が悪くなることもあって、それで両親について行った先で調を崩してしまったり、子供同士でやるお茶會や集まりを斷ったりしていたら病弱って言われて。それで子供の頃からあまり外に出ていなかったから人見知りで。この歳で恥ずかしいことなんだけど未だに人付き合いが苦手で………だから、調は問題ないよ。大人になってからは風邪もあまりひかない位に健康」
社を斷るのに噂を利用して大人になった今もそのまま病弱のふりをしていたってことか?なかなかに大膽だな。
リラがしばつの悪そうな顔をして、しょんぼりとしてしまった。別に責めているつもりはなかったが、凄く悪い事をした気分になる。
「人見知りって、今も?俺にも人見知りしてる?」
「あまりしてないよ」
「あまり、なんだ」
「うん。今は人見知りというよりも、その……」
「ん?」
「……しでも気にってもらえるように。よく見られたいから」
目を伏せて恥ずかし気にもじもじする様子は悶絶しそうな程に可かった。今すぐ抱き締めたい。
だめだ。可すぎてもう何でもいいやって思ってしまいそうになる。いや、しっかりしろ俺。公爵家當主だろ。
しかしながら、人は見た目じゃないと言っていたのは己なのに、あっさりと陥落されそうな自分が嫌だ。
でも、単純な醜じゃないんだ。リラは言が、特に仕草やくるくる変わる表が可いんだと思う。それが彼の魅力を増している。
「じゃあ、健康面には問題はないんだね?」
「うん。もし心配なら結婚前にそちらが用意したお醫者様に診てもらってもいいよ。抜き打ちで來られても大丈夫な位元気だから」
「―――いや、そこまでは。うん、大丈夫」
醫者に診てもらっても良いなんて言う位だから、健康であることには自信があるのだろう。
健康面に問題がないのなら、このまま結婚しても大丈夫そうだ。健康でも子供ができない場合もあるが、そうなったらまたその時考えればいい。
もしも何かを隠してて裏があったとしても、乗り越えられない問題はそうそうないはずだ。
実際、両親は政略結婚で、俺が子供の頃に両親は離婚して母親は出て行った。
クローデル公爵家は歴史ある武の家系のため、質実剛健質素倹約を代々の家訓として生活をしているが、母はそこそこ裕福な侯爵家の出で贅沢に慣れていた。
歴史ある公爵家ともなればもっと優雅で贅沢な暮らしができると思って結婚したのに、贅沢はできないし騎士の夫はあまり家に帰ってこないため、他に男を作って出て行ってしまったのだ。
その男とは上手くいかなかったようだが、暫く前に隣國の貴族の後妻になったと風の噂で聞いた。
それでも、嫡男を生むという公爵夫人最大の役目は果たしているし、母に見捨てられても俺は元気に育っている。俺も跡継ぎのために結婚しようと思ってた位だから、多の事なら目を瞑れるだろう。
「それと、我が家はあまり贅沢を良しとしていないが、問題ないだろうか?」
母の事があるので、念のため確認しておこうと聞いたのだが、キョトンとされてしまった。
「その、誤解しないでしいんだけど、公爵家といっても我が家は質実剛健質素倹約を家訓にしているから贅沢を期待していたらがっかりするだろうってことなんだ。の恥を曬すのは恥ずかしいが、俺の母がそうだったから……」
「私はヴァレリオだから結婚したいんだよ。公爵様だとか総騎士団長様だとか、そんなことは関係ない。ヴァレリオがどんな立場でも関係なく、ヴァレリオだから良いの。私はヴァレリオと一緒にいられるならどんな生活だって幸せになれると思ってるよ」
リラがちょっと拗ねたように口を尖らせながら言った。
その言葉を理解した途端、歓喜に震えた。ずっとんでいた言葉だったのかもしれない。どんな生活だってと言ってくれるほどに俺自を求めてくれる人がいたなんて。
一番気になっていた問題がクリアになったので、リラの両親をえて結婚に向けての話し合いを進め、結婚式は最短の3カ月後に決まった。
リラが日取りを引き延ばす理由はないのだから最短が良いと言ったのだ。俺と早く結婚したがってくれているようで、嬉しくなる。
屋敷に戻り、結婚式は3カ月後になった事などをフィリオに報告した。これから結婚準備でフィリオは忙しくなるだろう。
「ヴァレリオ様」
「なんだ?」
「リラ様の侍はいかがいたしましょう?サランジェ伯爵家から連れてこられるのでしょうか?」
「その事だが、こちらで用意が必要だ。リラが面接に立ち合いたいと言っていた」
「では早めに募集をかけます」
「頼んだ」
こうして、結婚に向けて我が家では使用人を新しく採用することになった。
クローデル公爵家で働く使用人は、今は男の元騎士しかいない。
以前侍を募集したこともあったが、応募がないし応募があっても面接すると相手から斷られる。
騎士は野営などもするし、だしなみはもちろん掃除や洗濯などの回りの事をひとりで一通りできるように訓練している。俺自も基本的にの回りの事はすべて自分でできるため、屋敷の中のことにしても元男騎士の使用人しかいなくても全く問題なかった。
しかし、リラには侍が必要になる。はだしなみを整えるときに侍が手伝うものだ。侍が俺を怖がらないか心配だが。
彼の専屬となる侍は伯爵家で付いている侍を結婚後も連れてきてくれると思っていたら、侍は連れて行かないと言われてしまった。
彼の専屬侍は1人しかいなく、その侍には結婚の予定があり、もともと半年後に辭める予定だったそうだ。だから連れて行かないのではなく、連れて行ける侍がいないのだという。
それなら多めに侍を雇う必要があるが、付くのがリラでも俺が當主の家に普通の侍はめないだろう。
元騎士で結婚や出産を機にやめたけど、子供の手が離れた者に聲を掛けるのはどうかと考えている事を話すと、面接に立ち會わせてほしいとお願いされた。
使用人の採用は基本的に執事が行うが、クローデル公爵家の場合は代々の當主が行っている。
代々の當主は皆厳つい顔をしていて、働き出してから逃げ出す者もいるからだ。
逃げ出さなくても怖がりながら勤められたって、こちらとしても気分は良くない。
だから、強面當主を前にしても怖がらない人から選ばなければいけないのだ。
リラと一緒に侍を選ぶなら、面接者が俺を怖がる様子をリラに見られる可能があるという事だ。
今は何故か俺の事をキラキラした目で見てくれるリラが、他のの反応を見て結婚を思い直したらどうしようという不安がある。
出來ればこちらで勝手に採用まで済ませたい。公爵家の使用人なのだからそうしても問題はない。
しかし―――
「お願い。自分の侍は自分の目で確かめたいの」
上目遣いでそう言われたら斷れない。
侍にはリラと結婚する前までにクローデル公爵家での仕事を覚えてもらう必要があるので、早めに採用活をすることにする。
とはいえ、募集をしてもすぐに見つかるとは思っていないので、1カ月後位に面接となるだろう。
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