《【書籍化】厳つい顔で兇悪騎士団長と恐れられる公爵様の最後の婚活相手は社界の幻の花でした》お似合いの

夜會の會場にリラと足を踏みれる。

人熱の中、きっとざわついて大騒ぎになるのだろうと思っていたら、予想に反して靜まり返った。

海が凪いでいくかのように、近くにいた人から奧に向かって順に無言になり、こちらに注目が集まるのが分かる。

普通なら絶対に聞こえるはずがない距離にいる人達の話し聲が耳に屆くほどに、り口周辺は靜かになった。

遠くにいてまだこちらに気付いていないであろう人たちの話し聲が耳に屆く。

それも、すぐに聞こえなくなって、大勢の人がいる王宮の大広間とは思えないほどの靜けさがある。

我々の歩く靴の音とれの音。

そして時々誰かの息を吞む音だけが聞こえてくる。

陛下の場でもここまで靜かになる事はないだろう。それくらい異常な狀態になっていた。

俺がリラをエスコートして夜會に參加することは、噂好きの貴族たちにざわつかせる以上の衝撃を與えたらしい。

驚愕に目を見開いている者、口をポカンと開けたまま凝視する者、皆一様に中々に間抜け面を披してくれた。思わず笑いそうになってしまう。

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貴族たちに衝撃を與えてすっかり靜かになってしまった夜會會場は、陛下や王殿下の登場によりまた騒めきを取り戻した。

しかし、今度はこちらを見てヒソヒソ話す人ばかりだ。

とても気分のいいものではないが、こういうのは無視するに限る。

「とりあえず、陛下の元へ挨拶に行こう」

「うん。張するな」

「大丈夫、俺が付いてるし怖くはないから」

「うん。とっても心強い」

話しかけるまでリラの顔は若干強張っていたが、俺の聲掛けに安心したように顔を上げ、俺の目を見て笑顔を見せてくれた。俺にはいつもの顔を見せてくれるようだ。

リラがにっこりと笑顔で頷いた。ただそれだけなのに「笑ってる!?」「脅されているのではないのか!?」「なぜだ!?」と聞こえてくる。

失禮な奴ばかりだ。

「ヴァレリオ!と、リラ嬢だね?」

「サランジェ伯爵が長のリラにございます」

「あー、いいのいいの。ヴァレリオと結婚するんだよね?だったらそんな堅苦しい挨拶はいらないから。俺とも仲良くしてね!」

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「は、はい」

「陛下。いきなりではリラも戸います」

「え?そう?堅苦しい國王より良くない?ねぇ、リラ嬢もそう思うでしょう?」

「え、あ、は、はい。そう、思います」

「陛下。夜會の席では威厳のある國王でいてくださいと何度も申し上げておりますよね?」

リラが陛下とどう接したら良いのか迷っていると、アントニオが苦蟲を嚙み潰したような顔をして苦言を呈しながらやって來た。

「サランジェ伯爵令嬢ですね。宰相のアントニオ・デュカスです。以後お見知りおきを」

「こちらこそ。よろしくお願いいたします」

「陛下には驚いたでしょう?我々、陛下の侍従であるマルコを含め4人は馴染でして、私的な場では気安い仲なのですよ。ですが、陛下のこの格はあまり外にらしたくない。ですので、にお願いいたします。陛下も、しっかりしてください」

陛下は「ぶぅー」と口を尖らせて不満顔であったが、気を取り直したようで國王の仮面をかぶった。

「相分かった。ヴァレリオ、リラ嬢。今宵は楽しまれよ」

「はっ。では、前失禮します」

陛下の前を辭して壁際に移する。

その間も近くにいる貴族たちはヒソヒソと囁きながら不躾な視線を浴びせてくる。

だが、ちらりとヴァレリオが周りを見渡すだけで、周囲にいた貴族たちはサッと目を逸らして黙ってしまう。

「あぁ、いたいた」

親し気な聲が聞こえたので、振り返ってみるとリラの両親であるサランジェ伯爵夫妻が笑顔で近づいて來ていた。

「これは。サランジェ伯爵、夫人」

「いやぁ、見事にこの辺だけ人が割れているね。はははっ」

「私は慣れたものですが。リラには居心地の悪い思いをさせてしまって申し訳なく」

すぐにリラは腕に抱きつくように「そんなことないよ!」と否定してくれるが、こんなにヒソヒソ話をしながら不躾な視線を浴びせられたら居た堪れないに決まっている。

「あら。リラはかえって良かったわよね?知らない人が、特に不肖のご令息様方が不用意に近づいて來なくて。公爵様様ね」

サランジェ伯爵夫人がクスクスと笑いながら辛辣な事を言う。

夫人の笑顔を見ていると、リラの笑顔とそっくりだと思った。この母子、本當に容姿がそっくりである。父である伯爵の面影は瞳の位しかない。

「サランジェ伯爵」

俺とリラがサランジェ伯爵夫妻と話をしていると、伯爵夫妻に話しかける人がいた。

伯爵夫妻に話しかけたそうな人がいるのには気付いていたが、俺が側にいることで諦めて他に行く人も多かった。俺が側にいるのに、そのまま話しかけに來るなんて珍しい事もある。

夫妻が振り返ると、そこには人好きのする笑顔を浮かべた壯年の男、ミュラー伯爵がいた。

ミュラー伯爵領とサランジェ伯爵領は隣り合わせだったはずだ。だったら流があってこの狀況でも親しげに話しかけて來てもおかしくない。

「もしや、リラ嬢の結婚が決まったのですかな?」

「そうなのです。クローデル公爵様と縁付くことになりました」

「公爵家とは、それはめでたい!よかったね、リラ嬢」

「ありがとうございます」

ミュラー伯爵が祝いの言葉をかけるためにリラを見た瞬間、一瞬ピクリと俺の腕に添えられた手にし力がったような気がした。そして、ミュラー伯爵がを乗り出して言葉をかけると、リラは気持ち後ろに下がった。

(気のせいではなさそうだ。社が苦手と言っていたが、昔馴染みであろう相手でもダメなのか)

ならばとリラを背中に隠すように、しだけリラの前に移する。

リラの細いなら俺の後ろにすっぽりを隠す事ができるだろう。だから、俺の後ろに隠れることでしでも安心してしかった。

俺がし前に移すると、リラが縋るようにきゅっと寄り添ってきた事をじた。背中の布が微かに引っ張られる覚がある。

このでかいが戦闘以外で初めて役に立ったかもしれない。何よりも、頼って縋ってくれるのが嬉しい。

その様子を見たミュラー伯爵が、大げさに両手をあげる。

「これはこれは。いやはや若いおふたりにはかないませんな!はははっ。邪魔者は退散しますよ」

イチャイチャしていると思われたのだろうか?

でも、ミュラー伯爵がいなくなったらリラの手の力が緩んだので、まあ良しとしよう。

リラの両親からは優しげな溫かな視線を投げかけられる。

「これからはクローデル公爵が守ってくださるから安心ね」

「そうだな……」

夫人はうんうんと安心したような表で頷いていたが、伯爵は複雑そうな表だった。

大広間に流れる音楽の曲調が変わる。

ダンスの時間だという合図だ。

リラには王宮に向かう馬車の中で、約2週間、時間を見つけて特訓はしたがあまりダンスが得意ではないと白狀した。

すると、リラも『私もなの。あまり社をして來なかったから私も人前で踴るのは苦手で練習した』と教えてくれた。

けれど、せっかくだから1曲は一緒に踴りたいと言ってくれたので、ダンスにう。

「リラ。俺と踴っていただけますか?」

「ふふっ。もちろん喜んで!」

小柄な講師と練習したが、それでも講師は男で、リラは當然講師よりも小さい。

ダンスのためにホールドすると手の位置や腰の位置、細さが全然違う。

ホールドしてみるとその格差が突きつけられるようだ。

講師とのダンスとはし勝手が違うので、リラの足を踏まないように細心の注意を払わなければならない。

萬が一にも踏んでしまったら、絶対に砕してしまう。

ターンのたびにリラからふわりふわりと甘い香りが漂ってくる。

ダンスとはいえ今までになく著しているので雑念が湧く。

(細いと思っていたが、らかい…… ―――っ!)

集中力を欠いた瞬間に危うく足を踏みそうになったのでリラを軽く持ち上げる。簡単に持ち上がる位に軽い。ターンでは遠心力で吹っ飛んでしまうのではないかと思うくらいに軽い。

急に持ち上げられて一瞬目を丸くした後にくしゃりと楽しそうに笑った顔が可い。心を鷲摑みにされた。

俺に技がないのが申し訳ないが、骨を砕するより良いだろう。リラが楽しそうにしている表を見ると安心する。

「ふぅ。何とか踴り切ったな」

「こんなにダンスが楽しかったの初めて!」

無事に1曲踴り終わると、ニコニコしながら陛下が近づいてきた。

「リラ嬢。私とも1曲良いかな?」

リラがちらっと俺の方を見てくるので頷く。陛下となら安心して任せられる。

栄にございます」

にっこにこの笑顔からあっという間に伏目がちに微笑という仮面を付けたリラが、陛下の手を取る。

ふたりでフロアの中央に行き踴っている姿はとても似合っている。

悍で青年の陛下と儚げな人のリラ。

(お似合いのとはこういうことを言うのだな………俺とではと野獣と思われてそうだ)

―――この時は実際にと野獣、雪と墨などと人々が口にしていた。さらに、ヴァレリオを指す異名に『ビースト』が追加された事を本人が知るのはまだ先の事だった。

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