《【書籍化】厳つい顔で兇悪騎士団長と恐れられる公爵様の最後の婚活相手は社界の幻の花でした》聞きたくない
王宮の敷地の端に建っている教會で、今日俺とリラの結婚式が行われている。
総騎士団長という俺の立場と、どうしても陛下の『俺も參列したいぃ!』というわがままで、王宮の敷地にある教會で行う事になった。
純白のドレスにを包んだリラが開いた扉からって來た時は、天使か神か霊か、はたまたそれらの使いがやって來たのかと思うほどしかった。
リラは「本番のお楽しみ」と言って、この日まで本番のドレス姿を頑なに見せようとしなかったが、花嫁姿のリラは神々しく膝から崩れ落ちそうになった。
いまだにこんなにしく可憐なが本當に俺の妻になるのかと信じられない気持ちだ。勿論、リラの魅力はその外見よりも面にあると今の俺は知っているから、リラがどんな外見をしていたとしても構わない。だけど、やっぱり花嫁のしさにはを覚える。
心では、滂沱の涙を流して膝をついて神に謝の祈りを捧げている俺だが、総騎士団長という立場もあるし新郎がけない姿を見せるわけにはいかないので、なんとか澄まして立っている。
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サランジェ伯爵夫人は新婦側の一番前の席で靜かに涙をハンカチで拭いながら歩いてくるリラを見ているが、夫人以降の席に座ってるサランジェ伯爵家側の參列者の中にはひきつった顔で俺を見ている人もいる。
確かに涙が流れないように目に力をれているけど。こんな時にでも恐れられるとは…………。
俺のことなど気にせずに、神のようなリラに見惚れてもらいたいものだ。
ゆっくりと俺の元までやって來たリラに高い位置にある窓からのが降り注ぎ、発しているかのように見える。
何もかもを包み込むような優しい笑顔のリラとベール越しに目が合う。
もしかしてリラは本當は神なのか?本當は幻ではないよな?と一瞬頭に浮かんだが、サランジェ伯爵の言葉でが引き締まる。
「リラを、頼みます」
「っ!はい」
誓いの言葉を言う時は聲が震えないように頑張ったが、結婚の誓約書へ記名するときも、ベールを持ち上げる時も張で手が震えた。
誓いのキスは、それはもう張どころではなかった。
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正直、その辺の記憶があまりない。
ちゃんとできていると良いのだが。
教會から出ると抜けるような快晴の空で、神も我々の結婚を祝福しているように思えた。
リラが持っていたブーケは、最近の流行らしいブーケトスという儀式で塀の外で見ていた平民のの手に渡った。
この教會は申請したら一般の人もれるため、王宮の敷地とはいえこの辺の塀は低めになっている。
とはいえ、この教會で結婚式を挙げられるのは貴族だけだが、平民にとって貴族の結婚式は贅を盡くしているように見えて憧れらしい。その為、この教會に限らず貴族の結婚式があれば新郎新婦を見ようと平民が見に集まってくるのだ。
今回も低くなっている塀の外側には沢山の人が來ていて、リラを見て嘆の聲をあげていた。
が目を輝かせて手中に降ってきたブーケを見つめる姿を見て、リラと目を合わせて微笑む。花嫁からのブーケをけ取ると幸せな結婚ができるらしい。にも、俺がリラと出會えたように最高の相手と出會える事を願う。
そしてそのまま教會から近い王城の庭園にて披宴を行う。
リラが人見知りで疲れてしまわないように、両家の親戚や付き合いのある貴族家、俺の仕事関係で騎士団員などから厳選した人數の披宴にしたが、これも陛下が參列したいと言ったので王宮の庭園で行う事になってしまった。
クローデル公爵家は當主の俺が社を疎かにしているし、サランジェ伯爵家も今は社が盛んではないので、親しく付き合いのある貴族家はそれほど多くない。
我が家の広間でも充分賄える程度の招待客しかいない。
公爵家當主の結婚披宴だが、貴族の中でも小規模な披宴だ。
王族でもないのに王宮で披宴を行うなんて恐れ多いが、そもそも陛下の要だし、そのおかげで陛下にも喜ばれた。
新郎である俺よりもよほどニコニコして嬉しそうに見える。
「ヴァレリオ!リラ嬢!じゃなかったもうリラ夫人だね!おめでとう!」
「陛下。ありがとうございます」
グラスを掲げながらご機嫌な様子で話す陛下を見ていると、王宮で披宴をしてよかったと思える。
筆頭公爵家嫡男で宰相のアントニオと公爵令嬢のマーガレットの結婚式の時は、豪勢な結婚式で參列者もものすごく多かった。俺も參列したが誰が誰だか分からなくなるほどだった。
その時も陛下が『城でやればいいよ。城でやってよ。大広間貸すよ』と言ったが、王宮に併設された教會はそれ程大きくないため『挙式の時點でりきらない』と、アントニオが固辭して王都の大聖堂で式が行われた。
そのため、警備の観點から陛下は參列できなかったのだ。
マルコの時はまだ王太子だったからギリギリ參列できたのに、アントニオの結婚式に參列できないと知った時は、『馴染なのに!俺だけ除け者にするなんて酷い!』と陛下が機嫌を損ねてしまって宥めるのに時間がかかって大変だった。執務を拒否した皺寄せはアントニオが自分で食らっていたけど。
今回は王宮の敷地だし、參列者に騎士団関係者も多い事から陛下も式から參列してもらえたのだ。
陛下も參列できる事が決まってからはご機嫌で、執務が捗って良いとアントニオに謝された。その為に參列してもらう事を決めたわけではないのに。
ふたりで公爵家へ帰ってきて初めて、結婚したことを実できた。
縁談を斷られ続けた俺でも結婚できた。
社界の幻の花と呼ばれているらしいしいが本當に俺の妻になったのだ。
これからは帰る場所が同じなのだと思うと心があたたかくなった。
◇
「ヴァレリオ様、し落ち著いてください」
「………分かってる」
湯浴みをして用意されていた真新しい夜著に著替える。
いつもならすぐに寢るから下だけ履いてベッドに直行しているが、今日はすぐに寢ないし今日からはリラと寢ることになるので夜著も上下著たしガウンも羽織った。
どうにも落ち著かない気持ちでウロウロしていると、書類を持って來たフィリオに注意された。
分かっていても落ち著かないのだから仕方がないだろう。
仕方なくフィリオが持ってきた書類に目を通し、サインをしていると部屋のドアがノックされて、ビクッとなった。サインまでビクンと大きく跳ねてしまった。
「あっ。書類は作り直して參ります」
「……すまん」
「失禮します。旦那様、奧様のご準備が整いました」
「わ、分かった。もう下がって良い」
リラ付きとなった侍とフィリオにもう下がって良いと伝え、新しく整えた夫婦の寢室へと向かう。
夫婦になったのだから、今日から同じ屋の下、同じ部屋で寢ることになるのだけど、考えるだけで張している。
「ふぅ」
一度深呼吸してから自室から続く寢室のドアを開けると、ソファに腰かけるリラがこちらを向いた。
一歩一歩ゆっくり近づくと、リラも張している様子がうかがえた。
リラの顔を見て、「俺が張している場合ではない。6歳も年上であるし男の俺がリードしなければ!」と妙な使命が顔を出す。
リラの隣に座ると、ふわりと甘い香りが漂ってきた。簡単に解けそうな緩く結った髪からも侍らが張り切ったのだろうと想像できる。侍を採用できて本當に良かった。
「あの、なにか飲む?ダリアが々準備していってくれたからお酒もあるよ」
「そうだな、シャンパンにしよう。シャンパンならリラも飲めるよね?」
「うん。じゃあ私もいただきます」
細かい気泡が浮かぶグラスを合わせるとチンッと軽い音が靜かな室に響く。
一口飲んでからリラに視線を向けると目が合った。
ふふと微笑んでいるが、やっぱりいつもよりどこか表がいのは張のせいだろうか。
薄い夜著の上にガウンを羽織っただけのリラは煽的で、今すぐ押し倒したい衝に駆られてしまう。
しかし、衝のままに行しては兇悪の他に野獣の二つ名まで追加されてしまいかねないので、理は捨てられない。
視線をリラからグラスへと移して、心を落ち著ける様に努める。
(だめだ!落ち著け!冷靜になれ、俺!)
そんなことを考えていると膝の上に置いていた手にリラの手が重ねられた。
し冷やりとしたその手にドキッとしてリラを見ると、ひどく真剣な顔をしていた。
一瞬、「積極的!」と舞い上がったけど、この表はそういうのではなさそうだ。
(…………?)
――――――あ、もしかして
実は人がいるって告白されるのだろうか………
そうだ。最初にそう思っていたんだ。こんながここまで婚約者もいない不自然さや、もっと見目の良い高位貴族もいるのに俺との結婚をけれるのには訳があるはずだと。
リラと過ごせば過ごすほど、リラから想われていると思えたし、どうして自分が選ばれたのか怖くて聞けなくなっていた。
リラから想われているとじたのは俺の都合のいい希で勘違いだったのか?
今更人がいるって言われるのはやだな。
借金があるから助けての方が遙かにマシだ。
健康だと言ったけど本當は持病を抱えてるから子供ができないと言われるなら、もうそれでも良い。
最悪、私生児がいるのでも良い。俺が父親になる。
だけど、貴方はしてない。他にしている人がいる。と言われるのは嫌だ。
聞きたくない。
誤魔化して押し倒したら駄目だよな。
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