《【書籍化】厳つい顔で兇悪騎士団長と恐れられる公爵様の最後の婚活相手は社界の幻の花でした》幸福で満たされる
「あのね。話が、あるの」
「……うん。何?」
「あの……ね。信じてもらえないかもしれないんだけどね」
「うん」
「私…………―――――人の周りにが視えるの」
「うん?」
(……人の周りに?ってなんだ?)
先程までは初夜の事ばかり考えていたし、リラが改まった態度を取ってからは出會った當初に思った分違いの人がいる説を思い出して頭がいっぱいになっていたから、予想の遙か斜め上をいくリラの言葉が素直に頭にってこなかった。
言葉の意味が理解できずに思わず首をかしげてしまう。
「やっぱり、信じられない…………よね」
明らかに暗い顔になってしまったリラに慌てる。
眉を下げ、一瞬にして瞳を潤ませてしまった。
そんな顔をさせたい訳ではない。リラを一瞬でも悲しませたくない。
「いや!そうじゃなくて!ごめん、予想と全然違う話だったから理解が追いついていないだけっていうか。人の周りにってどういうこと?もうし詳しく説明してくれる?ちゃんと話が聞きたい」
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「……説明するのは難しいんだけど、こう、こんなじで人の周りにが視えているの」
「うん?」
「その人の格というか、持っている質というのかな?考えている事というか……多分、それがとして目に視えるの。人がぼわぼわ~っとを纏って視えてるの」
リラは一生懸命手や腕をかしている。
振りをつけて説明してくれるので、を取り囲むように何か見えるという主張は理解できた。どういう原理かは分からないけど、言葉の意味だけは分かった。
「それは、初めて聞く現象だな。誰にでもがついて見えるの?」
「うん。必ずそれぞれの人の周りにがついて視える。人によっては違うけど」
「じゃあ俺にもがついて見えてるの?」
「うん!ヴァレリオはとっても優しい溫かいをしているの!!」
リラの顔が一瞬にしてぱっと明るくなり、嬉しそうに説明してくれる。
「のすぐ近くは太ののように溫かみのある明るいで、真ん中くらいは包み込むような優しい緑っぽいが基本なの!本當に見ているだけで優しい気持ちになれる、そんななんだよ!」
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「ん?何も見えているの?」
「うん。多分側に近い方がその人が持ち合わせている質や格みたいで、普通はが変わらないけど、外側に行けば行く程外的要因とかでが変わるみたい。単純に側と外側の2じゃないし、何って表現しにくいが多いし、そのが視えても詳細に考えていることが分かる訳ではないけどね」
(分かったような分からないような…………)
「えーっと。それは人によって違うって言ったけど、そんなに人それぞれ違うの?」
「うん。えっと、例えば……あ!フィリオは全的に真面目そうな青系のかな。でも外側は、凄いんだよ。忠誠心の塊!ってじのだったの!ヴァレリオへの忠誠心で溢れてて、初めて會った時は本當にびっくりしちゃった。あとは、マーガレット様は優しく思慮深そうなで、アリッサ様は明るく真っ直ぐなをしているの」
(あぁ………あの時リラがフィリオに見惚れているように見えた謎が急に解けた。そういう事だったのか。忠誠心か……なるほどな)
「そうか。フィリオはそんなに俺への忠誠心で溢れているのか。なんか照れるな」
「……………信じてくれるの?」
「ん~、うん。これが噓だとしてもこんな噓をついても何のメリットもないからね。正直、まだ理解はし切れていないけど」
人の周りにが見えるというのは初めて聞く現象だけど、騎士をしていると戦場で死者が視えると言い出す者もいるし、初めて人を斬った後に幻覚を見る者もいる。それらは珍しくないから、リラのが見えるという現象もあり得ない話ではないだろう。
「……気持ち悪くない?」
「気持ち悪い?何で?リラの事を気持ち悪いなんて思うわけがないよ。ところで、がついて見えて困ることはないの?で塗りつぶされて顔が分からなくなるとか」
「ありがとう……信じてもらえて嬉しい。本當に嬉しい。本當に……っ」
ぽろりと零れた涙がとてもしく見えて見れてしまう。
かと思えば子供のように手でごしごしと涙を拭う姿もらしい。
「―――あ、は半明で周りに見えるだけだから人や顔が分からなくなったりはしないかな。ただ、相手の気持ちがなんとなく伝わってくるから、怖くなることもあるけど」
(それって…………)
「病弱や人見知りって言ってたのって、もしかして相手の気持ちや思考が見えてしまって怖いってこと?」
「うん……良くない事を考えている人は黒い靄が取り付いているように見えるから、怖くて。悪い人に気付いちゃったら態度に出ちゃうから、病弱ってことであまり人と會わないようにしていたの。人見知りって、噓ついてごめんなさい……」
「なるほど。それで、侍の面接のときは見てるだけで良いって言ってたんだ」
「うん」
(それで、俺が選んだ候補2人に良い顔をしなかったのか。採用していたらヤバかったな。何かが見えていたって事か)
「あの日も、視えていたの……」
「あの日?」
「6年前、クーデターがあった日」
「あぁ。そういえば、フィリオがあの日リラを見かけたって言ってたな。俺を見ている珍しい令嬢がいたから覚えてるって、無自覚で失禮な事を言ってた」
「ふふっ、そうなんだ。あの日は私がヴァレリオを見つけた日なの」
「本當にそんな前から?」
「うん。だけど、……視えていたのに。前の総騎士団長や王弟に異様な程どす黒い靄がかかっている事が視えていたのに。私は見ていただけだった。それをずっと後悔してて。……ヴァレリオのこの傷も、本當なら付く事がなかったかもしれないのに。不穏な空気を私が伝えていれば。この優しいを持つヴァレリオなら私の話を聞いてくれるかもしれないって思ったのに、あの時は話しても信じてくれるわけがないと思ったし、あんなことになるとは思わなくて……」
靜かにはらはらと涙を流すリラを見て心が痛んだ。クーデターのあの日、人々の中に悪いをしてる人が見えていたから、自分が伝えていれば未然に防げたかもしれないと思っているのだろう。それでずっと心を痛め続けているのかもしれない。
クーデターの犯人たちは死んでなお未だに許せていなかったけど、こんなにリラを苦しめ続けさせている奴らは本當に許せない。
「リラが責任をじて後悔の念を抱く必要はない」
「でも、怪しい人がいるって言うことはできたのに、何もできなかった。何かが変わっていたかもしれないのに」
「リラ。もしも、リラが教えてくれたとしても、多分結果に差はなかったよ。それ位にあのクーデターは國の中樞から発生していて、仮に俺が事前に知っていても止められなかった。主犯に賛同する者が多すぎてあの場で計畫を頓挫させるのは不可能だった。仮に王城は無事でも、市民がもっと犠牲になっていたはずだ。それに、リラが教えてくれていたら、リラはきっと、いや絶対に無事ではいられなかった。そんなの……リラがここにいないなんて、俺にはもう考えられない。リラが気に病む必要はないんだよ。言わずにいてくれたから、無事にこうして俺と出會ってくれたんだから。それで良かったんだ」
「ヴァレリオ……」
ずっと心に引っかかっていた事だろうから、すぐに気にしなくなるのは無理だろう。それでもしは心を軽くしてしい。
「ん?ってことは、ミュラー伯爵も?」
リラは「的に何がって事はないんだけど……」と眉を下げて曖昧に微笑むだけだった。
その後も、リラが見えているというオーラの話を聞いたり質問しているとあっという間に時間が経ってしまった。
橫にある時計を見ると、針はすでに真夜中という時間をさしている。
明日は休暇を取ってあるから夜更かししても問題ない。
というか今日は元々夜更かしの予定ではあったが、このまま大人しく寢た方が良いだろう。
「今日はもう寢ようか」と言おうとしたら、リラがぎゅっと抱き著いてきた。
ふわりと甘い香りが俺の理を擽り、らかなに強固にしたはずの理では抗えず暴れ出しそうになる。
(!?)
「信じてくれて、本當にありがとう。本當に本當にありがとう」
(あぁそっちか。鎮まれ。働け俺の理。ここで下心を出してはリラに引かれる)
リラは俺のに抱き著いて板におでこを付けたままじっとかない。じわりと夜著を濡らす覚があるから涙しているのだろう。
(……これはどうしたら良いんだ)
完全に初夜どころではなくなったな。やっぱりリラが落ち著いたら寢よう。
めるべくリラをそっと抱きしめ、暫く頭や背中をでていると漸く顔を上げてくれた。
眥にし涙が滲んでいる。
リラに潤んだ瞳で上目遣いで微笑まれると、破壊力が凄い。
俺の理が仕事を放棄した。
◇
目を覚ますと、すぅすぅという規則正しい可い寢息が聞こえてきた。
橫を見ると、背を向けて眠るリラがいる。背を向けられている事にし寂しさを覚えるが、朝起きて隣にリラがいる喜びの方が勝る。
緩く波打つ淡い金髪がカーテンの隙間から差し込んだ朝日に當たって輝き、白く細い肩に掛かっている。
らかな朝日の中で眠るリラは非現実があり、そこにいることをこの手で確かめたくなる。
お腹に手を回して軽く力をれると、簡単に引き寄せられた。
後ろから抱え込むようにぎゅっと腕に力を込めると、リラの背中から伝わってくる熱や手に馴染むのらかさに、これは現実なのだと実できる。
今度は顔が見たいと思っていると、リラのに力がりじろぎしたのが分かった。起きたのだろうか?
抱きしめていた腕の力をし緩めて、目の前にあるつむじにを落とす。
するとリラがピクリといたので、これは確実に起きているだろうと確信する。
「おはよう」
聲を掛けながら頭を持ち上げて顔を覗いてみると、リラは両手で顔を覆っていた。
手に覆われた顔は見えないけど耳が真っ赤になっている。
「リラ?」
「……おはよう」
「何で隠すの?顔を見せて?」
「今はだめ。恥ずかしい」
何をいまさらとも思うが、恥じらう様子はらしい。
でも、顔を見たい。
赤く染まった可い耳を食んでみると、すぐに顔を隠していた手で耳をガードしたため顔が見えた。
目を丸くして、はわはわとが薄く開き何か言いたげにしているが、言葉が出てこないようだ。
「やっと顔が見れた。こっち向いて?辛いところとかない?」
「…………大丈夫」
「ほんと?無理してない?」
「うん」
「無理したら駄目だよ?朝食はここまで運ぼうか」
漸くごとこちらを向いてくれたリラは、目の下まで上掛けを引っ張り上げながら、ふふふと笑う。
「ん?」
「ふふっ。幸せだなって」
リラの「幸せ」という聲を言葉を噛みしめる。
じんわりと、だけど急速に俺の中に浸してくる。
「うん…うん、俺も幸せ」
幸福で満たされる。
俺がこんなに幸福にじている事がしでもリラに伝われば良いと思って、リラをぎゅっと力強く抱きしめた。
「ゥグフッッ」
「あっ!?ごめん!大丈夫か!?」
勢いよく強く抱きしめ過ぎたせいで、リラのの中の空気を強制的に排出させてしまったようだ。
力加減を間違えたら華奢なリラなど簡単に骨まで砕してしまいかねないんだった。
抱きしめるのにも加減しなければと反省する俺を目に、リラは「あはは!凄い!ぎゅってしたら勝手に空気が抜けていくんだ!凄い!あはは!もう一回してみて!」と楽しそうにしていた。シーツをに巻きつけて足をパタパタさせて喜ぶ姿は可い。
無邪気で可いなぁ、もぉ!
ギュッ
「グフッ!ふっ、あはははは!すごーい!もういっかい!もういっかいして?」
縁談の打診でさえ斷られ続けた俺が、こんなに幸福な朝を迎えることができるなんて、し前の俺では想像できなかった。
読んでいただきありがとうございました。
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