《【書籍化】厳つい顔で兇悪騎士団長と恐れられる公爵様の最後の婚活相手は社界の幻の花でした》番外編(リラ視點)3
今日はいよいよヴァレリオ様が我が家を訪問なされる。
數日前からもう落ち著かない気分だった。
昨日の夜は張でなかなか寢付けなかったし、朝もいつもより早く目が覚めてしまった。
「お嬢様、ドレスは如何いたしますか?」
「これかこれ、どっちが良いと思う?ヴァレリオ様は何が好きかな」
「私はこちらのドレスが良いと思います。優しいがお嬢様の魅力を引き立てます」
「じゃあそうする。いよいよ今日の午後にヴァレリオ様がいらっしゃる……―――はぁ、張するな。どうしよう、斷られたら」
「あちらから申し込みがあったのですよね?」
「そうだけど、きっと私のことなんて知らないもん……」
年に一度とは言え、ずっと見ている私とは一度も目が合う事さえなかったのだから。
私を見初めてくれたわけではない。
ヴァレリオ様にとっては、何かの都合が良かったただの政略結婚だと分かっている。
昨年の王宮の夜會で、たちがひそひそ話している聲が聞こえてきたことがあった。
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ヴァレリオ様は令嬢たちから悉く縁談の申し込みを斷られていると。
厳つい顔や威圧のある大きな、そして何より顔の傷のせいで斷られるのだ、『あの傷は恐ろしくて無理よね』と嗤いながら話していた。
噂をしている人たちに詰め寄って『勝手なこと言わないで!』と怒りたかった。
だけどそれができる程、私もヴァレリオ様のことを知っている訳ではない。
でも、顔の傷で斷るなんて酷い。
クーデターが起こる前は無かった傷なのに。
國王陛下を守るときに負った傷のはずなのに。
ヴァレリオ様がいなければ、今この國はどうなっていたか分からないのに。
それなのに。
それに、私があの時伝えていれば傷が付かなかったかもしれない……。
とても羨ましかった。
ヴァレリオ様から申し込まれた令嬢が。
ほっとしていた。
見る目の無い人達ばかりで。
悔しかった。
ヴァレリオ様を兇悪騎士団長と言って嗤うなんて。
願っていた。
早く私に気づいて、と――――
靜かなノックが響いた後、執事の後ろからヴァレリオ様が姿を現した。
それまで張してソワソワと落ち著かなく、お父様に「リラ、し落ち著きなさい」と言われていたけど、ヴァレリオ様のお姿を見た瞬間に喜びが勝った。
ヴァレリオ様が來てくれた!
うちの屋敷の中にヴァレリオ様がいる!
王宮以外で會えた!
我が家の執事ではしも隠しきれない程大きく立派な。
総騎士団長という地位にいても驕らずに鍛錬を欠かさないのだろう。
そして、相変わらず溫かな優しい。
張しているようなは分かるけど、し困気味なのはどうしてだろう?
あぁ。でも、やっぱり素敵な。
あっ。
目が合った!
初めて目が合った!!
嬉しい!
嬉しい!!
飛び上がってこの喜びを表現したいくらいだったけど、変なだと思われたら困るので、一杯微笑みでとどめてヴァレリオ様を見つめた。
「ヴァレリオ・クローデルと申します。縁談の打診をけてくださり、ありがとうございます」
そう。殘念なことにクローデル公爵家の執事からうちに屆いたのは縁談の申し込みではなく、顔合わせをけてくれるかという打診の書狀。
まだどうなるか分からない。
もちろん私は婚約を立させて、ヴァレリオ様と結婚したい。
それは當然お父様も承知している。
まだ打診という段階であることを私が殘念がって、斷られたらどうしようと心配していると『大丈夫。お父様に任せなさい』と言ってくれたから、きっとこのお話を纏めてくれるはず。
「サランジェ伯爵家當主のローレンツです。妻のリリーと、そしてこの子が娘のリラです。我が娘に縁談の申し込みをいただきありがとうございます。早速ですが、我が家としては喜んでおけいたします。どうぞ、末永くよろしくお願いいたします」
(!!)
お父様がさらっと、あっさり、當然のように「我が娘に縁談の申し込みをいただき」って言った。
しかも、「喜んでおけいたします」「末永くよろしく」って流れるように言った。
まるで、初めから打診ではなく縁談のお話だったかのように。
ヴァレリオ様は一瞬にして混のに包まれながら険しい顔になってしまった。
たっぷり間をあけてから「は?」とヴァレリオ様が言うから、はらはらしたしし不安になったけど、お父様も「え?」とシラを切っている。
(ど、どうなるの?大丈夫なの?)
「もしや!実際に會ってみて娘では公爵様のお眼鏡にかなわなかったのでしょうか?」
「いやっ、いやいやいや!そんなことはない!決して!逆です。よ、良いのですか?私で」
「はい。娘自、是非にとんでおります」
噓だろ!?って顔してこちらを見るから、「本當の!本當に!本心です!!」と、いっぱい気持ちを視線に乗せた。この気持ちがしでも伝わりますように。
(あぁ……今、すごい目が合ってる)
目が合うのが嬉しいな。
すごい。
これまで全然目が合わなかったのに、今はじっと見てくれている。
し懐疑的なが出ているけど、目が合うのが嬉しい。
(あぁ、だけど、こんなに目が合うなんて恥ずかしい。目が合うだけで、こんなに恥ずかしくじるなんて知らなかった……でも、嬉しい)
「あの……恐くないのでしょうか?私は、その、には好かれない容姿をしてますが」
「容姿など全く気にしません。ですが、私には公爵様はとても素敵に視えます」
ヴァレリオ様を想う気持ちにはしも噓をつきたくなくて、見えるではなく視えると言ったけど、ヴァレリオ様には當然伝わらないだろう。
「はぁ。でも、この頬の傷とか、目の上の傷とかも恐くないのですか?」
「恐くなんてありません。騎士ですもの、國や王族を護ってこられた証です。いわば名譽の勲章。敬意をじこそすれどうして恐いと思えましょう」
やっぱりヴァレリオ様自が気にされるほど、周りから顔や傷について言われてきたのかと思うと悲しくなった。
でも、私は知っている。
誰よりも先に王族を守るために前の総騎士団長と対峙したのがヴァレリオ様だということを。
そして、傷を負っても守り抜いたということを。
現在の國王陛下も前の國王も生き延びたことがなによりもヴァレリオ様が闘した証。
それに、私はヴァレリオ様のを知っている。
こんなに優しくて溫かいを持った素敵な人は視たことがない。
お慕いしていると伝えるにはまだ早い。
ヴァレリオ様にとってはまだ出會ったばかりのが、そんなこと言うのはおかしい。
六年もずっと見ていただけなんて知られたら、絶対に気持ち悪がられる。
だから、まだ言えない。
言えないけど、『私にはあなた以外には考えられない』としでも伝わると良いな――――
『お父様に任せなさい』の言葉通り、お父様は婚約誓約書まで既に用意していた。
今は領地経営だけに力をれているけど、クーデター前は宰相補佐をしていただけある。
私には優しい父親だけど、婚約立まで持って行ってくれたお父様を見ていると、あの悪いを纏っている人の多い貴族たちの中で働いていたんだなとしだけお父様の見方が変わった。
そして、ヴァレリオ様は狐に化かされたような顔をしながら婚約誓約書にサインして帰っていった。
ヴァレリオ様を見送った後、応接室へ行くとテーブルの上に我が家の分の婚約誓約書が置かれていた。
し武骨な男らしい筆跡でヴァレリオ・クローデルとサインされている。
(ふふっ。戸った表のヴァレリオ様は可かったな。最後まで笑顔は見せてくださらなかったけど。でも――婚約、したんだよね……うぅぅぅ嬉しい!嬉しいぃ〜!!)
◇
「ねえ。お嬢様はちょっと恐め?なんて言ってたけど……ちょっとじゃなかったよね」
「ちょっとじゃなくて、超の間違いだね」
「でも……。ね?」
「うん。お嬢様はすごく嬉しそうな顔していた」
「それに會話が聞こえてきたけど、公爵様って中は結構可い人っぽかったよね」
「分かる。旦那様の作戦に引っかかって途中混している様子なんか、ちょっと可いかもって思っちゃった」
「ね!お嬢様と絶対お似合いになるわ」
「うん。本當に良かったわね」
伯爵家の使用人室では、い頃からリラを見守って來たベテラン使用人たちがちょっとした盛り上がりを見せていた。
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