さらに翌日。

私は、マーリンに、いわゆるおんぶ紐で括られて背負われていた。

ーーちょっと待って。この扱いは何（怒）

「にゃんで、こんなしゅがた、なの〜！」

私は、背中に固定された狀態で手足をジタバタさせる。

「だから言ったでしょう？　これから、この國全を要塞化するために、國境線上に壁を作りにいくんですよ。時間がかかるから、マスターが疲れるだろうと、不安定な抱っこではなく、きちんと固定してもらったのです」

おんぶ紐でを背負った、大(・)賢(・)者(・)マ(・)ー(・)リ(・)ン(・)が、真顔で答えた。

ーー古の大賢者の威厳も何もないと思うんだけど……。

「わたちは、おるしゅばんで、いいじゃない」

こんな辱めをけるのなら、お留守番をしていたいとごねてみた。

しかし。

「いやです」（キッパリ）

「ふえ？　にゃに？」

「嫌だと言ったのです！　マスターに、己が力、お見せしてこそ意味があるというもの！　マスターがお留守番をしている中、一人で作業するなど、嫌です！」

ーー言い切った。言い切ったよ、この大賢者。

いやまあ、功績というものは、褒めてしい主人に見てもらってこそのものだという気持ちはよくわかる。

「だけどぉ……」

「嫌です」

マーリンは、一歩も譲ってはくれなかった。

「羨まし……、ん、ゴホン。マーリン殿にだけ作業をしていただいて、リリスはお家でお留守番なんて薄じゃないか、一緒に行っておいで」

お父様にまで、後押しされてしまった。

あれ？　それにしてもお父様、何か言いかけませんでしたか？　おんぶなんてさせませんからね！（プンスカ！）

駄々をこねて、どうしようもない大賢者様、みたいな表現をしてきたけれど。

実は、『國境線に沿って全て壁を築く』なんていう大事業をし遂げた國家などないのだ。それを、マーリンが、一週間ほどあれば、作ってみせると申し出てくれたのだ。

ちなみに、私達とは反対側からは、カインお兄様が霊を使って、同じく壁を作っていく。そして、合流する計畫だ。

ただし、通の要所などに設ける関所や要塞作りは、人やドワーフ達の手に委ねる。移民してきたばかりの人々に、仕事とそれに対する報酬を與えることも、人々にとっては大切なことだからだ。

その拠點となる箇所を除いて、壁を築いていく。

大仕事だ。

普通じゃできない。

「しょだね。マーリンのカッコイイとこ、ちゃんとみなきゃ、だね」

コツンと、マーリンの背中をおでこで突いて、マーリンのみを承諾する。

すると、「ありがとうございます」と、それは嬉しそうな聲がして、マーリンがふわりと城から飛び上がった。

「ねえ、こうじ、なんて、マーリンはイヤじゃ、ないの？」

壁を作るスタート地點に移する間、私は、マーリンに尋ねてみた。

一大事業、誰にもなし得ない事業、そうは言っても、かつての大賢者様に、土木作業をお願いしているのだ。

「うーん、そうですねえ」

マーリンが、しばし、思案でもしているのか、言葉を途切らせる。

「私は、マスターに現世に喚ばれて、貴と共にある時間がとてもおしいのです」

「マーリン……」

「勿論、死して英霊(エインヘリヤル)として迎えられ、彼らや戦乙達との饗宴は楽しい。ですが、貴と共にいる時間は、とても新鮮で、そして、幸せなのです。生まれ変わったかのように、貴のために現世で事をすのは、私にはとても溫かく大切な時間なんですよ」

「マーリン、しょんなふうに、おもってくりぇてた、なんて……」

マーリンの思いもよらなかった優しい言葉に、私は目元が潤んで、頬を涙が伝う。

「マスター泣いてはいけません。この姿勢じゃあ、涙も拭って差し上げられないんですから」

あ、そうか！

そう思って、私は、マ(・)ー(・)リ(・)ン(・)の(・)背(・)中(・)で(・)涙を拭い、鼻(・)を(・)か(・)ん(・)だ(・)。

「マスター……」

マーリンは、まあいいですけどね、と、半ば仕方ないと言った様子だ。

「なんだか、姿に心も引きずられてきているような気がしますが、そんな面が見られるのも幸せですよ」

そして、工事の開始場所に到著する。

「さあ、始めますよ！　城壁作(クリエイトウォール)！」

すると、昨日の都市周りの壁を作った時と同じく、土がどんどん削れていって、堀ができていく。そして、削れた土は、レンガのような長方形の形に形されて、どんどん積み重なっていく。所々に、防衛戦になった時用の、小窓も空いている。

戦の時は、ここから、魔法を撃ったり、クロスボウなどを撃ち込んだりするのだ。

召喚魔法で招ばれているマーリンの魔力量の限界は、私の魔力量の限界と同じ。私とマーリンは繋がっていて、私の魔力を以って、魔法を行使しているのだ。

だから、毎日、私が魔力を使い切る前に作業はおしまい。

そんな日々を繰り返して、やはり、最初のマーリンの見立てどおり、一週間程でフォルトナー王國は、國全を要塞化することに功したのだった。