《無雙 ~仲間に裏切られた召喚師、魔族のになって【英霊召喚】で溺スローライフを送る【書籍化&コミカライズ】》第43話 みんなで、戦勝會?
溫泉から上がった後、戦勝會向けの著付けと髪のセットをするのだと言って、侍に捕まった。
そう言うわけで、私は今、自室の鏡臺の前に座らされて、大人しく待っている。
ーーあれ?
侍が、裝棚から取り出してきたのは、見覚えのないドレスだった。
しかも、真っ白で、ふわふわレースで、一眼でとても豪奢だとわかるものだった。
それに、真っ白なドレスなんて、シミでもつけようものなら、二度と著られない。そう言う意味でも、とても贅沢な品だ。
「しょれ、どうしたの?」
だから、不思議に思って侍に尋ねてみた。
すると、侍が、にこりと笑って、答えてくれた。
「お父様が、アスタロト様に姫様のサイズをお伺いして、こっそり誂えたそうですよ」
「おとーしゃまが」
侍の返答に、驚いて、一瞬きょとんと思考が止まってしまった。
今まで、お父様がこんな灑落たものを私に與えてくださったことなどなかったから、びっくりしてしまった。
たくさん付いている、小さなボタン一つ一つも繊細で、花の形を模していて、らしい。
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それを全て止め終えると、鏡臺の前に座らされる。
「お髪も、今日は特別に仕上げますよ」
そう言いながら、私の髪に香油を塗って、私のピンクの髪に、艶としなやかさを與える。
「とくべつって、どーしゅるの?」
侍に尋ねると、サイドの髪を編み込む手は止めないままで、答えてくれる。
「髪をたくさん編み込んで、アップスタイルにするんです」
私は最近四歳程度の姿になってしまったので、最近ではそんな大人っぽい髪型にしたことはない。
「めずらしいこと、すりゅのね」
私が首を捻ると、侍は何かを知っているのか、くすりと、ただ笑っていた。
そうして、支度が整うと、私の部屋の外で、カインお兄様が待っていた。
「姫君のエスコート役を仰せつかってね」
ちょっと演技っぽく、に手を添えて、一禮する。そして、しゃがみ込んでから私を抱き上げた。
「とは言っても、我が姫君はい容姿でらっしゃるから、これで行きましょう」
片腕に抱っこされた姿で、廊下を通り、私達は、戦勝會の會場の大広間に向かう。
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大広間のり口に到著すると、騎士達が左右の扉をそれぞれ開けて、私達が到著したことを高らかに広間中に伝える。
「カイン第二王子殿下、リリス第一王殿下のおなりです!」
すると、會場で待っていたゲスト達がわっ! と歓聲で沸く。
ゲスト達は、貴族や、『災厄』で活躍した英霊も騎士達もいる。
あれ、でも、アスタロトがいないな……。
私が疑問に思って彼を探していると、わあっと聲がする。
「霊にされし我らが王子!」
「救世の英雄姫だ!」
ちょっと恥ずかしい呼稱で呼ぶ聲までする。
それと、そうね。
私は一國の姫で、カイン兄様は王子様になったのよね。
獨立したとはいえ、人々の生活の基盤を整えたり、『災厄』と対峙したりで、そんなことを味わう余裕もなく過ごしていたことに、今頃気がついた。
私達が、一段高い王家のために設けられた場所までたどり著くと、今度は、アベル兄様がり口に姿を現した。
「アベル第一王子殿下のおなりです!」
その聲とともに、アベル兄様は、気恥ずかしげに、でも堂々とゆっくり赤いカーペットの上を歩いてきて、私達の隣に並んだ。
そして。
お父様の隣に、アスタロトがいた。
ーーえ!
「皆様! 我らが國王陛下に祝福を! 陛下は、魔族領の四天王であらせられる才媛、アスタロト様に婚約の申し込みをされ、ご承諾いただいたとのことです!」
アスタロトが、上品に淑の禮を執る。
わあぁぁっ!
あちこちから歓聲が上がる。
「人と魔族の融和に萬歳!」
「國王陛下、ご婚約おめでとうございます!」
そんな中、兄様達が、私に耳打ちしてくる。
「ね、リリス聞いてた?」
兄様達に尋ねられて、私は首を橫に振った。
びーーーーっくりだわ! 全く、いつの間に!
すると、お父様が、みんなに向けて語り始める。
「私は、前の妻を早くに亡くし、その後は妻は娶ろうとは思わなかった。だが、強く、しく、賢いアスタロト殿に出會って、共に生き、寄り添ってしいと。そう願った。……我が子達よ、勝手に決めて済まん。だが、どうか認めてほしい」
そうね。お父様は、早いうちに私達のお母様を亡くして、獨りで、この地を守るために戦いに明け暮れてきた。でも、もう、この土地に『災厄』はこない。
立派にお勤めをこなされてきたんだから、そういう人を迎えてもいいと思った。
それに、お相手は私が大好きなアスタロトなんだもの!
だから。
「とーしゃま。おめれとー、ございましゅ!」
私が言うと、兄様達が続く。
「おめでとうございます!」
「おめでとうございます。アスタロト様、父をよろしくお願いいたします」
私達の言葉に、ほっとしたように、二人は顔を見合わせて笑みを浮かべ、そして、私達のいる壇上まで歩いてきた。
そして、壇上に到著したお父様が、まず、皆に告げる。
「祝宴の前に、丁度皆が祝いに來てくれている場だ。折角なので、略式ではあるが、戴冠式を行いたいと思う。皆には、それを見守っていただきたい」
そういえば、私達の國、獨立したのに、戴冠式もしていなかったから、お父様の頭上に、國王の冠はない。
すると、ガイア様を主神にする、ガイア教の法皇猊下が歩いて來られ、それに付き添うように、可式のテーブルに、冠を幾つか載せたものを、司祭が運んでくる。
「フォルトナー王家の皆様。この大陸に住まう全ての者達の安寧のために、本當にご苦労様でした。まさに、あなた方こそ、この國を統べるにふさわしいでしょう」
そう言うと、猊下はまず、一番立派な王冠を両手で恭しく持ち上げる。
「ダリウス・フォン・フォルトナー。ここへ」
そう猊下が告げると、猊下の前に、お父様が膝を突いて首を垂れる。
「ダリウス・フォン・フォルトナー。其方を、フォルトナー王家の國王として認め、祝福する」
お父様の頭に、王冠が載せられると、しぃんとしていた広間から、祝福の聲が湧き上がる。
その王冠の中央に飾られたのは、大きく見事なダイアモンド。
アスタロトが、私と共に初めてこの地を訪れた時に、彼から贈られたものだ。
そして、次は兄様達。
「アベル・フォン・フォルトナー」
猊下に呼ばれ、アベル兄様がお父様に替って猊下の前にひざまづく。
「其方を、フォルトナー王家の王太子と認め、ここに祝福する」
猊下の手で、王太子の冠が頭に載せられて、再び祝福の聲が上がる。
「カイン・フォン・フォルトナー」
次は、カイン兄様の番。
「其方を、フォルトナー王家の王子と認める。父と兄を助け、良い治世の助けとならんことを祈る」
「ありがとうございます」
カイン兄様が答えると、王子の冠が載せられる。
そうして、私の番がやってきた。
テーブルに殘ったのは小さく繊細な細工が施されたティアラだった。
小さな星屑のようなダイアモンドが幾つも嵌められていて、とても可らしい逸品だ。
「リリス・フォン・フォルトナー」
「はい」
私は、猊下の前で、ドレスの裾を摘み、屈んで頭を下げる。
「リリス姫。姫にして救世の英雄よ。これからも、父と兄を助け、種族による隔てのない融和に盡力してくれることを願う」
そうして、私の頭に、小さなティアラが載せられた。
「アスタロト殿。陛下と貴の結婚式には、ぜひそのしいお髪の上に、王妃のティアラを載せる栄譽をいただきたい」
「ありがとうございます。猊下」
最後に、猊下がアスタロトと言葉をわして、戴冠式は終了した。
その後は、飲めや歌えや踴れやの宴會だ。
英霊達は、食べる必要はないらしくて、大抵がお酒を楽しんでいた。
兄様達は、難しい辺境の息子達と言うこともあって、なかなか良い縁談もなかったと言うのに、手のひらを返したように、娘を推薦したがる貴族達に囲まれていた。
そんな喧騒の中、ふわっとベランダの方から優しい風が吹いてきて、私は、そちらに目線をやる。
すると、夜空に、小さな月が煌々と輝いていて。
私達への祝福と、謝と。
そんな気持ちを、新たに生まれなおしたガイアス様から贈られているような、そんな溫かな気持ちになった。
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