小型の飛竜ではなく、大きな竜で迎えに來てくださったのも、フォルトナーの國王陛下が配慮してくださった結果なのだと、空の旅の中で、アベル殿下から聞かされた。

飛竜だと、乗れる人數は二人ほど。

そうすると、飛竜をるフォルトナーの者と、僕や姉さんが二人きりになるのは、警戒するだろうと。だったら、ちょうど里帰りしているリリス姫に、ニーズヘッグを飛ばしてもらって、皆んなで乗るのならば安心もしてくれるだろうとの気遣いなのだそうだ。

確かに、フォルトナーの陛下の読みは正しい。僕だって、姉さんをフォルトナーの者といきなり二人きりと言われたら、悪気はなくとも警戒してしまう。

最初から、こちらの心境について様々配慮してくださる、フォルトナー王國のありように、僕の心に謝の念と、そして、やはり姉さんをお任せするのであれば……、という信頼と期待が高まった。

「ねえねえ、ひめさま。したをみて、しゅっごいのよ！」

リリス姫が、姉さんに下を見ようとっていた。

「ちょ、ちょっと怖いわ……」

姉さんは、風に煽られて舞う自分の髪を押さえながら、恐る恐る下を覗き込んだ。

「まあ……！　すごいわ。麥畑も家も街も、あんなに小さく！」

その言葉につられるように、僕も地表の方を見下ろしてみる。

「すごい……。國の境にこんなに長い壁が……」

僕は、流れていく景よりも、それだけの大規模な建造を作れる國力に、驚嘆した。

あるとは聞いていたが、実際に目にすると、その規模に改めて驚かされた。

僕は改めて思う。

彼の國は敵にしてはいけない。むしろ、融和し、助力を乞うべき國だ。

先代までの非を僕の代で詫び、そして、姉さんをけれていただくのだ……！

僕は、改めて、決意を固くするのだった。

大型竜での空の旅は、國をいでもあっという間だった。

竜は、城の屋上を著地場としているらしい。迷うこともなく、屋上へ著地し、迎えの兵士達も僕達を歓迎してくれた。

まず、リリス姫を抱いて、アベル王子が竜から飛び降りた。

そして、次にアベル王子から、姉さんに手が差しべられる。

「さあ、フェリシア姫」

男がこういう時ににエスコートをするのは當然のこと。

王族として生まれた姉さんも、それを普通にけ止めてきたのだが……。

「あ……、ありがとうございま……す」

その白いを赤らめて、差し出された大きな手の上に、おずおずと白魚のような手を乗せる。

意外だ。

姉さん、アベル王子を意識しているのだろうか？

手と手を重ねると、姉さんの手が大きな手に力強く包み込まれる。

「し高低差があって怖いかもしれませんが、安心してください！　責任を持ってけ止めますから！」

白い歯を見せて男らしい快活そうな笑みをうかべて姉さんの腕を引っ張った。

姉さんは、ジャンプして飛び降りる。

足が宙を浮き……、しっかりとアベル王子の腕の中に抱かれていた。

「あ、……あ」

姉さんが恥で真っ赤になっている。

何せ、順調にいけば結婚相手。そして、鍛えられたに屈託のない爽やかな青年の笑顔。

そんな男に、いわゆる姫抱きにされている。

アベル王子は、禮も言えずにいる姉さんに笑いかけ、そして、ゆっくりと足を地につけさせて、自分の傍に立たせた。

姉さんは両頬を押さえて、その赤らみを隠しているようだ。

「……済みません。姫があまりにも軽そうでしたので、つい……。軽率な振る舞い、お許しください」

「もう！　にーさま、デリカシーないでしゅ！　いきなりはダメでしゅ！」

姉が真っ赤に、アベル王子がそんな姉さんに謝っている橫で、リリス姫がアベル王子の膝裏を両手でグーパンチして、王子の膝がカックンとなる。

「こら！　リリス！」

「きゃーー！」

「ぷ……、ふふふっ」

姉さんの周囲を、追いかけ走り回る兄妹を見て、姉さんが微笑んでいた。

なんだろう。

僕は、一瞬の目眩のあと、幻のような幸福な景を見た。

姉さんが、フォルトナーの家の一員として溶け込み笑っている、そんな未來。

「あ！　ひめさま、わらった！」

姉さんの前でリリス姫が立ち止まり、下から見上げて笑いかける。まるで、ひまわりの花のような笑顔で。

「ふふ。兄妹仲がいいんですね」

そう言って姉さんが、リリス姫、そして、アベル王子に微笑みかける。

姉さんの可憐な花のような笑みを真っ直ぐに向けられて、アベル王子はボンっと発火したかのように、一瞬で顔が赤くなる。

「あ、えっと、兄妹……は、はい、仲はいいですね。家族も、父が再婚しまして、義母も含めて家族仲は良いと思っています。あ、その、……こちら、客間で待っておりますので、ご案します！」

姉を姫抱きしたスマートさからは一転して、ギクシャクとした言いになるアベル王子が、なんだか僕にも好ましく見えた。

実際は、シャイな方なのだろうか？

そんな彼の案で、僕達は、家族が待っていらっしゃるという客間に案されるのだった。