アスタロトが息急き切って執務室に駆け込み、元勇者の逃亡を告げた後、すぐに四天王たるもう一人の人が執務室に現れた。

ベルゼブブだ。しかも、両腕には年とゴブリンらしき怪我人を一人ずつ抱き抱えている。

「陛下！　ゴブリンの村に勇者が現れました。村の警備兵一人と私の配下一人が重傷です！」

私達は、その報告を聞いてすぐにソファから立ち上がる。勿論、ベルゼブブが連れてきた重傷の年とゴブリンを寢かせるためだ。

「……負わされた傷だけにしては、全のがおかしいですね……」

アドラメレクが寢かされた年の、服の前ボタンを外し、裾などを捲って全のを確認する。

刃で差し貫かれたのであろう傷が、赤く痛々しい。

そして、なぜか傷は腹の一箇所だけなのに、傷口を中心にして、全がドス黒い紫に変しようとしている。

二人とも同じような狀態で、同じように意識はなかった。

「リリス、フェルマー殿とマーリン殿を喚んでもらえるか？」

「はい。サモン、だいせいじょ、フェルマー。サモン、だいけんじゃ、マーリン」

私は、アドラメレクの要請に素直に従って、二人を召喚した。

「「お呼びでしょうか、マスター」」

私に禮を執りながら、彼らが現れた。

「うん。ちょっと急ぎでこの子を見てしいの」

私はそう言いながら、ソファに寢かされたベルゼブブの配下の年とゴブリンを指し示した。

「これは、一誰が……」

マーリンが眉間に皺を寄せて呟く。

「元ノートン王が召喚して、フォルトナーで奴隷になっていた元勇者達がやったらしい。彼らがゴブリンの村を襲い、その村の警備兵一人と、それを見咎めて間にった私の部下がこの狀態だ」

「フェルマー殿、わかるか？　これは……」

マーリンにしては珍しく、非常に困した顔をしている。

「……ええ。このの変は傷によるものじゃありません。傷からに侵した毒と呪い、その両方によるものでしょう」

フェルマーも、彼らの診察をしながら、表は訝しさと困で、せっかくのしい顔を歪めてしまっている。

「……貴殿も見立ては同じか」

「では、原因はともかく、治療を急ぎましょう」

フェルマーとマーリンが顔を見合わせて頷き合った。

「……よろしく頼む……！」

部下を傷つけられたベルゼブブは、掠れた聲で懇願する。

まずは一人ずつなのだろうか？　フェルマーとマーリンがベルゼブブの配下の年のそばに近づき、それぞれの利き手を年のの上にかざした。

「まずは私……解毒(アンチドーテ)」

フェルマーの手から優しいが溢れ出て、年のを覆う。

すると、指先、足先といった末端から紫っぽさが抜けていき、最後に傷口から出てきてを侵していたと思われる毒の塊がフェルマーの手元に集まった。

「これは、後で調べる必要があるかも知れません。とっておきましょう」

そう言って、アドラメレクが侍を呼んで清潔な瓶を持って來させた。

そして、侍が瓶を手に戻ってくると、フェルマーはその中に毒を閉じ込めた。

だが、まだ年のは淺黒い。

「これは単純な呪い狀態ですね。……おそらく、この切り傷を作った武によるものでしょう。解呪(ディスペル)」

今度はマーリンが解呪の魔法を発する。すると、掲げた手の周りからが健康的なに戻り、最後には末端まで綺麗になった。

すると、年はようやく意識が戻ってその赤い目を開く。

「っ！　痛い……！」

まだ傷口は修復していないので、年はその痛みに顔を歪めた。

「もう大丈夫よ。後は、傷を治すだけ。……クリーン、そして、ハイヒール」

フェルマーの手から優しいが生まれて年の傷を照らす。すると、傷口の周りが清められて修復されていく。

「……わあ！　もう、痛くありません！」

綺麗に傷の塞がった年が、瞳をキラキラさせて治してくれたフェルマーを見上げる。

「……事をよく聞かせてしいんだが、ゆっくりでいい、話せそうか？」

そこに、ベルゼブブが、部下を気遣わしげにしながら尋ねていた。

年は、上司であるベルゼブブに視線を移し、「はい！」と素直に頷いた。

「あ……、姿勢はまだそのままでね。が足りてないから、起きるのはまだ早いわよ」

そんな上司と部下のやり取りに気がついて、フェルマーが忠告をしてから、フェルマーとマーリンはもう一人の被害者の治療をすべく、移をした。

年は、ベルゼブブに、見たことを話し始めた。

勇者が魔王領に足を踏みれ、ゴブリン村を見つけたこと。

村人を一人斬りつけたので、止めようと自分が対処しようと思ったが、勇者のきのあまりの速さに、逆に返り討ちにあったことなど。

「お前の速さで、太刀打ちできないだと？」

あまり表を変えないベルゼブブが、驚いたように瞠目した。