《【本編完結済】 拝啓勇者様。に転生したので、もう國には戻れません! ~伝説の魔は二度目の人生でも最強でした~ 【書籍発売中&コミカライズ企畫進行中】》第5話 魔の捜索
前回までのあらすじ
ウサギのは臭みもなくらかく、最高に味しかったらしい。
勇者ケビンが魔族の王――魔王を討伐してから半年が過ぎた。
それまでずっと長い間魔王討伐の任を帯びていた彼は、目的を達してやっと自國へ凱旋したが、その後も忙しさは変わることはなかった。
やっとの思いで帰國したのだからしは休暇が貰えるものと思っていたが、予想に反してむしろ忙しくなったのだ。
國王への魔王討伐の報告から凱旋パレード、パーティーへの出席、王族や各貴族への帰國報告など、勇者パーティーがこなさなければいけない業務、行事は多岐に渡り、それも様々な貴族の思を考慮しながらなので、力のみならず神的にも削られる毎日だ。
もちろん勇者以外のメンバーもそれぞれの所屬先に戻ったが、自が抱える通常業務をこなしつつ、パーティーやパレードにも毎度引っ張り出されていたのだ。
そのように、ただ忙しさにかまけているように見えていたケビンだったが、実は裏で手を回している案件があった。
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もちろんそれは自の養育者であって教育者でもある魔アニエスの捜索であり、今日はその報告をけることになっていたのだ。
「ケビン、久しぶりだな。どうだ? しは落ち著いたか?」
王城近くのケビンの私邸に、セシリオがやって來ていた。
彼は魔王討伐の際に同行していたブルゴー王國騎士団の副団長で、36歳の厳つい男だ。
そのがっしりとした格は、まさにパーティーの盾として活躍していた。
「いや、相変わらずだ。本當は自分で探しに行きたいところだが、狀況がそれを許してくれないからな」
「まぁな。魔王殺し(サタンキラー)の英雄が人探しの旅に出るなんて、誰も許してくれないだろう」
ため息じりのセシリオの言に、ケビンは軽く頭を振る。
その仕草は、彼の言葉を肯定していた。
「それで、捜索結果はいかがでしたか?」
會話の橫から突然口を挾んでくる者がいる。
二人がそちらを振り返ると、し離れた所で茶を飲む若いの姿が見えた。
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ざっくりとしたローブをに包んだそのも魔王討伐の時のメンバーで、名をチェスと言う。
王國聖教會所屬の僧で年齢は18歳だ。
彼は魔王討伐の遠征では回復、治療などを擔當した防、回復系魔法のスペシャリストで、中々にらしい容姿をしている。
そんな彼の質問に、セシリオが答えた。
「あぁ、殘念ながら何も報は無しだ。騎士団の鋭の派遣の他にギルドにも依頼を出したが、全く何も出てこない」
「そうですか……」
殘念そうな顔をすると、チェスは小さな溜息を吐いた。
「ところで一つ訊いてもいい?」
それまでチェスの背後の壁にもたれるように立っていたデボラも口を出してくる。
彼は王國の諜報・特殊工作部隊に所屬する偵察・暗殺を得意とする諜報部員で、年齢は26歳。
皆と同じく魔王討伐時のメンバーだ。
彼は三人の顔を順番に見廻しながら口を開く。
「アニエスが最後に使った転生魔法ってどんなものなの?」
「そうですね、わかりやすく言うと自分のから神を切り離すものでしょうか」
この中では一番魔法に詳しいチェスが、その説明を始めた。
「神を切り離してどうする?」
「誰かのにり込むのです」
「り込む? 誰かって――誰に?」
「それはわかりません。ただ一つだけ條件があって、それは呪文が完したのと同時刻に死んだ人らしいです」
「死んだ人間のに神がり込むってこと?」
「はい。そしてそれが誰なのかは全くわからない」
「……それじゃあ見つかるにしたって、何年かかるかわからないんじゃないの?」
デボラが訝し気な顔をしていると、セシリオが渋い顔をする。
「そうだ。一何処の誰のに転生したのか全くわからない。別も年齢もなにもかも不明だ。だからこちらから見つけるのは相當難しいだろうな」
「……ちょっといい? 思うんだけど、そもそも死んだ人間のにり込んだところで無事に済むとも思えないんだけど。だって死んだ原因が病気だったり怪我だったり壽命だったりすれば、そのにり込んだってすぐにまた死んじゃうんじゃないの?」
その言葉に全員が何かに気付いたような顔をした。
確かにデボラが言うことはもっともだ。
「あぁ……そうですね、確かに。人が死ぬには何かしらの理由があるのでしょうから、そんなにり込んだって……」
「そう。だからもしかするとアニエスはもう――」
チェスも渋い顔をしながら小さな溜息を吐く。
決して口には出さないが、その顔には彼の複雑な心境が表れていた。
「や、やめてくれ…… アニエスは生きている。俺にはわかる。でも彼のほうから名乗り出てこられない理由があるに違いないんだ。きっと……」
ケビンの顔に苦しい表が浮かぶ。
その淺黒い端正な顔の眉間には大きな皴が刻まれて、最近ではその表はもう全員が見慣れたものとなっていた。
「あぁ、そうだな。あのアニエス――ばば様がそんな失敗するわけないよな。俺にもわかるよ。ケビンの言う通り、それにはきっと何か理由があるんだろう」
「そう――きっと、そうですね。――それでどうするのですか? 捜索はまだ続けるのでしょう?」
しかしチェスの質問にセシリオがまたしても渋い顔をした。
「いや、それが騎士団を使った正式な捜索はブルゴー王國しか無理だ。もしも他國に転生していた場合、我々は手を出すことができないし、他國も含めた捜索を続けるのであればこの先はギルドを通した非公式なものになってしまう。……すまない、ケビン。こればかりは俺にもどうにもならん」
「……そうか。 ――デボラ、それじゃあ諜報部隊はどうなんだ? 本來の任務を考えると、人探しなんて得意そうに思えるが?」
「前にも言ったけれど、わたしも上にはだいぶ掛け合ったのよ。でも人手が無いことを理由にいい返事は貰えなくて。……ケビンも知っているでしょう? 魔王が滅んだ途端、隣國のきが怪しくなってきたって。今はそちらに人をとられているから、余分な人員はないのよ。――もっとも理由はそれだけじゃないけどね。話によると、反アニエス派の第一王子派の差し金らしいわよ。どうしても捜索を邪魔したいみたい」
「くそ……いずれ次の魔王が擁立されるのは間違いないのに、人間同士で爭っている場合ではないだろう!? ましてや、一國の王座をめぐる爭いだなんて……」
ケビンの顔に苛立ちが満ちる。
人々から勇者と祀られている彼も、所詮は人の子なのだ。
笑いもすれば怒る時もある。
勿論イラつく時だってあるだろう。
「そうね。このままばば様が見つからなければ、新しい宮廷魔師の椅子には第一王子派の魔法使いが就くことになるでしょう。そうなれば第二王の扱いも相當ぞんざいになるんじゃないかしら」
「くそっ……エルミニア様か」
「ケビン、お前の気持ちはわかるが、いまの狀況ではアニエスの方から名乗り出てくるのを待つしかないな」
宥めるように口を開くセシリオの顔には未だ渋い表が浮かんだままだ。
決して誰も口にはしなかったが、本心ではもう既にアニエスはこの世にいないのではないかとも思っているようだった。
――――
「へっくちん!! うぃー」
くるしい三歳児の口から可らしいくしゃみが飛び出る。
ここ數日は雪が降り続き、鬱な気持ちが晴れることはなかった。
隙間風が通り抜ける小さな小屋の中は凍えるように寒く、リタのようないにはとても堪える。
我慢強くリハビリを続けたおかげで、リタはある程度自由に歩けるようになった。
あとは言葉の訓練が殘っているが、それも時間の問題だろう。
もともと言葉自は聞き取れているので、あとは口から言葉を出す練習をするだけだ。
そのために両親は絶えずリタにお喋りをさせるようにしてくれるし、そのおかげもあって最近ではしずつ話せるようになってきていたのだ。
「ねぇリタ。寒くない? 大丈夫?」
特に冷え込んだある日の朝、母親のエメが話しかけてきた。
もちろんそれは娘の言葉の練習のためなのだが、実際にはい娘と話をするのが単純に楽しかったようだ。
そんな母親の話には、リタはいつも付き合っていた。
「らいじょうぶ、しゃむくない」
「そう、よかった。早く春になればいいね。そうしたら一緒に外でいっぱい遊びましょうね」
「うん、たのしみらね。いっぱい、あしょぼうね」
最近やっとし話せるようになったが、その話し方は相変わらずたどたどしく舌も悪い。
それでも両親はそんな娘と話をするのが大好きだった。
彼らはリタとお喋りをする時はいつもニコニコと嬉しそうにする。
「ねぅ、かかしゃま」
「なに?」
「ととしゃまは?」
「とと様は村の人達と鹿の駆除に行っているのよ。――駆除と言ってもわからないかしら。えぇと……」
「しか、やっつけに、いった?」
「そうそう。リタは凄いわね。もう難しいお話がわかるのね。うふふ」
顔を傾げてらしくリタが訊き返すと、その頭をおしそうにでながらエメが目を細める。
隙間風が吹き抜けるうえに暖房設備がないために部屋の中はとても寒い。
だから小さなリタはに纏った何重もの服のために丸々と著膨れしており、その姿もまた可らしかった。
「悪いことをする鹿さんをやっつけに行ったのよ。もしかしたら今日は鹿さんのおが食べられるかもしれないわね」
『』という言葉に、小さなリタが反応する。
突然目を輝かせると、大きな聲で話し始めた
「おぉー、にく、にく!! にく、はべる!!」
まるで興するように「」を連呼する娘を見ながら、エメは小さく苦笑を浮かべる。
半年前に息を吹き返してから、まるで人が変わったように食を漲らせた娘。
彼は特にに目がなかったのだ。
その食が功を奏して、最近のリタはしずつふっくらとしてきていた。
とは言うものの、普段の末な食事ではこれ以上太ることは恐らくめないのだろうが。
せっかく普通に食事ができるようになったのだから、もっと栄養のあるものを食べさせてあげたい。
それを思う度に、両親は娘が不憫に思えてしまうのだった。
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