《【本編完結済】 拝啓勇者様。に転生したので、もう國には戻れません! ~伝説の魔は二度目の人生でも最強でした~ 【書籍発売中&コミカライズ企畫進行中】》第13話 大人の余裕

前回までのあらすじ

ばば様の行方が心配なケビンではあるが、婚約者のエルミニアにメロメロ。

若いってええのぉ……

ケビンが謁見の間から出てくると、それを待っていたかのように一人のが駆け寄ってくる。

その姿を見つけた途端、それまで張に強張っていた彼の顔に和な笑みが広がった。

「ケビン様、父との謁見はいかがでしたか?」

「あぁ、エルミニア様。こんな時間にだめですよ、ご婦人はもうベッドにる時間だ」

「まぁケビン様……そんな他人行儀な呼び方はおやめくださいと何度言えばわかるのです。私(わたくし)のことは呼び捨てで結構ですのよ」

「ははは、婚約したとは言え、まだあなたとは結婚したわけではありませんから。結婚式が済めば好きに呼ばせていただきますよ」

『結婚式』という言葉に反応したエルミニアは、何を思ったのか頬を赤く上気させると甘えたようにを尖らせる。

決してケビン以外には見せないその顔は、まるで小悪魔のように見えた。

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「ふふふ…… 承知いたしました。それではご隨意に」

ケビンと婚約者の第二王エルミニアは、會う度に同じ會話をしている。

それは彼らにとってはただの會話ではなくスキンシップの一部だったからだ。

未だ婚約者同士でしかない彼らがまさか本當に相手のれるわけにもいかないので、會話を通してじゃれ合っているのだ。

「姫様、ケビン様の仰る通りです。そろそろお休みの時間ですので……」

「えぇ、エレン、わかっているわ。もうちょっとだけ、ね?」

姫の後ろに控える侍が控えめに口を挾んだ。

その顔には些(いささ)か渋い表が浮かんでいる。

できることならこの二人をもうし一緒にいさせてあげたいと彼も思っているようだった。

それでも彼は職務上言わなければならないことは言うつもりだ。

「しかしケビン様はこの後も公務がおありなんですよ」

「ありがとう、エレン。私ももうしだけなら大丈夫だから、いましだけ目を瞑っていてくれないか?」

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そんな主人思いの侍の気持ちを察しながら、敢えてケビンもお願いをする。

これで悪いのは勇者と姫で、侍に責任はないことになった。

「……承知いたしました。でもしだけですよ?」

「エレン、ありがとう」

ケビンが禮を言うと、侍は一歩後ろに下がった。

正式に侍の許可が出たところで、エルミニアの表が引き締まる。

気がつくとその顔には今までのような甘い表は微塵も見えなくなっていた。

「それでアニエス様ですが、今後はどうなるのですか?」

「あぁ、國の捜索は方済みましたから、あとは國外になりますね」

「そうですか…… それではこの先はギルド頼みになるのですか? さすがに我が國の捜索の手は他國まではばせないでしょう?」

「そうですね。ブルゴー王國の名前では無理ですね。さすがに魔族や他種族に転生しているとは考えにくいですから、主に人族の國を探していこうかと。それらの國であればギルドの支部はありますから手は回せます」

「そうですか…… 言いにくいことを敢えて訊きますが、アニエス様が既に亡くなっている可能はないのですか?」

ケビンにとってこれほど言われたくないことはないだろう。

それはケビンの親と言っても差し支えない人が既に死んでいるのではないかと暗に言っているのだ。

しかし決して彼はそれを言いたくて言っているのでないことを、その表語っていた。

言い辛いことでも必要であれば口に出す、エルミニアとはそういうだった。

そんな彼だからこそケビンは好きになったのだ。

「それは大丈夫です。私にはわかるのです。説明はしづらいのですが、ばば様が生きていることは間違いありません。証拠を示せと言われると困ってしまいますが、こればかりは私を信じていただくしかないでしょう」

「承知いたしました。……ごめんなさい、きっと気を悪くされたでしょう? あなたにとって母親のような方が亡くなっているかもしれないなんて、そんなことは他人に言われたくないでしょうから」

そう言いながらエルミニアはふっと視線を外す。

控えめながらもと謳われた側妃に瓜二つの彼は、その容姿がとして完璧に近いのは當たり前のことだった。

ただ母親よりも々背が低いのだけが彼の欠點と言われている程度だ。

しかしそれは外見のみを評価したものであって、彼格や本來の質を知る者はない。しかしそれを理解するケビンは、外見のみならずその面も心の底からしていた。

「ばば様は必ず探し出します。そしてあなたとの結婚の報告をするのです」

「そうですね。アニエス様は私(わたくし)にとっても母のような方ですので、必ず報告をいたしましょう。二人一緒に」

「はい、姫。ばば様は必ずや見つけ出してみせます。このケビンの名にかけて」

ケビンはそう言い切ると、細ではあるが鍛え抜かれた自を拳で叩く。

その様子を頬を染めながら眺めていたエルミニアは、次第にそのき通るような青い瞳を潤ませ始めた。

「ケビン様……」

「姫……」

向かい合ったケビンとエルミニアのが次第に近づいていく。

常識的に言って、婚約中とは言え未だ結婚前の男がそのを近づけるのはご法度だ。

特にその片方が王ともなれば、それは余計に避けるべきだろう。

「ごほんっ!! ――姫様、お時間です。ケビン様はまだお仕事が殘っておられるのですよ。さぁ、お見送りを」

頬を染めて見つめ合う二人を些(いささ)かジトっとした目で眺めながら、侍が咳払いをする。

その聲には若干の呆れが混じっているような気がした。

すっかり暗くなった王城の廊下に、第二王付き侍の小さな溜息が消えて行った。

――――

オルカホ村の児四人行方不明未遂事件は、翌日には村中に知れ渡っていた。

もっとも村人が三百人もいないとても小さな村なので、村中と言っても大したことでもないのだが。

それでも四人の児が山奧からオウルベアの卵を持ち帰ったのと、ピクシーの加護をけて村まで送り屆けられた話は村人を大層驚かせたのだ。

リタの家の裏山の奧にオウルベアのつがいが巣を作っていることを村人たちは知っていた。

しかしその魔獣はこちらから縄張りに侵しない限り襲ってこないことも知っていたので、特に何もせずそのまま放置していたのだ。

近付かない限り襲って來ない魔をわざわざこちらから出向いて駆除するなど、そんな危険で無駄なことは誰もしようとしなかったし、村人たちはリタの両親も當然それは知っていると思っていたからだ。

しかしフェルもエメも、まさかそんな兇暴な魔が自宅の裏山に潛んでいるなど知らなかった。

もしも知っていれば、そんな場所の近くで子供たちを遊ばせるなんてするわけがないのだ。

普通の村人であれば當然知っているべきことを知らないのは、村人の中に誰もリタの両親に気を配る者がいない証拠だった。

そして今回の事件を切っ掛けにして、それは彼らも反省するところとなった。

もちろんフェルもエメも四年前にオルカホ村に住み著いた時には懸命に村に溶け込もうと努力したのだが、自分達とは明確に違う雰囲気を醸す二人に対して村人たちはなかなか心を開こうとはしなかった。

特に仲間外れにしているとか無視をしているということもないのだが、彼らはリタの両親に対して何処か余所余所しい態度をとり続けたし、必要最低限の付き合いしかしようとはしなかったのだ。

そして結局はそれを原因とするコミュニケーション不足により、今回の事件が起こったと言えた。

しかし今回の件で他の児の両親たちと打ち解けることが出來たフェルとエメは、この日を境に次第に村の中にも溶け込んでいくようになった。

「おはよー、ごじゃましゅ……」

いつもよりだいぶ遅い時間に目の覚めたリタが両親に挨拶に行くと、彼らはニコニコと笑いながら寢ぼけ眼の娘に挨拶を返した。

「おはよう、リタ。もう起きるのかい? 昨日はずっと森の中を彷徨っていたんだ。疲れているだろうからもうし寢ていてもいいんだよ」

エメ譲りのしい金の髪が寢ぐせでクシャクシャになっている。

そんなリタの頭をおしそうにでながらフェルが話しかけた。

そして額にキスをすると、リタがくすぐったそうにを捩る。

「ととしゃま、らいじょうぶ。もうちゅかれてないじょ」

「あら、そう? でも昨夜はぐっすり眠っていたわよ。多音では起きなかったし」

エメもフェルの真似をしてリタのクシャクシャの頭をで回し、最後にほっぺにキスをする。

やっぱりリタはくすぐったそうにを捩った。

「まぁ、元気なのは良いことだ。もう起きるのなら顔を洗っておいで。朝ご飯を一緒に食べよう」

どうやら両親はリタが起きるのを朝食を摂らずに待っていたようだ。

ふとリタが視線を向けると、テーブルの上に三人分の食が用意されているのが見えた。

著替えと洗顔を終えたリタが食卓に著くと、食事前の祈りを両親と一緒に捧げる。

そしていつものように食事を始めた。

今朝の食事もいつもと同じ、堅パンとと野菜なめの野菜スープだ。

毎日同じものを食べているのでとっくの昔に飽きてしまっていたが、リタは文句一つ言わずに黙って食べた。

自分は我慢強いのだ。

何故なら212歳の大人だからだ。

言ってもどうにもならない事に文句を垂れるほど自分は子供ではない。

毎度彼は自分にそう言い聞かせていた。

リタがぼんやり考えていると、一緒に食事を摂りながらエメが話しかけて來る。

「ねぇ、リタ。昨日持ち帰ったオウルベアの卵なんだけど、あれどうしようか?」

その言葉にリタの眉が跳ね上がる。

そうだ、昨夜は苦労してオウルベアの大きな卵を持ち帰って來たのだ。

あれは両腕を回しても屆かないほどの大きさがあり、持ち運ぶのにとても苦労した。

「おぉ――、オウルベアのたまご…… もちろん、はべる」

卵の話に突然めき立った娘の様子が余程面白かったのか、フェルが食事を噴き出しそうになっていた。

「もちろん味しく頂くつもりだけれど、元はと言えばみんなで獲ってきたのだから、四人で分けないといけないと思うのよ」

「ふむぅ…… でも……」

母親の言葉にリタは腕を組んで難を示した。

本當のことを言うと、あの卵はリタが一人で獲って來たのだ。

あの後リタとイフリートがオウルベアの巣を強襲すると、そこにはメスのオウルベアがいた。

そして彼ら――主にイフリートだが――の姿を見て恐怖に慄いたメスが兎のごとく逃げ出すと、巣の中には大きな卵が一つ殘されていたのだ。

それはオウルベアにとっては我が子そのものなのだが、それはリタの知ったことではない。

何故なら彼の頭の中にはそれを味しく食べることしかなかったからだ。

しかも彼は、一抱えもあるような大きさの卵を獨り占めしようとしていた。

どう考えてもリタ一人では食べ切れる大きさではないのに、誰かに分けるなどという崇高な考えは三歳児の頭の中にはなかったのだ。

最早(もはや)そこには、彼がいつも言う「大人の余裕」などというものは微塵も存在していなかった。

「でもね、こんなに大きな卵なんだから、どうしたって食べ切れないわよ。それにすぐに傷んでしまうだろうから、やっぱり皆で分けるべきだと思うけれど」

「うむむぅ……」

口を尖らせて膨れっ面をするリタを見ていると、どうしても彼はその卵を獨り占めしたがっているようにしか見えない。

それに気付いたフェルが、橫からエメの援護にる。

「それに、ほら、自分のものを皆に分けてあげるのは、お前がいつも言っている『お姉ちゃんの余裕』というものだと思うよ。リタはもう赤ちゃんじゃないんだから、なんでも獨り占めにするのは良くないんじゃないかな?」

「ぐぬぬぅ――」

そうだ、自分は212歳の大人なのだ。

なんでも獨り占めしないと気が済まない児と一緒にされては困る。

これではまるで、自分の思い通りにならないからと言って地面をのたうち回る聞き分けのない児そのものではないか。

「わかった…… カンデとシーロとビビアナとわけりゅ……」

どうやらフェルの一言が効いたらしく、リタは大人しく両親に従った。

それでも彼は、いつまでも未練たらたらの表を崩すことはなかった。

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