《【本編完結済】 拝啓勇者様。に転生したので、もう國には戻れません! ~伝説の魔は二度目の人生でも最強でした~ 【書籍発売中&コミカライズ企畫進行中】》第26話 四歳児からの手紙

前回までのあらすじ

若いな。

翌日の朝、パウラとクルスが首都アルガニルに戻るために村長の家を出ると、そこにリタが待っていた。

そしてその後ろには小脇に何かを抱えた彼の両親も姿を見せている。

両親は出発する冒険者二人に改めて禮を述べると、その手に抱えていた弁當を手渡した。それは首都に戻る二人がお晝に食べられるようにと、朝早くからエメが用意したものだ。

二人がそれを有難くけ取って早速出立すると、村の端まで見送りをすると言ってリタがついてくる。

それは傍から見ても自分を助けてくれた恩人に最後の見送りをする姿にしか見えなかったが、実は他に目的があった。

「ねぇ、訊いてもいいかしら。あなたの両親なんだけど……なに者?」

昨夜はリタの両親が傍にいたので、今後の詳しい話をする機會がなかった。

だからここで最後にし話をしようと思い、小さなでトコトコと二人の橫を歩くリタに向かってパウラが話しかける。

もちろんリタもそのつもりで一緒に歩いていたのだが。

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「……いきなしそれか。まぁ、確かに気になるじゃろうのぉ」

「まぁね。もっともこれは単なる好奇心でしかないけれど。いまは彼らの正は大事なことではないしね」

パウラのその言葉に、リタは考え込むような仕草をした。

もそれについては何か気になることがあるようだ。

「ふむぅ、じちゅはわちにもよくわからん。かか様もとと様も何処かの貴族なのは間違いないとは思うんじゃがのぉ」

「そう…… まぁ、それほど大事なことではないからいいけどね」

実は両親の正についてはリタもよく知らないのだ。

それでも二人が何かの理由で実家から逃げてきたこと、実家に居場所が知られないように気を付けていること、そして最近はリタの魔力持ちの件をやはり相談するべきか悩んでいること、などは彼も把握していた。

それは決して自分には無関係でないために、やはり近いうちに両親に尋ねてみようと思ってはいたのだが、その機會もないまま何となく時間が過ぎていた。

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しかしこの場ではこれ以上この話をしたところで意味がないので、パウラは早々に話題を変えた。

「それで、アニエス。あなたはこれからどうするつもり?」

「わちか? わちはこのまま両親と一緒に暮らそう思ちょるよ」

「この先もずっと? 國には戻らないの? 自分の國に心殘りとかないの?」

「しょんなものはないわな。まわりの奴(やちゅ)らは己(おにょれ)の権力にしか興味ないしの。魔王討伐(とうばちゅ)も無事に終わったし、わちの時代も終わったということじゃな」

そう言うと、リタは何処か遠くを見るような目をする。

その先には遠く彼の祖國があるのだろうか。

「しょれで、おまぁらに頼みがあるのじゃが、頼まれてくれろ」

「頼み?」

「うむ。頼みじゃ。こりぇをブルゴー王國にいりゅ、勇者ケビンに渡してほしい」

リタはそう言うと、ゴソゴソと服の側から何かを取り出してパウラに手渡す。

「これは? ――手紙?」

「そう、この手紙を間違いなく頼む。かならじゅ、渡しゅのじゃ。ええか?」

児の小さな手から渡されたものをパウラがしげしげと眺めてみる。

リタが言う通り、確かにそれは手紙だった。

その証拠に、決して上等とは言えない末な紙で手作りしたと思しき封筒には、宛名に「ケビン・コンテスティ」、差出人名に「アニエス・シュタウヘンベルク」の名が拙い四歳児の筆跡で書かれている。

一般の識字率が決して高くないこの時代の、さらにこんな辺境の村なのだ。

それこそ文字を読み書きできる者が村に一人でもいればマシと言えるこの狀況で、ただの農夫の娘である四歳児のリタが文字を書けることは驚きだった。

もっともその正が「ブルゴーの英知」との異名を持つ宮廷魔師のアニエスであることを考えると、決しておかしなことではないのだが。

リタの小さく気な外見にしばしばわされるが、彼が文字の読み書きができて當たり前の人であることを思い出すと、彼らはホッとした顔をした。

何故なら一介の冒険者でしかない彼らも、仕事に必要な基本的な文字程度しか読み書きができず、それこそ手紙を書くなどといった蕓當には到底適わなかったからだ。

こんな小さなの方が読み書きの能力が上である事実に、彼らは一瞬劣等を抱いてしまったのだった。

「これをブルゴー王國の勇者ケビンに渡せばいいのね? でもこれが本である証拠は? 仮にも一國の要人に手紙を屆けるのよ。これが本の『ブルゴーの英知』からの手紙である証拠が必要なんじゃない? さすがにこれだけではギルドが納得しないかも」

「しょれは信用してもらうしかないのぅ。この手紙が本かどうかは、ギルドはともかく、ケビンには絶対にわかるはずじゃ」

前世でケビンと別れる際、彼は必ず探し出すと約束してくれた。

そして育ての親であるアニエスを敬し、かつ生真面目な格であるケビンのことだから、アニエスが生きていると信じていつまでも探し続けるはずだ。

だから一刻でも早く自分が無事である事実を伝えてあげたかった。

そしてすぐには戻れないにしても、自分が元気に暮らしていることだけでも知らせてあげたかったのだ。

彼であればこの手紙の真偽は見ただけでわかる、リタにはそんな予めいたものがあった。だから敢えて本と証明するような仕掛けなどは施さなかった。

「そう、わかったわ。それじゃあこの手紙はギルドの支部を通して速やかに屆けるわね。約束する」

「うむ、すまにゅな。恩にきりゅわい。――そりからこれをけとりぇ」

続けてリタが懐から取り出したのは、人の掌ほどの大きさの人形だった。

見る限りそれは彼の手作りらしく、人間のを模した布の中にを詰め込んだもので、所謂(いわゆる)「ぬいぐるみ」のようなものだ。

確かにそれはリタが一生懸命に作ったことがわかるものだったが、その些(いささ)か不気味過ぎる見た目は思わずパウラがけ取るのを躊躇うほどのものだった。

それは児がよく描く謎の人間の絵をそのまま形にしたようなもので、わかりやすく言うと「呪いの人形」のように見えなくもない。

そんなものを厳かに手渡して來た彼の想いを推し量ることができずに思わずパウラが戸っていると、やや強引に手に押し付けられてしまう。

そしてパウラとクルスがそれを覗き込んでると、リタが続けて口を開く。

「そりぇは、おまぁらの結婚祝いじゃ、けとれぃ。うちは貧しいて、こんなもにょしか渡せんくて、すまんがのぉ」

「これは……?」

「うむ。こりはただの人形ではないじょ。わちの魔力を練り込んだ、言わば『お守り』のようなもにょじゃな。持っていれば何かの役に立つじゃろのぉ」

リタはお守りだと言うが、二人にはどう見ても「呪いの人形」にしか見えなかった。

しかしさすがに結婚祝いと言いつつそんなものを手渡すのは灑落が過ぎているし、このあどけない顔をした児がそこまで捻くれているとも思えなかった。

そんな四歳児の好意を無下にもできず、結局パウラは無理に嬉しそうな顔を作るとそれを手元に引き寄せる。

その顔は微妙に引きつっていた。

「そう……ありがとう。た、大切にするわね……」

「す、すまんな。こんな祝いまで貰っちまって……」

々口元を引きつらせながら手紙と人形を元に仕舞い込んだパウラの姿を見ると、リタはニィ~っと破顔する。

その顔は正真正銘の四歳児そのもので、何処から見てもその中が212歳の老婆だとは思えないものだった。

そしてそのらしくあどけない顔を見たパウラとクルスは、近い將來生まれてくるであろう自分たちの子供に想いを馳せると、逸る気持ちを抑えながら粛々と帰路に就いたのだった。

――――

「なに? ギルドからの使者だと?」

ここはブルゴー王城に設けられた數多ある私室の一室。

そこでいま、ギルドからの使者が訪れたのを勇者ケビンが聞いたところだ。

彼は王城からし離れた場所に私邸を持っているのだが、日中の業務遂行や打ち合わせなどを王城で行うことが多いため自分専用の私室を一室割り當てられている。

いまもそこで來月行われる予定の第二王エルミニアとの挙式の打ち合わせをしているところだった。

そこに至急の要件だとしてギルドからの使者が割り込んできたのだ。

本來であればアポのない相手は門前払いされるところだが、以前から彼らを最優先で通すようにと言ってあるので、來月の挙式での裝決めをしているところであるにもかかわらず速やかに部屋の中に通されていた。

「はい。今朝のギルド支部間の早馬便で屆いたのですが、これを至急あなた様にと」

使者から差し出されたものをケビンがけ取る。

そしてしげしげとそれを眺めてみたが、確かにそれは手紙以外の何でもなく、表に「ケビン・コンテスティ殿」と書かれていることからもそれは自分宛で間違いないのだろう。

それにしても字を憶えたばかりの子供のような拙い文字で書かれているのが胡散臭さを醸しているが、一誰がこれを書いたのだろう。

などと思いながら裏面に目を向けると、その瞬間ケビンの直した。

そこには間違いなく「アニエス・シュタウヘンベルク」と差出人の名前が書かれていたのだ。

それも宛名書きと同じように汚い文字で、だ。

そもそもギルドが彼以外からの手紙をこんな火急の使者を送ってまで屆ける訳もなく、このことからもギルド自がこの手紙が本であることを認めているようなものだ。

それにしてもこの汚い文字が気になるが、いまはそれは橫に置いておこう。

逸る気持ちを抑えつつ、ケビンはその末な紙をり合わせただけのような手紙の封を切る。

すると中から一枚の紙が出てきた。

それも外側の封筒と同じで決して上質とは言えない紙で、その形も完全な四角形ではなく、些か不格好な形をしていた。

そして周りから見えないように気を配りながら、その手紙の本文を読み始めたのだった。

『はいけい ゆうしゃちま。わしわげんきにしている。いまわよんちいのおなのことして、ととちまとかかちまとしおわせにくらしているから、きにしないでほしい。でも、いまいるばしょわおしえられない。おまえなら、りゆうわわかるだろう。それぢゃ、ばいばい』

※原文そのまま

※畫像はイメージです。実際とは異なる場合があります。

「……」

ケビンはその手紙の解読に、たっぷり五分かかった。

それはそれだけ読み取るのに苦労するような悪筆――すでに一部は文字ですらない――だったからだ。

そしてその手紙を読み終わると、使者が待っていることも忘れて暫く茫然としていた。

いや、正直に言うとこの手紙に対してケビンはどういうリアクションを返せばいいのかわからなかったのだ。

宛名や差出人の文字を見た時から何となく嫌な予はしていたが、手紙本文もなかなかにアニエス本人が書いたものとは到底思えなかったからだ。

しかもその拙い児が書いたような汚い文字の橫には、恐らく両親の姿を模したものと思われる絵も描かれていた。

それは丸い円から手足と思われるものが直接生えていて、そのてっぺんには髪のらしきものがぐしゃぐしゃと塗りつぶされている。

そしてその手前には、謎の四足歩行のらしきものの姿も描かれていた。

それはまさに、四歳児が毆り書きしたお絵描き以外の何にも見えなかったのだった。

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