《【本編完結済】 拝啓勇者様。に転生したので、もう國には戻れません! ~伝説の魔は二度目の人生でも最強でした~ 【書籍発売中&コミカライズ企畫進行中】》第27話 勇者の願い
前回までのあらすじ
ユニ夫がやたらと薄っぺらい件について
「ケビン様、如何されましたか?」
ケビンがリタからの手紙を持ったまま固まっていると、その様子に怪訝な顔を向けたギルドの使者が聲をかける。
もちろん彼もその手紙が誰からなのかは把握しているし、その容も気になっていたが、立場上彼がそれを口にすることはできない。
だから淡々と己の責務のみを果そうとしていた。
「ケビン様。もう一つあるのですが――どうぞこちらもお納めください」
その言葉に現実に引き戻されたケビンが視線を向けると、ギルドの使者がもう一通の手紙を差し出した。
それはアニエスからのもとは違い、上質な紙に丁寧な文字で宛名が書かれており、ギルド謹製の封蝋によって厳重に封が施されている。
「これは……?」
「はい。ギルドからの報告書です。先ほどお渡ししたものの手経緯や説明など、子細が記されております。さ、どうぞ、おけ取りを」
それがあるなら最初から言え、と言わんばかりの目つきでそれをけ取ると、ケビンはまたも逸る気持ちを抑えながら封を開けた。
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中には細く小さな文字がびっしりと書かれた上質な紙が五枚っており、手紙というよりレポートに近いものであることが一目でわかるものだ。
それはアニエスを発見したギルド員の口述を報告書にまとめたもので、ところどころ伏せられている部分はあるが、かなり詳細にその経緯が記されていた。
そしてそこには、先ほどの手紙に対するの多くの疑問の答えが書かれていたのだった。
アニエスは生きていた。
そして現在、ハサール王國にいる。
しかしその詳しい居場所は報告書でも伏せられていたし、ギルド自もそれは明らかにできないと言う。
それはアニエス本人の希によるもので、実際に彼を発見したギルド員とハサール王國支部のギルド上層部數人しかそれを知らないらしい。
その処置は彼の居場所がバレることによる弊害――暗殺や拉致などを恐れたもので、その居場所を知りたければ彼に接したギルド員かハサール王國支部ギルドの幹部に直接尋ねるしかないのだろう。
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なるほど、と思わずケビンは頷きながらその先を読み進める。
するとそこから先は更に驚くべき事実が書き記されていた。
転生の魔法を功させたアニエスは、何処かの若い夫婦の娘として暮らしている。
そして年齢が四歳という以外は全て伏せられており詳しいことは何一つ書かれてはいなかったが、そこで彼は幸せに暮らしているという。
現在の生活に彼は満足しているし、両親とも仲が良く、彼らと円満な関係を築いているらしい。
そして魔力は前世同様の量を保有しているが、その行使に些か難儀しているとも書かれていた。
この文章だけでは詳しいことは不明だが、どうやら彼は以前と同様には魔法を行使できない狀態になっているようだ。
そして最後に驚くべきことが書かれていた。
それはアニエスがここに戻る気がないということだ。
現狀、四歳児でしかない彼がブルゴー王國に戻ったとしても、何もできることはない。
いのせいで以前のような強力な魔法は使えないし、そんな狀態で今さら宮廷魔師として元の地位に戻ることなどできないだろう。
それに気な四歳児に上司として戻って來られても宮廷の人間は困するだけだ。
そしてなにより、アニエスはもう百年以上君臨してきた宮廷魔師としての地位に飽き飽きしているのが一番の理由らしい。
最近ではの衰えもじて、そろそろ若い後進にその座を譲るべきだと思っていたし、そのタイミングを計っていたのも事実だ。
だからある意味これはちょうどいい機會とも言えるものだ。
たとえ彼がここに戻って來たとしても、後進に席を譲った後は速やかに引退して隠居生活を送るだけだし、いまさら國政に口を挾む気などはほどもなかった。
最後の結びの一文は実際にアニエスに接したギルド員の個人的な想が記されているのだが、その文章を読んだケビンは思わず唸ってしまう。
そこには簡潔な文章で、
「田舎での長閑な生活に慣れてしまったアニエス殿は、今までの全てのことが面倒になったように見えた。いまさら彼は宮廷の権力、勢力爭いに興味が持てず、できることなら遠ざかりたいとも言っていた。それも彼が祖國に帰りたがらない理由の一つであると思われる」
などと書かれていたのだ。
確かにアニエスが王宮の勢力爭いに愚癡を零しているのを以前からケビンも聞いてはいた。
それは家族同然のケビンにしか決して見せない姿ではあったが、その様子からは彼の本心がけて見えたのだ。
百年以上王國の宮廷魔師を務め続けるアニエスには、王宮では一定以上の発言力がある。実際に現國王のアレハンドロも何気に彼の言には気を配っているし、自の時の家庭教師を務めた彼には頭が上がらない部分もあるのだろう。
アニエスにそんなつもりはなかったとしても、その発言力と影響力に魅力をじた多くの貴族がり寄って來ていたのも事実だし、それを面白くないと思う一定の勢力があるのもまた事実だ。
時からずっと一緒に暮らしていたからこそケビンにはわかるのだが、アニエス自は権力には全く興味がなかった。
すでに齢212を數える老した彼だからこそ、権力の持つ恐ろしさやそれに踴らされる愚かさを達観した視線で眺めていたのだろう。
だからその報告書の結びの文はケビンが完全に納得する容だったし、拙い文字で書かれたアニエス直筆の手紙も、恐らく本だろうと信じることが出來たのだった。
アニエス生存の報は、限られた者達の間だけで共有されるに留められた。
もちろんその中には現國王も含まれる。
彼は第二王のエルミニアを溺するあまり、すでに王宮の勢力図では第二王派と見られており、その彼が他の者にその件をらす恐れがなかったからだ。
確かに國王とは大きな権力を持つ存在ではあるが、王室法によって厳重に定められている王位継承権にまではたとえ國王といえども口を挾むことはできない。
だからいくらアレハンドロがエルミニアを溺していたとしても、第一王子が存命である限り彼の王位継承は揺るぎないものと言えるのだ。
しかし著々とその地盤を固めつつある第一王子セブリアンではあるが、目下の彼の敵は第二王子イサンドロと宮廷魔師アニエスだった。
セブリアンに何かあれば次に王位を継承するのはイサンドロなのでそれを警戒するのはわかるのだが、何故に元宮廷魔師のアニエスまでも警戒するのだろうか。
もしも彼が國に戻ってくれば、後釜に就いていたイェルドは即座に追い出されるだろう。
それほどまでに両者の力の差は歴然なのだ。
この百年以上は魔法で彼に敵う者は誰もいなかったし、現宮廷魔師のイェルド・ルンドマルクをしてもアニエスの足元にも及ばないと言われているのだ。
事実、既に百五十年前からアニエスが無詠唱で魔法を行使しているというのに、イェルドは未だに一つもそれをし遂げられていない。
それもまた彼がアニエスに対して劣等を募らせる原因になっていたし、萬が一彼が戻って來るようなことがあれば、イェルドは速攻で今の座から引き摺り降ろされるのは目に見えている。
彼ら一味にアニエス生存の事実が知られでもすれば、きっと彼に暗殺者を差し向けるのは間違いない。
だから王位継承を爭う彼らには、アニエス生存の事実と居場所は絶対に知られてはいけない重要事項となったのだ。
私室からギルドの使者が帰っていくと、ケビンはホッと小さな溜息を吐いた。
アニエスは生きている。
そして幸せに暮らしていた。
いまのケビンにはそれだけで満足だった。
これで長年の懸案事項だった育ての親の生存が確認できたのだ。
彼はここに戻る気はないらしいが、それでも全く構わない。
浮浪児として道端で暮らしていた彼が前宮廷魔師に拾われてから約二百年、彼はずっとこの國のために盡くして來た。
人も作らず、結婚もせず、そのの全てを國に捧げたのだ。
だからそろそろ彼の好きにさせてもいいのではないだろうか。
聞けば転生先は四歳の児だという。
そして前世では持ち得なかった両親も揃っており、ともに幸せに暮らしているとも聞く。
だからこれからはアニエスではなく、新しい名前で別の人生を送ってほしい。
自の養育者でもあり教育者でもあった212歳のアニエス・シュタウヘンベルクの優し気な微笑みを思い浮かべながら、勇者ケビンは遠く沈みゆく夕日をいつまでも眺めていたのだった。
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