《「もう・・・・働きたくないんです」冒険者なんか辭めてやる。今更、待遇を変えるからとお願いされてもお斷りです。僕はぜーったい働きません。【漫畫1巻+書籍2巻】》29 落日のギルド7

固く冷たい床のを頬にじながらギルマスが目覚めると、手首がずきずきと痛く足も満足にかない。どうやら簀巻きのように縛られているようだった。

何処かで聞いた男の聲が響く。

「起きましたか?」

「誰だ?」

ため息が聞こえる。

「カンが鈍いですね。いや、だからこそ今そこにいらっしゃるのですが」

「くそっ!」

ギルマスの視界に磨き抜かれた靴先が見える。ごろりと転がって見上げるとやはり執事イエスマン。

「逃亡を図ったという事は、子爵さまの依頼は失敗されたようですね」

「ちっ。汚いぞ!新型結界を張ったのは、アンタか!?」

執事は、憎悪に歪むギルマスを見て思わず吹き出す。

「ふふっ、これは失禮。優秀な森林警備隊は子爵さまの庇護下という意味ではその通りです」

「くそっ。私を嵌めやがって!全てアンタの手のひらの上だったという事か、イエスマンっ!」

執事は得意げに鼻で笑う。

が、実際には森林警備隊の孫請けであったエクスが、一人でやっていた雑用だとは知る由もない。

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エクスの手のひらの上で、何も知らない執事はドヤ顔でギルマスにマウントを取ってきた。

「さて、貴方の処遇ですが、大好きなお金の元になる鉱山で働かせてあげましょう」

「…!い、嫌だ」

ギルマスの顔が恐怖に染まった。

「前金で渡した金貨1枚分。1年ぐらいですか?せいぜい頑張ってください」

「そんなっ考え直してくれ、イエスマン様!預かった金なら、返すから!」

慌てて鞄を見るが、持ち逃げしようとしたは既に全て冒険者ギルドに回収されていた。普通の犯罪者として私刑もけず突き出されているだけむしろ僥倖である。

殘っていたのは黒い瘴気を放つ隷屬の指だけだった。高価だが、これは帳簿外品のためギルドに回収されなかったのだ。

「はて?いったいどこにそんな金が?むしろ、貴方の命があるのが不思議です」

「ぬぐっふざけるな。アイツら私の退職金を盜みやがって」

森で行き倒れているところを助けられ、命を救われておきながら、ギルマスは反省も謝もしない。殘念ながらそういう男だ。

イエスマンが隷屬の指を拾い上げると、怒りに燃え始めていたギルマスの顔が再び恐怖に歪み、芋蟲のように逃げ出す。

「さて、良いものをお持ちですな?所有を許可しましょう。なに、遠慮しなくて結構です。嵌めて差し上げますからね。これも執事の嗜みです」

「止めろ!止めてくれっそれだけは。馬鹿かっそんなの人に使っていいでは無いだろう!!! っ!! ぐわあああ。寒い寒い寒い。ィ!!!!心から溫かさが消えていく…!」

親指に裝著されると、黒い瘴気が元気よく心エネルギーを喰らい始めた。寄生する指とは長いお付き合いになりそうだ。

「後ほど鉱山まで送らせましょう。送迎のお金はサービスしておきます」

「待て。話を聞いてくれ。私が悪かった。だがら、待ってくれイエスマァーーーン!!」

イエスマンは振り返らない。

ガチャンと鉄格子が閉まる音がすると、カツカツと足音が遠のいていった。

子爵家の客に相応しくない目つきの悪い男が別室で待っていた。彼は鉱山の奴隷主。

「頼みましたよ」

「執事さま、隨分と怖い顔をしているな」

牢屋の鍵を渡す。

「危うく逃げられそうになりましたから。あのような輩に出し抜かれるとは私も隨分と耄碌しました。隷屬の指を嵌めましたので今後は扱い易いでしょう」

「おっかねぇ。あんたは敵に回せねえな」

奴隷主は肩をすくめて、執事イエスマンを見送る。

ようやく執事イエスマンは、エクス獲得に向けて自らきだした。

晝飯を食べに出掛けようとエクスが宿屋の付に降りると、執事イエスマンが立ったまま待っていた。

「エクス」

「執事さま、お久しぶりです」

會いたくなかった…とエクスの顔には書いてある。

「エクス。冒険者を辭めたそうですね。喜びなさい。直接、貴方を子爵家で登用しましょう」

「執事さま。もう……(子爵さまの下で)働きたく無いんです」

なっ!?

「何ですと?貴方なら、腐らず働けば數年もあれば私の後を継ぎ、やがて執事になれるでしょう。未経験でも今からしっかりと鍛えてあげますから安心してください」

「嫌です」

エクスの攻撃、ルカのお斷り魔法を発

執事は、レジストした。

「子爵さまの執事ですよ?・・・こんな名譽な仕事は」

「嫌です」

エクスの攻撃、ルカのお斷り魔法を発

執事は、レジストに失敗した。

執事に、1の神ダメージ!

執事イエスマンはふらりと怯む。

その顔には焦りが浮かぶ。そんなっ、私の仕事に魅力をじないとは最近の若者はどうなってるんだ!?と目が語ってる。

「しかし、エクス。前金をけ取っていながら斷る事など出來ませんよ」

「前金って何の事ですか?」

ここでようやく執事は自分の失態に気付き始めた。

「…金貨10枚」

「何の話ですか?凄い大金ですね。ですが僕は、どんなにお金を積まれても子爵さまのお仕事は嫌です」

ドヤァと幸せそうなエクス。

執事は理解した。まんまとギルマスに出し抜かれていた事に。あの男っ金貨1枚だけでは無く、エクスに渡すはずの金貨10枚もガメていたとはっ!!と悶えする。

執事に、10の神ダメージ!

執事は、逃げ出した。

「エクス、今日は引きます」

「は、はあ??お疲れ様でした」

足早に立ち去った執事をエクスはぼんやりと見送る。何も知らないエクスは気楽に背びをして呟いた。

「今日は何を食べようかなあ」

青い空。

ゆっくりと流れる白い雲。

遠くで執事の咆哮が聞こえた。

「ぬおおおーーーっ!!!」

通行人がぎょっとした目で見るが、錯した執事に関わらないように離れていく。

ひと目も気にせず、頭を掻きむしる。

「あのギルマスにしてやられたっ!!!どうやら私は本當に耄碌していたようだ。だが、間にって全てをカッ攫うとか普通考えつきますか??子爵さまも大概ですが、こんな悪人が世の中にいるものですか?ええおみどおり金貨10枚分の刑期を増やしましょう。ああ、子爵さまにはなんて説明すれば良いんだ。そんなの出來ません」

その頃、渦中のギルマスは鉱山にいた。

「くそったれ、外れないぞ。この指!ヤバい。心が、心がどんどん冷えていく」

「おい新り!刑期が終われば外してやるから、さっさと働け!!」

奴隷頭から叱責が飛ぶ。

ギルマスは怒りを無理矢理燃やして、ツルハシを握り締めた。

「心を燃やせ!こんな指に負けるな。執事が憎い。エクスが憎い。冒険者どもが憎い――!」

ガツン、ガツンと巖盤を削る。

だらしなく太ったから辛い匂いのする汗と脂肪が流れた。

劣悪な環境の埃を肺に吸い込む。

「ゴホッ。…なに、たった1年だ。それくらいなら耐えられる。許さんぞ、私の心は決して折れないっ!」

彼はたった今執事に悪事がバレて刑期が10年延び、合計11年になっている事をまだ知らない。

頑張れ、ギルマス!!

森の霊達が帰りを待っているぞ!

の力に屈して反省する日も近いかもしれない。

カツーンッ!

鉱山で響くのは懺悔の聲。

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