《【書籍版4巻7月8日発売】創造錬金師は自由を謳歌する -故郷を追放されたら、魔王のお膝元で超絶効果のマジックアイテム作り放題になりました-》第4話「魔王に雇われる」

森の出口で、馬車が待っていた。

3頭建ての大きな馬車だった。黒塗りの車に、銀の飾りがある。魔王の紋章らしい。

俺とメイベルが乗り込むと、馬車はゆっくりと進み出す。

窓からは外が見えた。

「ここが、魔王領か」

街道のまわりは広い草原だった。

遠くには大きな川が流れていて、船が行き來している。

船をかしているのは鱗(うろこ)がある魚人(マーマン)だ。

船の近くをが泳いでいる。耳のあたりにひれがある。たぶん、人魚(マーメイド)だ。

草原では狼っぽい獣人が羊を追っている。

馬車の近くで大きな荷をかついでいるのは、熊の獣人だろう。

々な人がいるんですね」

帝國の人々は、魔王領は混沌(こんとん)とした場所だと言っていた。

領地に足を踏みれたら、魔獣が襲ってくるとか。

兇悪な獣人がいて、人間をさらっていくとか。

そんなふうに言われていたけど──実際に見ると、みんな普通に暮らしてる。

というか、帝國よりおだやかだ。

殺気立った騎兵が走ってるわけでもないし、衛兵が旅人をおどしたりもしていないし。

「魔王領は、人口がないですから」

メイベルは言った。

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「いろいろな種族の者たちに、それぞれ得意な仕事をお願いしているんです。適材適所ということですね」

「合理的ですね」

「トールさまにもぜひ、魔王領でお仕事をしていただきたいと考えています」

「俺にも?」

「魔王領が、帝國から客人を招いているのは、新たな技や知識を教わるためですから」

話が全然違ってた。

俺が命じられたのは、魔王領への人質になること。

それどころか父親は「死んでこい」と──いけにえになれと言っていた。

ところが、魔王領の人は俺を「客人」と呼んでる。

実際にはエルフのに歓迎されて、賓客(ひんきゃく)扱いだ。

「ひとつ、うかがってもいいですか?」

「はい。どうぞ」

「これまでも魔王領へひとじ──いえ、使者として來た人がいるはずですが、その人たちはどうしてるんですか?」

「前回は50年前ですね。わたくしはまだ生まれてなかったので、話に聞いただけですけど……」

メイベルはし考え込むようにしてから、

「確か……ここに來てすぐに、帰ってしまったと聞いています」

「黙って帰った」

「はい。別に行に制限をつけていたわけではありませんから。ただ、あの森をひとりで通るのは危険なので、お送りしようとしたそうなのですが……結局、こっそりと帰ってしまったとか」

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「そうだったんですね」

話が見えてきた。

魔王領では、帝國から來る者を使者や客人だと考えている。だから歓迎する。

けれど帝國の方では、人質やいけにえを送り込んだつもりでいる。

だから、送り込まれた者は逃げようとする。

帝國からの命令を無視して逃げるわけだから、逃げたあとで報告しに行ったりはしない。

結果、行方不明扱いになる、というわけだ。

「トールさまは……魔王領にいてくださいますか?」

気づくと、すみれの瞳(ひとみ)が、じっと俺を見ていた。

「魔王領には、トールさまのようなすごい錬金師はいません。ここにはトールさまのような方が必要なんです。ぜひ、お力を貸してください。あなたが快適に暮らせるよう、わたくしたちがお手伝いいたします。だから──」

「俺は帝國と魔王領の友好のために來ました」

俺は言った。

歓迎してくれる人の前で「いえいえ俺は帝國から送り込まれた人質で、いけにえなんです」なんて言いたくなかった。

「魔王領のために、できることをするつもりです」

「ありがとうございます!!」

を寄せてくるメイベル。近い近い。

馬車が揺れるたびに、修復したばかりのペンダントが揺れる。ついでに彼の大きなも揺れる。

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『エルフはの発育が悪い』という帝國の知識は、間違いだったらしい。

まだまだ知らないことがいっぱいだ。

「……あ、あと1時間ほどで、魔王城に到著します」

近づきすぎたことに気づいたのか、メイベルが頬を染め、自分の席へと戻った。

「到著したら、魔王さまに謁見していただくことになります。ご準備をお願いいたします」

魔王。

魔族の王にして、この魔王領の支配者。

魔王領で生きていくためには、絶対に機嫌を損ねてはいけない相手だ。

メイベルやミノタウロスたちは歓迎してくれるけれど、魔王はどうだろう……。

そんなことを考えながら、俺は馬車に揺られていたのだった。

「魔王ルキエ・エヴァーガルドさま。ご來!」

魔王城の玉座の間に聲が響いた。

からっぽの玉座を前に、俺はじっと膝をついている。

魔王城について、すぐにここに案された。

ミノタウロスたちは槍を手に、玉座の間に控えている。彼らは魔王直屬の衛兵だったらしい。

メイベルは俺の後ろで、同じように膝をついている。

俺が視線を向けると、「私がついてます」って手を振ってくれる。いい人だ。

「貴公が、帝國からの客人か」

やがて、玉座の間に、仮面をかぶった人が現れた。

長は──よくわからない。俺よりは高いと思う。

金糸をあしらったローブをまとい、顔の上半分を覆(おお)う仮面をつけている。だから表はわからない。わかるのは長い金の髪を持つ──おそらくは、ということだけだ。

耳の後ろからは二本の角がびている。

角は高位魔族の特徴で、大きいほど大量の魔力を扱えるとされている。されているのだけど──一般的な角の大きさがわからないから判斷はできない。ただ、魔王というからには、強力な闇の魔の使い手なのは間違いないだろう。

魔王は最強の『闇の魔力』の持ち主だ。

『闇の魔力』は文字通りに死と無をる。

その力が最も強いのが魔族の王、魔王だ。

「余(よ)が、魔王ルキエ・エヴァーガルドである」

魔王は玉座に座り、仮面の向こうからこっちを見ていた。

「ドルガリア帝國よりの客人、トール・リーガスであるな」

「はい。魔王陛下」

俺は膝をついたまま答えた。

「魔王陛下から直々のごあいさつをいただき、激しております」

「単刀直に訊ねる。お主はなにができる?」

あいさつもそこそこに、魔王が聞いてくる。

「我が魔王領がドルガリア帝國から客人を迎えれるのは、人の世界の知識や技を得るため。お主がここに來たのであれば、なにか特別な知識を持っているのであろう?」

「錬金(れんきんじゅつ)を々」

「……ほほぅ。面白いな」

「我ら魔王領にはない技ですな」

魔王がため息をつき、魔王の側近が聲をあげる。

玉座の橫には青い髪の男が立っている。メイベルによると、この國の宰相(さいしょう)らしい。

「なるほど。帝國には、他國に送り出しても構わないほど錬金師が余っていると。恐るべき國ですな。ドルガリア帝國とは」

違います。錬金師が不要あつかいされてるだけです。

──思わず反論しそうになったけど、黙ってた。

「よかろう。では、お主の工房を用意しよう。そこで自由に腕を振るうがいい。錬金の作業をするのに、なにか必要なものはあるか?」

魔王は言った。

そんなこと言われたのは初めてだった。

「作業のための部屋をいただければ」

「わかった。用意する。他には?」

「錬金には機材も必要となります」

「そうか。では、必要なものをリストにして提出するがいい。他には?」

「特に素材を。的には、使い潰してもいい金屬の塊──使わなくなった剣や鎧などでも構いません。そういうものがあれば助かります」

「なるほど……。ケルヴよ。確か、先々代の魔王(おじいさま)が使っていた倉庫があったな?」

魔王ルキエが、青い髪の男──宰相の方を見た。

宰相はうなずいて。

「先々代の魔王陛下には収集癖(しゅうしゅうへき)がありましたから。錆びた剣や、壊れた鎧や盾。我々には読めない書などを集めていらっしゃいました」

「おじいさまはガラクタ集めが趣味だったからな」

「立場上、そのお言葉にはうなずけませんが……とにかく、素材になりそうなものなら、それらを集めた倉庫を與えるのがよろしいでしょう」

「ガラクタの山が、使いになるのか?」

「それは錬金師ご本人に判斷していただくのがよろしいかと」

「──うむ」

宰相の言葉をけて、魔王ルキエは俺の方を向いた。

「倉庫の隣には客間がある。そこを自室として與えよう。倉庫には先代の魔王が趣味で集めたガラクタがある。それは自由に素材として使って構わない。古いもの──『勇者召喚』が行われていた時代のものだから、使いものになるかは不明だがな。」

「『勇者召喚』時代の?」

「うむ。我ら魔王領が、人間の世界に敗北した時代のものだ」

魔王はうなずいた。

「お主は、錬金師としての能力を活かして、好きなものを作るがよい。よいものであれば、我々が買い上げる。魔王領にとって有用なものであれば、民のために量産することも考えよう。そのときは手伝ってもらえると助かる」

「……願ってもないことです。ですが」

「なんだ?」

「どうしてそこまでしていただけるのですか?」

厚遇すぎた。

帝國では役立たず扱いされてた俺にとっては、信じられないくらいだ。

「俺は帝國から來た者──いわばよそものです。そこまでしていただける理由がわからないのですが」

「我々が、人間の世界から學ぶためだ」

「學ぶため?」

「我々魔族は大昔、人間の知恵と、異世界から來た勇者に敗れた。そのことは、お主も知っておるだろう?」

知ってる。

人間と魔族が爭っていた時代、人間は魔族に立ち向かうために、異世界から勇者を召喚した。

召喚された勇者は強力なスキルを使いこなし、人間のために戦った。

勇者たちは全員、怖いくらいに『最強』を目指していた。

自分たちから進んで『魔獣(まじゅう)』と戦い、スキルやレベルを上げていた。

彼らの『強さへのこだわり』は、やがてこの世界の人間にも伝染した。

俺がいた帝國が、強さにこだわっているのも、勇者の影響だ。

そうして勇者はさらに強くなり、魔王を倒した。

魔族と、それに協力した亜人たちは、北の地に追放された。

そうして世界は、現在の姿になったんだ。

魔王を倒した異世界の勇者は、満足して元の世界に帰っていったらしい。

今はもう、勇者召喚は行われていない。

だが、勇者が殘した知識やアイテムは殘っている。

大陸で使われている距離や時間の単位なども、異世界の勇者が伝えたものだ。

「魔族は人間に敗れた。それは事実だ。だから我々魔族は、そこから學ぶことにしたのだ」

魔王は仮面にれながら、つぶやいた。

「今はもう、人間と爭うつもりはない。だが、人間に學ぶことは続けなければならぬ。さもなければ、あの戦で死んだ者たちは無駄死にということになってしまう。それに、いずれまた異世界からの召喚が行われるかもしれぬ。そのときまでに學んでおかなければ、今度こそ滅ぼされる可能もあるのだ」

俺がメイベルと宰相を見ると、彼らはうなずきながら、話を聞いている。

本當にこれが、魔王領の方針らしい。

「我々が帝國から客人を招いているのはそのためだ。人を招き、流し、最新の知識を得る。そうしなければいつまで経っても、我々は帝國に追いつけぬ」

「俺を厚遇してくださるのもそのためですか」

「うむ。お主の力が活かせるようにするのは、魔王領のためでもあるからな」

魔王はうなずいた。

「また、能力が発揮できる場所に人を配置するのは、魔王領の方針でもある。魔王領は人の數がないからな。向いてない仕事をさせる余裕などない。そういうのは、人口の多い人の世界でだけできる、贅沢(ぜいたく)だ」

魔王の話はわかった。

帝國から客人を招くのは、人の世界の技や知識を得るため。

俺のために工房や素材を用意するのは、能力を十分に発揮できるようにするため。

そうして作り上げたものは魔王領の財産になるし、魔王領は錬金でなにができるか知ることができる、というわけだ。

……まずいな。わくわくしてきた。

工房と、自由に使える素材。

それは帝國では、絶対に得られなかったものだ。

魔王領の方針も気にった。

魔王領は、帝國とは真逆のやり方を選んでいる。

帝國は異世界から強力な勇者を召喚して、魔王を倒した。

だから「自分たちは正しい」「強さがすべて」という方針を維持している。

逆に魔王領は勇者と人間に敗れている。

だから「人間から學ぶ」という方針を採っている。人間を招きれている。

だったら、俺がやることは決まっている。

魔王に雇われた錬金師として、魔王領に協力する。

この場所で『創造錬金』スキルを活かして、帝國を超えるものを作り上げる。

可能なら、勇者が使っていたアイテムを超えるくらいのものを。

帝國があがめる『強さ』なんか、まったく無意味になるレベルのアイテムを作り上げてみせる。

「魔王陛下のご厚意に謝いたします」

俺は、貴族としての正式な禮をした。

「では、まずは俺の錬金でなにができるかをお見せしたく思います。それをもちまして、歓迎への返禮とさせていただきましょう」

「……お、おぉ」

……ん?

魔王がなぜかとまどうような聲をらしたような……?

そう思っていると、隣の宰相が、こほん、と咳払いをした。

「長旅でお疲れだろう。誰か、トールどのお部屋へ──いや、メイベルは殘るように。それからトールどの。魔王城は気の荒い者が多い。なるべくひとりでは出歩かぬように。では、魔王さま」

「これにて客人、トール・リーガスの謁見(えっけん)を終了する」

宰相が早口で言ったあと、魔王が聲をあげた。

その後、メイベルとは別のメイドに先導されて、俺は玉座の間を出たのだった。

第5話は、今日の午後8時ごろに更新する予定です。

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