《【書籍版4巻7月8日発売】創造錬金師は自由を謳歌する -故郷を追放されたら、魔王のお膝元で超絶効果のマジックアイテム作り放題になりました-》第8話「魔王ルキエと宰相ケルヴ、錬金師トールについて語る」
──魔王城、玉座(ぎょくざ)の間──
「メイベルが魔を使えるようになったじゃと!?」
魔王ルキエは聲をあげた。
「しかも、トール・リーガスが作ったマジックアイテムによるものじゃと!? それは本當なのか!? ケルヴよ!!」
「はい。この目で確認いたしました」
「……信じられぬ」
宰相(さいしょう)ケルヴの答えに魔王ルキエは目を見開く。
「メイベルの魔力の不調については、魔王領のさまざまな治癒師(ちゆじゅつし)に診せた。じゃが、治すことはできなかった。それをあの錬金師(れんきんじゅつし)は、1日足らずで治してしまったというのか!?」
「……トール・リーガスどのは、おそるべき能力の持ち主です」
宰相ケルヴの聲は、かすかに震えていた。
彼はメイベルが『溫水水流桶(フットバス)』を使うところを見た。
その直後に彼が発させた魔を、正面からけた。
奇跡を見たと思った。
それほど、衝撃的(しょうげきてき)な景だった。
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「そもそも、メイベルが魔を使えない理由は、の魔力がうまく循環(じゅんかん)していないことが原因でした」
宰相(さいしょう)ケルヴは話し始めた。
「メイベルを診た治癒師たちは、彼の祖母が人間であることがその原因ではないかと言っていましたが……確信はなかったですし、治療法もわからないままでした」
「それは余も聞いておる」
魔王ルキエはため息をついた。
「そのせいで、メイベルはエルフの村になじめなかったのじゃからな」
「そうですね。エルフは強い魔力を持つ種族です。人間を祖母に持つメイベルは、なんらかの理由で魔力循環がうまくいかず、滯(とどこお)っていた。そして、両足にたまった水の魔力が、を冷やしていたのでしょう」
「トール・リーガスは、それをどうやって治したのじゃ?」
「3種の魔力を用いて、メイベルの魔力循環を改善したと思われます」
宰相ケルヴは、指を3本立ててみせた。
「『溫水水流桶(フットバス)』には火の魔石と、風の魔石が使われていました」
「それは聞いた。火の魔石で水を溫め、風の魔石で流水と泡を作り出したのじゃろう?」
「はい。つまりトールどのは、水に『火の魔力』と『風の魔力』を溶け込ませたとも言えるのです」
「水に『火の魔力』と『風の魔力』を溶け込ませた……」
言葉の意味を理解して、魔王ルキエがおどろきに目を見開く。
「まさか、ふたつの魔力を水に溶け込ませることで、メイベルが火と風の魔力を吸収しやすいようにしたとでもいうのか!?」
「それ以外に考えられません」
宰相ケルヴはうなずいた。
「メイベルは『水屬』を持つエルフです。水に溶け込んだ魔力ならば、吸収しやすいのは道理。そうすることで『熱』を意味する火の魔力と、『循環(じゅんかん)』を意味する風の魔力を大量に取り込んだメイベルは──」
「中(からだじゅう)に熱を循環させることになり、冷えが治った上に、魔力の循環が良くなった……」
魔王ルキエはがっくりと、玉座に座り込んだ。
『火の魔力』は文字通り熱と炎を意味する。
その魔力を取り込めば、がぽかぽかしてくるのは當然だ。
そして『風の魔力』は大地をめぐる空気の流れ──つまり、循環(じゅんかん)を意味する。
火と風の魔力、その両方を同時に取り込むことで、メイベルの冷えと魔力の循環は改善したのだろう。
メイベルは魔王ルキエの大切な部下だ。
彼の調が良くなったのなら、魔王ルキエもうれしい。
だが……問題はそこではなかった。
「トール・リーガス……おそるべき男だ。あの錬金師は、そこまで考えていたというのか」
「はい。この世界の錬金師の中でも、5本の指にることはまちがいありません」
「じゃが、あやつは勇者の世界のアイテムをコピーしただけなのじゃろう?」
「……そうなのですけど」
宰相ケルヴは腕組みをして、
「勇者についての口伝では、そんなものの報はないのです。『健康グッズ』でバフをかけるとか狀態異常を回復するとか、ありえないのです」
「代々の宰相がけ継ぐ口伝の中には『健康グッズ』も『フットバス』もないのか?」
「そうですね。『強化魔』や『回復魔』の記録はあるのですが……」
柱に頭を押しつけて、がっくりとうなだれる宰相ケルヴ。
「対象の魔力循環を改善するアイテムなんて聞いたことないです。しかも、それはほかほかのお湯を使う桶だなんて……なんなんでしょうか。あの錬金師は。私、歴史を語り継ぐ宰相として自信をなくしそうです……」
「余もわからぬ……なんなのだ。あやつは」
魔王ルキエはつぶやく。
それから、し考えてから、
「まぁいい。『溫水水流桶(フットバス)』は、メイベルに渡してやるがいい」
「よろしいのですか?」
「メイベルは余の大事な部下じゃ。あやつを幸せにするものを取り上げるわけにはいくまい」
「しかし、メイベルさまはトールどのに、かなり心を許している様子」
「……は?」
宰相ケルヴの言葉に、魔王は一瞬、絶句する。
「エルフの直、とでも言うのでしょうか。メイベルはトールどののことを、どうやら本気で気にってしまったようですな。さっき部屋の前を通りかかったのですが、仲良く話をしている聲が聞こえてきました」
「……な、なんと」
「メイベルが、あれほど人に心を開くのはめずらしいことです」
「…………」
「ですが、これは好都合でもあります」
黙り込む魔王には気づかず、宰相ケルヴは続ける。
「メイベルがむなら、將來的にトールどのと結婚させるのもいいでしょう。そうすれば、トールどのを魔王領にとどめる理由になります。いや、むしろメイベルを言いくるめて、政略結婚へと導くという手も──」
「ならぬ!」
不意に、魔王ルキエのから、濃(のうみつ)な『闇の魔力』があふれだした。
それを見た宰相ケルヴが青ざめる。
彼は理解している。仮面で顔を隠した魔王、ルキエ・エヴァーガルドの力を。
魔王とは魔族最強、この魔王領を統べる支配者なのだと。
「余の大切な部下──いや、なじみのメイベルを、人間などにたぶらかされてなるものか! 和平を結んでいるとはいえ、我ら魔王領は人間の下についたわけではないのだからな!」
「魔王さま。落ち著いてください!」
「いや、もはや黙ってはおられぬ。余みずからが出る!」
魔王ルキエは腕を振り上げ、宣言した。
「錬金師トール・リーガスがどれほどの者か、余が見極めてくれる!!」
今日は2話、更新する予定です。
第9話は午後8時ころにアップします。
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