《【書籍版4巻7月8日発売】創造錬金師は自由を謳歌する -故郷を追放されたら、魔王のお膝元で超絶効果のマジックアイテム作り放題になりました-》第9話「幕間:帝國領での出來事」

──トールが魔王領に向かったあと、帝國の公爵家(こうしゃくけ)では──

「執事どの。宮廷より、魔法剣の修理についての問い合わせが來ています」

トールが魔王領に送り出されてから數日後。

リーガス公爵家に仕える執事は、部下からの報告をけていた。

執事と衛兵隊長はリーガス公爵の腹心だ。

公爵と共にトールを魔王領へのいけにえとして送り出すときにも協力している。

最近は公爵も機嫌がいい。

執事である彼も満足しているところだったのだが──

「魔法剣の修理だと? そんな依頼があったか?」

「お忘れですか? 皇殿下が使われるという、魔法剣の修理ですよ。勇者時代のものを修復(しゅうふく)するようにという依頼があったではないですか」

「ああ、思い出した。確か役所を通して、修理依頼を出していたな」

やっと思い當たって、公爵家の執事はうなずいた。

帝國では、錬金師(れんきんじゅつし)の地位は低い。

だからなるべく貴族は直接関わらず、役所を通して依頼をするようになっている。

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が使うという魔法剣も、同じ手続きで修理に出していたのだ。

「わかった。私が確認しておく」

そう言って黒服の公爵家執事は、急いで役所へと向かったのだった。

「なに? 修理ができないだと」

「はい。錬金師(れんきんじゅつし)の工房に持ち込んだのですが、斷られまして」

役所の所長は答えた。

「だが、書類には『修理は8割まで完了している』と書いてあるぞ」

「それは……」

所長は、きまずそうに顔を逸(そ)らした。

「実は……魔法剣を、うちの職員がこっそりと『錬金』スキルで直していたのです」

「なに?」

「うちの部署は、年々予算が減らされていますからね。現場でやれることは、予算を使わずにやるようにしているのです。もちろん、上の方の許可はいただいております」

「わかった。ではその職員を呼べ」

「もうここには、おりません」

「そのような者を手放すとは愚かな!! 貴様はそれでも人事を預かる者か!?」

「い、いえ……私が手放したわけでは……」

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「うるさい! 誰なのだ、その職員とは!!」

「トール・カナンどのです」

所長は、ぽつり、とつぶやいた。

「いえ、カナンは母方の姓でしたね。公爵家(こうしゃくけ)に戻られた今は、トール・リーガスさまですか」

「……」

「あの方はたいしたものですよ。アイテムをひとつひとつチェックして、必要な修理をほどこしていたのですから」

「な、なんだと? そんな報告はけていないぞ!?」

「あの方の名を出すなとおっしゃっていたのは、公爵家の方だと記憶しておりますが?」

むしろ不思議そうに、役所の所長は首をかしげた。

「『トール・リーガスの名前が表に出ないように。仕事容や果が、公爵さまや他の貴族の目に付かぬように』──と、公爵家から命令をけていたので、あの方の仕事ぶりについては報告も記録もできなかったのです」

「……ぐぬぬ」

「トールさまは公爵家に戻られたのでしょう? でしたら、直していただければ……」

「う、うるさい! 貴族の事に口を出すな!!」

「──ひっ!?」

黒服の執事は、だん、と地面を踏みならし、んだ。

その剣幕(けんまく)に、文の所長の顔が真っ青になる。

「トール・リーガスのことは言うな! あの者のことは、公爵家でもタブーとなっている。いいか。二度とその名を口にするなよ!!」

「わ、わかりました。では、魔法剣は……?」

「こちらで錬金師の工房に依頼する。それでよかろう!」

「ですから、錬金師では直せないと、一度戻ってきているのですよ」

「それはきっと、低レベルな工房に依頼したからに違いない」

公爵家執事は魔法剣を手に取った。

る両刃の剣だ。だが、刃の一部が欠けている。場所は剣の鍔(つば)の近くだ。小指の爪くらいの欠損(けっそん)だった。

だが、記録によると、欠損(けっそん)と亀裂(きれつ)は、刀の中央にまで達していたらしい。

(それをトール・リーガスがここまで修復(しゅうふく)しただと?)

だったら、他の錬金師に直せないはずがない。

きっとトール・リーガスは、質の悪い錬金師に依頼したのだろう。目的はもちろん、自分が修復してみせて、公爵の関心を買うためだ。おろかなことをする。

そんなことをしたところで、彼の運命は決まっていたというのに。

そこまで考えて、公爵家執事はうなずいた。

自分の額に冷や汗が伝っていることには、気づかないふりをした。

リーガス公爵と衛兵隊長、執事である自分がその無能をあざ笑い、帝國より追放したトール・リーガスは、無能でなければいけないからだ。

もしも彼が有能で、特別な力を持っているとしたら──

(公爵さまと自分たちが、間違っていることになるではないか!!)

思わず浮かんだ考えを振り払うように、公爵家執事は頭(かぶり)を振った。

「いいか、この魔法剣のことは忘れろ」

公爵家執事は、トール・リーガスの上司だった者に向かって、告げた。

「この魔法剣の修理は公爵家の権限で、帝都で最も優れた錬金師工房に依頼する。お前はこの剣のことを忘れろ。いいな。我ががかわいいなら、二度とトール・リーガスのことは口にするな!!」

そうして、公爵家執事は、外へと飛び出していったのだった。

翌日。

公爵家執事は魔法剣を手に、錬金師の工房を訪ねていた。

彼は工房主である錬金師を呼び出し、その目の前に魔法剣を置いた。

その間、錬金師と、工房にいる者たちはすべて、深々と頭を下げていた。

當然だ。帝國はすべての者が『最強』を目指している。

ろくに戦う力もない錬金師など、リーガス公爵家の名のもとにひれ伏すべき。

そう思いながら、執事は錬金師に魔法剣を手渡したのだったが──

「……修理できない、だと?」

「申し訳ございません。これは我々の手に余ります」

──工房主である錬金師は、あっさりと首を橫に振った。

「そんな馬鹿なことがあるものか! ここは王都で一番大きな工房だろうが!!」

「魔法剣の修理というのは難しいものなのです。ご覧下さい」

錬金師の男は、テーブルに敷いた布の上に、銀の長剣を置いた。

柄に複雑な模様が描かれた長剣は、ほのかにっているように見えた。

錬金師は刀を指さして、

「ここに亀裂があるでしょう? いや、あった(・・・)というべきですな。亀裂(きれつ)の方はきれいにふさがっている。ですが、まだ刃こぼれが殘っているでしょう?」

「それを直せといっているのだ!」

「魔法剣というのは、そう簡単なものではないのです」

老齢(ろうれい)の錬金師はため息をついた。

「普通の剣なら、鍛冶屋(かじや)に頼めば打ち直しをすることもできます。けれど、これは魔法剣なのです。刃を構する金屬に『火』や『地』などの屬を付加しなければならないのです」

「……う、うむ」

「だから、修復(しゅうふく)には錬金スキルが必要となるのです。金屬の大元──っこの部分に干渉して、まわりの金屬と屬が同じになるように錬(れんせい)して、つなぎ合わせるために」

「わかっているならやればいいんだろう!?」

「その技を持つ錬金師は、帝國にはおりません」

「……いない?」

「勇者の時代には存在しました。けれど、今はもういません。錬金師は鍛冶屋の下働きのようになり、魔法剣修復の技も失われました。人材を育てなければ、勇者時代の貴重なアイテムも失われていくばかりだと……若いころ、仲間とよく話をしたものです」

遠い目をして、錬金師は言った。

それから、魔法剣に視線を移して、

「いえ、この魔法剣の亀裂(きれつ)を修理した方がまだいるのですね。ならば、それを擔當した者に続きを頼めばよろしいのでは?」

「……う」

黒服の執事は口ごもる。

その彼には目もくれず、錬金師は指先で魔法剣の刃の背をなでている。

うっとりしたような顔だった。

「この修復技(しゅうふくぎじゅつ)は実に見事です。書類には、刀の中央に至るまでの亀裂があったと書いてありますが、跡がわからないくらいに修復されている。欠けていた部分と他の部分が完全に結合している。すばらしい……」

そう言って、錬金師は顔を上げた。

「お願いです。これを直した人を紹介していただけませんか? ぜひ、教えを請(こ)いたいのです。これだけの技があれば、帝國はさらに発展すると──」

「う、うるさい!」

執事はんだ。

紹介などできるわけがない。トールは魔王領に去ったあとだ。

仕事を頼むことも、呼び戻すこともできないのだ。

公爵も「あれはもう死んだも同じ」と言っている。

魔王領で魔族や亜人に殺されるか、あるいは、帝國が魔王領とトラブルを起こしたときに犠牲(ぎせい)になるかの、どちらかだと。

「もういい。直せ。刃が欠けているだけなのだろう?」

「ですから、同じように修復(しゅうふく)はできないのです」

「リーガス公爵さまは、見た目が直っていればそれでいい、とおっしゃっている!」

事実だった。

執事が公爵から「貴様に任せたはずだ。きれいに直せばそれでいい」と言われている。

それにこの魔法剣は、儀式のために必要なものだ。

殿下が使うのは確かだが、魔獣討伐を行うわけではない。

見た目が整っていれば、それでいいはずだった。

「表面的に直すならできるだろう?」

「魔法剣として完全にする必要はないと?」

「そうだ」

「しかし一部だけ別の素材を合すれば、強度に問題が──」

「これは儀式用に使われるものだ。勇者時代の魔法剣の力を引き出せるものはない。剣に負擔がかかることはないはずだ」

執事はじっと、老齢の錬金師を見據えていた。

「それとも貴様は、公爵家の依頼を斷るのか?」

「……そこまでおっしゃるのなら、おけしましょう」

錬金師は、再び、長いため息をついた。

「ですが、見た目を整える(・・・・・・・)だけの依頼(・・・・・)であると、一筆(いっぴつ)書いていただきます」

「一筆?」

「こちらの責任になっては困りますからね」

「……わ、わかった」

仕方がなかった。

この魔法剣は、今月中に修復する必要があるのだから。

そう自分に言い聞かせながら、公爵家執事(こうしゃくけしつじ)は書類にサインをしたのだった。

第10話は、明日の午後6時ごろに更新する予定です。

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