《【書籍版4巻7月8日発売】創造錬金師は自由を謳歌する -故郷を追放されたら、魔王のお膝元で超絶効果のマジックアイテム作り放題になりました-》第11話「倉庫と収納空間を完させる(アイテム管理機能つき)」

──魔王ルキエ視點──

魔王ルキエは、トールが作業を始めるのを、呆然とながめていた。

確かに、簡易倉庫の作は許可した。

けれど、いきなりこの場で作り始めるとは思わなかったのだ。

「……本気で今すぐ作るつもりなのか!? トール・リーガスよ」

「魔王さま、しーっ、です」

「メイベル?」

「こうなってしまったらトールさまは止まりません。それに、この方は悪いものを作られたりはしませんよ」

「ずいぶんと信頼しているのだな、メイベル」

「それはもう」

メイベルは微笑んだ。

「トールさまはわたくしが冷えなのに気づいて、突然『溫水水流桶(フットバス)』なんてものを作ってしまうお方ですから」

「そんな理由じゃったのか!?」

「はい。そうなんです」

魔力の循環改善(じゅんかんかいぜん)のためではなかったのか……」

魔王ルキエは、思わず耳をうたがってしまった。

トール・リーガスが作った『溫水水流桶(フットバス)』は、レア中のレアアイテムだ。

の魔力循環を改善させる──そんなアイテムは、下手をすれば屋敷ひとつ分の価値と等しい。

それを作った理由が「メイベルの冷えが気になったから」──だなんて。

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「あの錬金師(れんきんじゅつし)は、一なにを考えているのじゃ」

「トールさまは、お優しい方なんです」

メイベルは目を閉じて、ないしょ話をするかのように、つぶやいた。

「なので、私はトールさまを信じております。帝國から來たこの方は、私たちにとって良き使者であると」

「う、うむ。メイベルの言う通りじゃろう」

魔王ルキエはうなずいた。

「それに、トール・リーガスはアイテム作りにしか興味がないようじゃ。作業を始めてからは、余やメイベルの聲も聞こえておらぬ。すごい集中力じゃ。」

「そうですね。トールさまのマジックアイテムにかける熱はすごいです」

「まったくじゃ。子どものように夢中になっておる」

「はい。アイテム製作に集中しているトールさまって、凜々(りり)しくてかっこいいですね」

「そういう話ではないんじゃよ? メイベル?」

魔王ルキエとメイベルが見守る中、トールの作業は続いていた。

そして──

──トール視點──

俺は『通販カタログ』に載(の)っていた『簡易倉庫』の図を思い浮かべる。

正面図と側面図、空からの図。斜めから見た図。

それを組み合わせて、頭の中で立にしていく。

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ただし、本に書かれている寸法よりも、サイズは小さめに。

手持ちの素材で作れるように。

そして、できるだけ、シンプルに──

「正面図──作(イメージング)。側面図──作。三面図──作。立図を展開」

宣言すると、空中に半明の『簡易倉庫』が浮かび上がった。

報は寫真だけ。それで勇者世界の『簡易倉庫』を、どこまで正確にコピーできるか……。

俺は寫真を思い浮かべながら、実際の倉庫をイメージしていく。

壁の手り。堅さ。

重さ。溫度。

よし、イメージが固まってきた。次は大きさだ。

「形狀把握(けいじょうはあく)──完了。大きさを設定」

本に載っているのは縦橫數メートルの倉庫だ。

けど、そんなに大きなものは必要ない。

部屋に置くと邪魔だし、素材も多く必要になる。

どうせ中に収納空間を作るんだ。外側の大きさは、あんまり意味がないからな。

「サイズを規定。高さ、幅、奧行き……すべて1.2メートルで」

空中に浮かんでいる『簡易倉庫』のイメージ図が変わる。

目の前にあるのは、人がかがんでれるくらいの小さな倉庫だ。

「素材を決定──作開始」

俺は空中に浮かべた『簡易倉庫』のイメージ図を、素材のところまで移させる。

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準備しておいた金屬の塊(かたまり)と、半明のイメージ図が重なる。

「金屬塊(きんぞくかい)を素材に簡易倉庫を生部に闇の魔力を注して、収納空間を作。『地』の魔力で素材を安定化。壁面、床面、屋を強化」

金屬の塊が、イメージ図に合わせて、形を変えていく。

それはゆっくりと、倉庫の姿になっていって──

「実行『創造錬金(オーバー・アルケミー)』! 『簡易倉庫』を作!」

ごっとん。

目の前に、金屬製の『簡易倉庫』が出現した。

「……できた」

──────────────────

『簡易倉庫 (異世界風)』(屬:地・風・闇闇闇) (レア度:★★★★★☆)

強力な闇の魔力により、部に別空間を作り出す。

風の魔力によって、別空間に空気を生み出す。

地の魔力によって、別空間を固定し、封じ込める。

『簡易倉庫』は、部にアイテム収納のための別空間を宿した倉庫である。

収納した食・水などを、劣化させずに保管しておける。

重要なアイテムなどは、自的に収納・分類してくれる。

魔王領に置いておけば自的に闇の魔力を吸収するため、魔石は不要。

理破壊耐:★★★★★ (高レベル魔法でないと破壊できない。ただし、高レベル魔法であっても、部空間に収納された場合は効果がない)。

耐用年數:100年。

──────────────────

「これが、勇者の世界の簡易倉庫か」

できあがったのは、幅1.2メートルの箱だった。

正面には大きな扉がついていて、中にれるようになっている。

でも、完はしたけど……まだまだ、勇者の世界のアイテムにはほど遠い。

『通販カタログ』に載っている倉庫には、雨水を流すための(みぞ)があるし、鍵をかけるためのがある。

けれど、俺が作ったものにはそれがない。

そこまで細かい部分は、コピーできなかった。

素材も足りないし、俺の技も足りない。

細部を削ってシンプルにするしかなかったんだ。

「やっぱりすごいな。勇者の世界のアイテムは」

でも、やりがいはある。

目指すは異世界のアイテムの完全コピー。

帝國が土下座してしがるものを作ることなんだから。

「トール・リーガスよ。おぬしは……なんとすごい」

「すごいです。トールさま!」

「あ」

忘れてた。

部屋には魔王ルキエとメイベルがいたんだった。

錬金に夢中で、ふたりのことがすっぽりと頭から抜け落ちていた。

「許可をいただいたので、作業場として『簡易倉庫』を作らせていただきました。魔王陛下」

俺は言った。

「異國から來たである自分に、新たな部屋を作ることに許可をいただきましたこと、謝いたします。ありがとうございました。魔王陛下」

「いや、普通の人間は部屋など作れぬじゃろ。それに……」

魔王ルキエは、高さ1.2メートルの倉庫を見つめて、

「こんなに小さくては、工房になどできぬのではないか?」

「そこは考えてあります」

「というと?」

「魔王陛下は、異世界の勇者が『収納ボックス』や『アイテムボックス』というものを使っていたことはご存じですか」

「知っておる。容量無限の収納空間じゃろ?」

「これには、それと同じ能力を付加してあります。ぶっつけ本番で作ったので、うまくいったかどうかはわかりませんが」

「……冗談じゃろ?」

魔王ルキエはひきつった顔で言った。

「帝國には、空間をることができる錬金師が普通におるのか……」

「……同じことができる人がいるかどうかは、わからないですけど」

たぶん、いないと思う。

帝國は闇の魔力が弱いからな。

俺だって、自分の魔力だけじゃ、これを作ることはできなかったんだ。

「帝國のことはともかく、まずは中を確認してもいいですか?」

話はあとだ。

収納空間がちゃんとできてるか確認しよう。

せっかく作ったんだ。早いとこ中を見てみたい。

「陛下の前で失禮かとは思いますが、いいでしょうか?」

「う、うむ。許す」

「ありがとうございます」

「私もご一緒していいですか? トールさま」

メイベルが、前に出た。

「トールさまのお部屋の掃除は、私の役目ですから。この──えっと」

「『簡易倉庫』です」

「えっと、私がこの『簡易倉庫』の掃除をすることになると思いますので」

「いいですよ。どうぞ」

倉庫のり口のサイズは、1.2メートル。

かがんで中にることになる。

さすがに魔王におを向けるわけにはいかないから、倉庫の向きを変えて、と。

ドアは──よし。スムーズに開け閉めできるな。

「それじゃ、行ってきます」

「行ってまいりますね。魔王さま」

俺とメイベルは魔王ルキエに一禮してから、『簡易倉庫』の中にった。

──異世界風『簡易倉庫』の中では──

「むちゃくちゃ広いな!」

「あの小さな箱の中に、こんな空間が!?」

隣ではメイベルが目を見開いてる。

倉庫の中は、巨大な空間になっていた。

広さは、公爵家の屋敷の敷地(しきち)くらいはあるだろう。

俺もびっくりだ。まさか、ここまで広々としてるとは思わなかった。これならアイテムもれ放題……というか、普通に住めるんじゃないか、ここ。

「すごいすごーい! 端までダッシュできますよ! トールさま!」

メイベルがスカートをひるがえして、倉庫の中を走り回っている。

くるくる回って、壁まで走って、はしゃぎながら戻ってくる。

「すごいです! こんなアイテム、魔王城の寶庫にもないです!」

「勇者の世界のアイテムのコピーですからね。すごいのは、あっちの世界の人たちですよ」

まったく桁外(けたはず)れだよな。あの世界は。

まぁ、勇者の世界だからしょうがないんだけど。

「さきほどトールさまはおっしゃってましたね。ご自分の目的は、勇者を超えることだと」

メイベルは不思議そうな顔で、俺を見ていた。

「でも、トールさまがいらっしゃったドルガリア帝國の礎(いしずえ)を作ったのは、異世界から來た勇者たちですよね?」

「まぁ、そうなんですけどね」

「トールさまがおっしゃるのは、帝國を超えること……つまり『帝國最高の錬金師になりたい』ということですか?」

「……そんなじです」

するどいな、メイベル。

の言うとおり、帝國の礎(いしずえ)を作ったのは、異世界から召喚された勇者たちだ。

だから、俺は勇者の世界を超えたいと思ったんだ。

そうすれば、俺は自分を追放した帝國を超えたことになるから。

だけど、それも結局は──

「ただの自己満足みたいなものですけどね」

「……おーい」

「勇者召喚が行われなくなってから、もう100年以上経ってます。もしもあのまま勇者がいて、この世界に技をもたらし続けていたら、世界はどんなふうになってたか、俺は興味があるんです」

「勇者の技があのままずっと、この世界に……ですか」

「はい。もしかしたらこの世界も、勇者の世界みたいに便利なところになっていたかもしれません」

「でも……勇者召喚が続いていたら、魔王領は滅ぼされていたかもしれませんね」

「そういう意味じゃなくて──」

「わかってます。トールさまは、お優しいですから」

「…………どうなっておるのだ。メイベル、大丈夫なのか……?」

「トールさまは私のアイテムを直してくださいました。私の冷えを癒(い)やすためのアイテムまで作ってくださいました。トールさまがいい方なのは、わかります」

「……メイベルさん」

「トールさまへの謝の気持ちを忘れることはありません。ペンダントも『溫水水流桶(フットバス)』も、ちゃんと箱にれてリボンをかけて、大事にしまってありますもの」

「いやいや、使ってください!」

ペンダントはともかく、『溫水水流桶(フットバス)』は実用品なんだから。

使って想を聞かせてもらって、ブラッシュアップしたいんだってば。

「さきほどは『恩返しをしたい』と申し上げたのですけど……本當は、ちょっと違うんです」

不意に、メイベルが俺の手を握った。

大きな目で、じっと、俺の顔を見つめて、

「私はトールさまがこの魔王領で快適に暮らせるように、お手伝いをさせていただきたいんです。トールさまの作るものは、人を幸せにするものような気がするんです。だから、錬金師であるトールさまのお手伝いをさせてください」

「ありがとうございます。じゃあ、俺がなにを作るのか、メイベルさんが見屆けてください」

「はい!」

「で、次に作るアイテムなんですけど」

「早すぎます! そんな急いで作る必要はありませんよ!?」

「いえ、こういうのは気分が乗ってるうちに作った方が──」

「どうなっておるのだ!! メイベル! トール! 返事をせよ!!」

「魔王陛下!?」

「す、すいません。ふたりとも、無事です!!」

俺とメイベルはあわてて返事をした。

魔王ルキエが呼んでるのに、気づかなかった。

倉庫は別空間だから、外の聲が聞こえにくいんだよな。

「無事ならよい。さっきから倉庫を叩(たた)いても揺(ゆ)すっても反応がないので、心配していたのだ」

「叩いたり揺すったりしたんですか?」

「まったくじませんでしたね……」

「──倉庫の中は、余がっても大丈夫なのかー?」

「魔王陛下も中にられるのですか?」

「當たり前であろう? 客人が城に別空間を作ったのだ。城の主として、安全かどうか確認せぬわけにはいくまい」

「でも、俺が作った倉庫に魔王陛下を招くのは失禮かと……」

「トールよ。お主は危険なものを作ったのか?」

「いえ、そのつもりはないです」

「ならば、余がっても問題はあるまい?」

魔王に引く気はないようだ。

俺は倉庫の中を見回した。

危険はない。というより、はなにも置いていない。

魔王を招いても大丈夫かな。

「わかりました。どうぞ、魔王陛下」

「うむ」

魔王が倉庫にってくる。

中を見た魔王は、おどろいたように、

「なんと、あんな小さな倉庫の中に、これほどの空間を作り出すとは……すごいな。錬金師トール・リーガスよ」

「おほめにあずかり栄です。陛下」

「なるほど、中はぼんやりと明るいのだな。広さは……魔王領域の闘技場くらいはあるな。使い魔を戦わせることくらいはできそうだ」

仮面をかぶった魔王は、興味深そうに周囲を見回している。

その時──

『レア度SSの重要アイテムを知しました。空間に自収納します』

不意に、簡易倉庫の中で聲がした。

『「認識阻害(にんしきそがい)のローブ (全屬)」を収納しました』

『「認識阻害(にんしきそがい)の仮面 (全屬強化)」を収納しました』

俺の足元に、黒いローブと銀の仮面が現れた。

魔王ルキエがにつけていたものだった。

「…………な!?」

目の前に、金髪のがいた。

につけているのは、漆黒のワンピース。元には寶石とリボンがついている。

は大きな目を見開いて、じっとこっちを見ている。

瞳のは黒みがかった赤だ。見ていると吸い込まれそうな気がする。深い闇をたたえていて、それでいてしい。まさにその姿は、神が作り出した蕓品のようだった。

は細い。背も、俺より低いだろう。

それでも弱々しさはじない。むしろ、あふれ出すような生命力さえじる。

これが、魔王ルキエの正。なんてきれいなんだろう……。

俺は、思わず自分の力不足を理解する。

なんてことだ。

創造錬金(オーバー・アルケミー)なんて力を持っていても、自然が作り出したにはまったく敵わない。

勇者世界のアイテムに、の極致である魔王ルキエ。

「この世界にはまだまだ知らないことがいっぱいだ。もっと修業しないと……」

俺がそんなことを考えていると──

「な、なにが起こったのじゃ──────っ!?」

倉庫に、魔王ルキエの絶が響き渡ったのだった。

第12話は、明日の午後6時ごろに更新する予定です。

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