《【書籍版4巻7月8日発売】創造錬金師は自由を謳歌する -故郷を追放されたら、魔王のお膝元で超絶効果のマジックアイテム作り放題になりました-》第19話「異世界の魔力変換アイテムを作る」

部屋に戻ったあと、俺は『通販カタログ』を読み始めた。

「この本は勇者世界のアイテムの寶庫だ。炎を抑えるアイテムがあってもおかしくないんだが……」

「なにかお探しですか? トールさま」

「──え?」

気づくと、部屋のり口にメイベルが立っていた。

「ドア、開きっぱなしでしたよ? ずいぶん急いでいらしたようですけれど……なにを探してらっしゃるのですか?」

「炎を抑えるアイテムを作ろうと思って」

「なるほど。ライゼンガさまへの対策ですね」

メイベルはお茶の載ったトレーを手に、うんうん、とうなずいた。

「さきほどのご様子を見ればわかります。トールさまが、ライゼンガさまを警戒されるのも無理はありません」

「うん。まぁ、そんなじ」

乗っかることにした。

アグニスがでいるところにでくわしたことを説明するのは、まずいような気がした。

「でも、ご心配はいりません。私も魔が使えるようになりましたから、トールさまのことは、私がお守りします」

「ありがと、メイベル」

俺はうなずいてから、

「ところで火炎將軍のライゼンガさまってどんな方なのかな? 俺に対する態度は別として」

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「とっても娘思いの方です」

「それはわかる」

「もちろん、強力な戦士でもあります。戦場では炎をまとった槍で敵を突き、100の兵の群れの中をまっすぐに突っ切った、なんて伝説もあるくらいです」

「あれ? 魔王領は、人間の世界とは戦爭をしてなかったんじゃ?」

「魔王領の中でも、たまに爭いはありますから」

「もしかして魔王陛下が仮面で正を隠してるのも、ライゼンガ將軍のような人に、なめられないようにするためってのもあるのか?」

「そうですね。ライゼンガさまは、強さを重んじる方ですから」

「アグニスさんは優しいけどね」

「わかるのですか?」

不思議そうに顔をのぞきこんでくるメイベル。

「もしかしてトールさまは、アグニスさまとお話をされたのですか?」

しね。それより、メイベルは、アグニスさんと仲がいいの?」

「はい。私はいころから魔王城でお仕事をしてますから、會う機會も多かったので。昔は、一緒に遊んだこともあるんですけどね……」

メイベルはなぜか、右腕の手首のあたりをなでていた。

「ご存じですか、トールさま。魔王城には腕のいい治癒師(ちゆじゅつし)がいるんです。火傷の跡も、きれいに治してくれるんです」

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そう言って、彼は俺の前に手を差し出した。

真っ白なと、細い指。

火傷の跡どころか、傷ひとつない。

「ね、きれいになってますよね? 小さな火傷でしたから、すぐに治っちゃったんです。だから……アグニスさまが気に病む必要なんか……ないのですけれど」

「アグニスさんが昔、メイベルに火傷をさせてしまった、ってこと?」

「はい。いころ、私が陛下の遊び相手だったころのことです」

メイベルはつらそうに目を伏せた。

そのあとメイベルは、小さいころのことを話してくれた。

魔王ルキエの遊び相手だったメイベルは、魔王城に來ていたアグニスと仲良くなったそうだ。

だけど、アグニスが『火の魔力』に覚醒(かくせい)したとき、その関係は終わってしまった。

強すぎる火の魔力を制できず、アグニスの炎は暴走してしまったんだ。

そうして彼は、メイベルの右腕に、小さな火傷を作った。

火傷はすぐに治ってしまったのだけれど──アグニスは友だちを傷つけてしまったことにショックをけた。

は火炎耐の鎧を著るようになったのはそれからだ。

怪我をさせてしまった罪悪からか、メイベルとも疎遠(そえん)になってしまった、ってことらしい。

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「……そういうことだったのか」

よし。すぐに錬金をはじめよう。

アグニスが火の魔力をコントロールできるようなマジックアイテムを作る。

そうすれば、メイベルとアグニスも、昔みたいに仲良くなれるかもしれない。

それに、炎を封じるアイテムは、ライゼンガ將軍への切り札にもなるはずだ。

100人の兵をものともしない將軍を止められるアイテムか……わくわくするな。

「使えそうなアイテムは……これかな」

俺は『通販カタログ』の、後ろの方にあるページを開いた。

載っていたのは、小さなペンダントだ。

ペンダントヘッドには円盤狀のものがついていて、そこには、不思議な獣のレリーフがある。

「不思議なかたちのペンダントですね。どんなアイテムなのですか? トールさま」

「これは……風水(ふうすい)というものを取りれた『健康増進ペンダント』だ」

「風水(ふうすい)、ですか?」

「うん。勇者の世界には、この世界とは違う魔力の概念(がいねん)があるみたいなんだ」

俺は説明文を読んでみた。

──────────────────

『健康増進ペンダント』

の気を循環(じゅんかん)させて、あなたの健康力を高めます!

の調子が悪い? それは、気の偏(かたよ)りによるものです。

一種類の気だけが強くなったりすると、が火照ったり、熱を帯びたりするものです。

そんなときはぜひ、このペンダントをお使いください!

偏(かたよ)った『気』を整え、循環(じゅんかん)させて、調を改善します!

気とは、すべての源になるものです。生命はそれを利用して活しています。

このペンダントは、それを安定させるもので──』

──────────────────

『気の流れ』か。

こっちの世界でいうと、魔力みたいなものだろうか。

俺やメイベルのの中には、魔力が流れている。メイベルの場合はそれがうまく流れずに冷えになっていた。

となると、このカタログにある『気』は、『魔力』と同じだと考えるべきだろう。

それに、異世界から來た勇者の伝説にもある。

──『気を高めることで、極大魔(きょくだいまじゅつ)を放った』とか。

──『気合いがあればなんでもできる』と宣言して、巨大な魔獣を倒したとか。

──『気を集中』して、を強化したとか。

極大魔を放つのに使えるなら、『気』とは『魔力』のことで間違いなさそうだ。

なるほどなー。

異世界では、魔力を変換して循環(じゅんかん)させるマジックアイテムが売ってたのか。

だから異世界から來た勇者たちは、あんなに強かったのか。

普通に魔が通じない勇者もいたらしいもんな……。

ちなみに『通販カタログ』には「このページの商品は當社とは関係ありません」と書いてある。

理由は、なんとなくわかる。

おそらくの魔結社があったんだろう。このアイテムは、そこがあつかっていたのかもしれない。

危険すぎるアイテムだもんな。専門のところじゃないと売れないよな。

そして、この『健康増進ペンダント』は、偏(かたよ)った気(き)──つまりは魔力を整えて、変換することができるらしい。

これを使えば、アグニスの炎を抑えることもできるかもしれない。

の炎は、強すぎる『火の魔力』が原因だ。その魔力を変換して、別の魔力に変えてしまえば、発火しなくなるはず。

「うん。これなら、なんとかなりそうだ」

「トールさま?」

「メイベル、手伝ってくれる? このペンダントなら、アグニスさんの炎を抑えることができるかもしれない」

「アグニスさまのアイテムを作るおつもりだったのですか!?」

……あ、しまった。

アグニスと會ったことはにするつもりだったんだけど……。

まぁいいか。

お風呂場でバッタリでくわしたことだけ緒にしておけばいいや。

「ごめん。事があって言えなかったんだ。本當はアグニスさんのためだよ」

「そうなのですか……私はてっきり、ライゼンガさま対策だと思い込んでおりました」

メイベルはそう言って、笑った。

「でも確かに、勇者がいた世界のアイテムなら、アグニスさまの炎を制できるかもしれませんね」

「俺に上手くコピーできるかどうかは、わからないけどね」

「できますよ。トールさまなら」

メイベルは俺に向かって、ぺこり、と頭を下げた。

「そういうことなら、私の方からお願いします。どうか、お手伝いさせてください」

「わかった。じゃあ、始めよう」

今回の作業には細かいチェックが必要だ。

ちゃんと見本を見て、間違えないようにしないと。

『健康増進ペンダント』の寫真は、大きく掲載(けいさい)されている。

だからかたちもよくわかる。『創造錬金』でコピーできそうだ。

ただし、本當に特殊なアイテムだから、慎重に作らないといけない。

「私には、この本を読むことはできないのですけど……」

メイベルは目を丸くして、『健康増進ペンダント』の寫真を見つめている。

「こんな小さなペンダントに、炎を抑える力があるのですか?」

「これは『火の魔力』を、別の魔力に変換できるものだからね」

俺はペンダントの下にある図柄を指さした。

「ここに、勇者の世界の『気』……というか魔力について書いてあるんだ」

「勇者の世界の魔力……ですか?」

「あっちの世界では魔力を『木・火・土・金・水』の5種類に分けていたらしい」

「こちらの世界とは違うんですね」

「この世界では『・闇・地・水・火・風』だからね」

もうひとつ違うのは、勇者の世界では『魔力は循環(じゅんかん)する』とされていたことだ。

このペンダントも、五種類の魔力をぐるぐると回すことで、を活化させ、潛在能力が目覚めさせるものらしい。

殘念ながら魔力が変換されるシステムについては、ざっくりとしか書かれていない。『木は燃えて火になり、火は燃え盡きて灰と化して土になり、土は(じゅくせい)して金屬に──』というじだ。斷片的な報しかない。

でも、これはしょうがない。

異世界の魔結社が大事な報を、堂々と書くわけがないもんな。

おそらく魔力変換については、勇者の世界でもだったんだろう。

それに、別に知識はなくても問題ない。魔力の変換は、ペンダントに刻まれた神獣(しんじゅう)のレリーフが、いいじにやってくれるらしい。

さすが勇者の世界のアイテムだ。抜かりがないな。

「説明文には『健康増進ペンダントには、青竜(せいりゅう)・朱雀(すざく)・白虎(びゃっこ)・玄武(げんぶ)、さらに中央に麒麟(きりん)を配置しております』と書いてある」

俺はメイベルにわかるように、『通販カタログ』を読み上げた。

「これによって中の魔力が整い、健康が増進するそうだ。人によっては潛在能力(せんざいのうりょく)に目覚めることができるらしい」

「すさまじいアイテムですね」

「うん。これならアグニスさんの『火の魔力』を抑えることもできると思う」

やってみよう。

俺はスキル『創造錬金(オーバー・アルケミー)』を起する。

『通販カタログ』のページをじっと見つめて、ペンダントの形狀を記憶。

空中にイメージ図を作り出す。

「──立図を作

空中に『健康増進ペンダント』の図が浮かび上がる。

素材には、『簡易倉庫』を作ったときの殘りを使おう。

ペンダントの大きさは手の平に載(の)るくらい。

アグニスのを傷めないように、鎖(くさり)はやわらかく。

難しいのは、刻まれている獣──神獣(しんじゅう)のかたちだ。

青竜(せいりゅう)──これはおそらくドラゴンだろう。

白虎(びゃっこ)──これも大丈夫だ。虎はこの世界にもいるから。

朱雀(すざく)は──火炎鳥をモデルにすればいいな。

玄武(げんぶ)と麒麟(きりん)は──これは見たままトレースするしかない。正確に作れば大丈夫なはずだ。

俺はイメージを固めていく。

きちんと魔力が変換されるように。

アグニスの、強すぎる火の魔力が、他の魔力に変わるように。

「──形狀把握(けいじょうはあく)、完了」

俺はイメージ図を再確認。

の獣の姿は、きちんとトレースできてる。このまま進めよう。

「金屬の塊(かたまり)を素材にして、『健康増進ペンダント』を錬(れんせい)する。部に、魔力変換機構を付加して──」

できるだろうか。

ちょっと心配になってきた。

火屬と地屬、水屬はわかる。

でも、木屬と金屬なんてこの世界にはないから──

『「五行屬作《ごぎょうぞくせいそうさ》」を習得しました』

と、思ってたら、頭の中で聲がした。

『「異世界の魔力についての知識を得たことで「火」「水」屬に加えて、「土」「金」「木」屬を扱うことができるようになりました』

『屬を付加しますか?』

『創造錬金(オーバー・アルケミー)』は、異世界の『木・火・土・金・水』の屬も扱えるらしい。

すごいな。さすがは究極の錬金スキルだ。

だったら迷うことはない。やるだけだ。

「屬を付加する」

俺は宣言した。

「『木・火・土・金・水』の屬を付加して、『健康増進ペンダント』を作する!」

『健康増進ペンダント』のイメージ図を、床に置いた金屬塊(きんぞくかい)へと移させる。

金屬の塊が形を変えていく。

やがて、細い銀の鎖と、円盤狀(えんばんじょう)のペンダントヘッドができあがる。

ペンダントヘッドの表面には、5の神獣の姿だ。

「メイベル。本に載ってる形どおりか確認して。特に5の神獣がちゃんとできてるかどうか」

「は、はい!」

メイベルは『通販カタログ』を手に、ペンダントをのぞき込む。

「竜っぽいの……虎っぽいの、亀っぽいの……鳥と……もじゃもじゃ獣──大丈夫です! トールさまの作られたものは、この本に載ってるものの通りです!」

「了解。それじゃ実行! 『創造錬金(オーバー・アルケミー)』! 『健康増進ペンダント』を作!!」

からん。

のペンダントが、床の上に落ちた。

だ。

──────────────────

『健康増進ペンダント』(屬:木・火・土・金・水)(レア度:★★★★★★★★★☆)

勇者の世界の『魔力概念(まりょくがいねん)』に基づいて生み出されたペンダント。

裝著者が持つ魔力を5等分して、5種類の魔力に変換する。

たとえば100の力を持つ火の魔力があった場合、それは20の力の『木・火・土・金・水』の魔力に変換される。

変換された魔力はすべて、裝著者の強化と健康維持に使われる。

木の魔力は、裝著者にしなやかな生命力を與える。

火の魔力は、裝著者に活的なエネルギーを與える。

土の魔力は、裝著者に安定した力を與える。

金の魔力は、裝著者に強固な力を與える。

水の魔力は、裝著者にのある力を與える。

裝著者の魔力が強いほど、より多くの強化・健康効果が得られる。

理破壊耐:不明(攻撃をけると、その魔力を変換・吸収してしまうため、破壊できるかどうかわからない)。

耐用年數:100年くらい。

──────────────────

「これで、アグニスさんの炎が抑えられればいいんだけど」

「トールさま、お聞きしてもいいですか?」

「どしたのメイベル」

「そのペンダントは、5の神獣(しんじゅう)が描かれたペンダントに魔力を注ぐことで魔力が循環(じゅんかん)して、が健康になるんですよね?」

「そうだね」

「じゃあ、もしもその5の像を造って、魔王領を囲むように置いたらどうなるんですか?」

確かに。

このペンダントは魔力を循環(じゅんかん)させて、人を健康にするものだ。

それを國すべてに適用したら……。

「やってみていい?」

「陛下と、魔王領の高すべての許可が要りますね……」

難しそうだった。

とりあえず、ペンダントは完した。

まずは実験してみよう。うまく魔力が変換されるかどうか。

誰にでも使えるようなら、魔王領の標準裝備にしてもらえるかもしれない。あとで魔王ルキエに相談してみよう。

そんなことを考えながら、俺はできたてのペンダントを手に取ったのだった。

第20話は、明日の午後6時ごろに更新する予定です。

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