《【書籍版4巻7月8日発売】創造錬金師は自由を謳歌する -故郷を追放されたら、魔王のお膝元で超絶効果のマジックアイテム作り放題になりました-》第25話「魔王ルキエと宰相ケルヴ、ライゼンガ將軍の報告をける」

──魔王ルキエ視點──

「お主の方から余(よ)に謁見(えっけん)を求めるとは。どういう風の吹き回しじゃ? ライゼンガ・フレイザッドよ」

魔王ルキエは言った。

ここは、魔王城の玉座の間。

玉座には魔王ルキエが座り、その橫には宰相(さいしょう)ケルヴが控えている。

その正面で膝(ひざ)をついているのは、火炎將軍のライゼンガだ。

彼が自分から、魔王に謁見(えっけん)を求めるのは珍しい。

ライゼンガは理的な強さこそを重視している。

それだけに、まだ若い魔王ルキエのことを軽んじるところがあったのだった。

そんなことを考えながら、魔王ルキエが彼を見ていると──

「この火炎將軍ライゼンガ、改めて、魔王ルキエ・エヴァーガルドさまに忠誠を誓います!!」

──ライゼンガ將軍は床につきそうなほど頭を下げて、宣言した。

「我が忠誠は未來永劫(みらいえいごう)、陛下のものであります。それを違えた場合は、この命と魂を差し出すと──我が主君の前で誓います。『原初(げんしょ)の炎の名にかけて』!!」

「は、話が見えぬぞ、ライゼンガ……」

「『原初の炎の名にかけて』ですと!?」

とまどう魔王ルキエの隣で、宰相ケルヴが聲をあげた。

「ライゼンガ・フレイザッドどの。あなたはご自分の言葉の意味がわかっているのですか!?」

「どういうことじゃ、ケルヴよ!」

「『原初の炎の名にかけて』とは、火炎巨人(イフリート)のを引くものが絶対の誓いを立てるときに述べる言葉なのです。陛下」

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宰相(さいしょう)ケルヴは語り始める。

『原初の炎』とは、火炎巨人(イフリート)の炎の源であり、生命力の源でもあるとされている。

だから『原初の炎の名にかけて』誓った言葉は、彼らにとって重大な意味を持つ。

火炎巨人のを引くものがその誓いを破ったときは『命を取られても文句は言わない。抵抗もしない』とされている。

彼らの中にある炎が、そうさせるのだ──と。

「火炎巨人(イフリート)の族がこの言葉で忠誠を誓ったのは、初代の魔王さまに対してだけです。『原初の炎の名にかけて』初代魔王さまと共に戦うことを誓った火炎巨人(イフリート)は、文字通りに命の炎が燃え盡きるまで初代魔王さまに付き従い、守り続けたと言われております」

「……そ、そのようなことが……」

「陛下がご存じないのも無理はありません。この誓いが公式の場でなされたのは、魔族の歴史上、今回が二度目ですからな。しかし……」

「ライゼンガよ。なぜ、急にそのようなことを……?」

魔王ルキエは仮面の奧で、驚きに目を丸くしていた。

絶対の忠誠を捧げられるのは有り難い。主君として、誇(ほこ)りに思う。

けれど、どうして突然そんなことになったのか、さっぱりわけがわからないのだ。

「そちの忠誠はうれしく思う。だが、まずは理由を聞かせてくれぬか」

「我は自分のおろかさゆえに、恩人に無禮なことをしてしまったのです」

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「無禮なこと、じゃと?」

「然(しか)り。その方は我を許してくださったのですが、その方は、魔王陛下直屬の錬金師(れんきんじゅつし)でもあるのです。ならば、陛下にもお詫びしなければ、と」

「待て」

魔王ルキエは、火炎將軍ライゼンガの言葉を頭の中で繰り返す。

今、彼は「恩人は魔王陛下直屬の錬金師」だと言った。

ということは──

「トールか!? あやつとお主の間に、一なにがあったのじゃ!?」

「はい。トール・リーガスどのは、アグニスの発火質を治してくださったのです」

「なんじゃと!?」

「なのに我は、トールどのがアグニスをだまして、よからぬことをしようとしていると思い込んでしまったのです……」

ライゼンガはため息をついた。

「そうして我は愚(おろ)かにも、トールどのを炎でおどして、捕らえて、領地へと連れ帰ろうとしたのです。正直、あのときは怒りに目がくらんでおったのですが……アグニスが我のあやまちを正してくれました」

「アグニスがお主を止めたということか?」

「はい。アグニスは発火に使っていた火の魔力で、おそるべき強化を行ったのです。そうして片腕で我がきを封じ、両腕で我を完全に拘束して、頭上へと持ち上げてしまったのです。いや、まったく驚きましたぞ!」

「……え。ええええっ!?」

「我はアグニスに謝しております。我(われ)が、恩人に害をなすのを止めてくれたのですからな……あんなに怒ったアグニスは初めて見ました」

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ライゼンガはトールへの謝と、アグニスの長とかわいさについて語り続ける。

魔王ルキエは、それに答えることができなかった。

予想外すぎる展開に、頭が真っ白になっていたのだ。

トールがまたなにかやらかしたのだとは思っていた。

けれど、アグニスの魔力を改善したという事実は、魔王ルキエの予想をはるかに超えていた。

ライゼンガの娘、アグニスは火炎巨人(イフリート)のが強く出た、いわゆる先祖返りだ。

強すぎる火の魔力を制できない彼は、発火質に悩んでいた。

だから、主君として魔王ルキエも手を貸した。

での『耐火(たいか)の鎧(よろい)』の著用を許し、炎が他の者に影響を與えないように、専用の區畫も與えたのだ。

(そのアグニスの発火質を治したじゃと!?)

しかもアグニスは火の魔力で、を強化できるようになったという。

ライゼンガの言葉によると、片手で彼のきを封じ、両手で彼を拘束して、頭上に持ち上げたらしい。そんなこと、通常の強化の魔でできるはずがない。

強化の魔は力や素早さなど、ひとつのパラメータに限って上昇させるものだ。

上昇率も、せいぜい1・5倍から2倍。

だが、であるアグニスがライゼンガのきを封じるには、4倍……あるいは5倍の強化が必要だ。

さらに、力だけではなく、能力すべてを全的に強化しなければいけない。

それはまさに、勇者に匹敵(ひってき)するほどの強化魔だ。

「正直に申し上げて……我は現在の魔王領の『人間に學ぶ』という方針に疑問を持っておりました」

ライゼンガ將軍の話は続いていた。

「だが、トール・リーガスどのことを知り、陛下の方針は正しかったと理解いたしました。陛下がトール・リーガスどのを重用されたのは、すばらしいことだったのです。ですから謝の意味も込めて、我は陛下に忠誠を誓うこととしたのです」

「……そういうことであったのか」

「我が忠誠はすでに陛下のもとにございます。どうか、我が失態に対して罰(ばつ)を下すよう、お願いいたします」

がん、と、ライゼンガは床に額を打ち付けた。

「……先祖返りした火炎巨人(イフリート)の発火能力を押さえて、火の魔力を強化に変換……將軍のきを封じるほどの力を與える……ないない。あり得ない……あり得ないことが……」

橫を見ると、宰相ケルヴが柱に頭を打ち付けていた。

トールが來てから魔王領の高は、建築への頭突きが趣味になったらしい。

「陛下の客人に無禮を働いた罪がどれほどのものか、理解しております。すでに我は、將軍の職を辭する覚悟でおります。陛下、どうか、存分になされよ」

やがて、火炎將軍ライゼンガは顔を上げて、魔王ルキエを見た。

「……ライゼンガの罪、か」

魔王ルキエは玉座の肘掛けを握りしめた。

ライゼンガは自分の知らないところでトールをさらおうとした。これは確かに許しがたい。

魔王として、ライゼンガには罰を與えるべきだろう。

だが、ライゼンガは『原初の炎の名にかけて』魔王ルキエに忠誠を誓っている。

初代魔王が當時の火炎巨人(イフリート)からもらったという、最高位の誓いだ。

それを魔王ルキエがけたということは、大きな意味をもつ。

さらに、そこまでしてくれたライゼンガを処分してしまえば、魔王領の民も不満を持つだろう。

処分のその原因がトールにあるとわかったら、彼を悪く言う者も出るかもしれない。

それはルキエも、嫌だった。

「トールは、なんと言っておる?」

ふと、魔王ルキエは訊ねた。

「あやつは、お主にどのような罰をんでおったのじゃ?」

「あの方は……我にいかなる罰を與えることもみませんでした」

「……まぁ、あやつなら、そうかもしれぬな」

「ですが、我(われ)がどうしてもとお願いしたところ、錬金の素材がしいと言われました」

ライゼンガはうなずいた。

「我が領土は山岳地帯にあり、これから鉱山の開発が始まる予定です。それを知ったトールどのは、山にある珍しい石がしいと申されました。そのうちに我が領土を訪ねて、錬金の素材を探してみたい、と」

トールらしい、と、魔王ルキエは思う。

彼のことだから、きっと魔王領のことと、アグニスの立場を考えたのだろう。

將軍であるライゼンガに大きな罰を加えることは、魔王領を揺させてしまう。

せっかく発火質が治ったアグニスの立場も悪くなる。

だから、トールはライゼンガを罰(ばっ)することをまなかった。

ならばその意を汲んだ上で、魔王としてライゼンガをどうするか考えるべきだろう。

そして、魔王ルキエは心を決めた。

「ならば火炎將軍ライゼンガに、魔王ルキエ・エヴァーガルドが命じる」

魔王ルキエは立ち上がり、ライゼンガを見據えた。

「誤解があったとはいえ、余の大切な客人であるトール・リーガスを脅(おど)し、己の領土へと連れ去ろうとしたことは許しがたい。よって、お主の領地を一部、取り上げることとする」

「承知いたしました!」

わずかな迷いもなく、ライゼンガは答えた。

「ということは、我が領地の一部を魔王陛下の直轄地(ちょっかつち)にされる、と?」

「そうなるな。じゃが、それほど広い土地をもらっても仕方がない。また、管理も大変じゃ。土地の広さは、大きな家が建てられるくらいでよい。近くに街道があり、水場もあれば言うことはないな。まぁ、お主の領土に別荘地をよこせ、ということじゃ」

「……は、はい。それは喜んで」

「そうか」

「ですが陛下、それでは罰になりませぬ。陛下がご希なら、別荘地を用意するのは當然のことで……」

「我の別荘ではないよ」

魔王ルキエは、口元だけで笑ってみせた。

「お主が用意するのは、鉱山に近い土地じゃからな。的にはすぐに採掘(さいくつ)に行けて、素材集めもできる場所じゃ」

「陛下!? も、もしやそれは──」

「うむ。そこにあやつのための(・・・・・・・)家を建ててやれ。住まいと、工房を兼ねた、広い家をな」

「──はい!」

魔王ルキエの意図がわかったのだろう。

ライゼンガは目を見開いて、うなずいた。

「わかりました。素材の採掘(さいくつ)がしやすい場所で、心置きなく錬金(れんきんじゅつ)の実験ができるように、広い庭がある家がよいのですな!」

「そうだ。屋敷の建築費はお主の個人的な出費となる。土地と、屋敷と工房の建築予算の提供、トールが不在の間の建の管理──それがお主への罰(ばつ)じゃ」

そうして、魔王ルキエはライゼンガを見た。

「この罰について、なにか不満はあるか、ライゼンガよ?」

「ございません。むしろ、むところです!」

「あやつの──トールの家はこの魔王城じゃ。じゃが、時には別の場所で研究をしたくなることもあろう」

魔王ルキエは仮面の下で、おだやかな笑みを浮かべた。

「トールは、皆に自分が作ったマジックアイテムを使ってもらうことをんでおる。ならば魔王城の中だけではなく、誰もが気軽に訪ねられる場所にも工房を持つのがよかろう」

「その罰(ばつ)、よろこんでおけいたします!!」

ライゼンガ將軍は再び、床に額を押しつけた。

「トールどのに恩返しをする機會を下さったこと、謝いたします。我が主君、ルキエ・エヴァーガルド陛下!」

「あまり喜んでもらっては困る。お主は領地の一部を失い、私財を使うのじゃ。これは罰なのじゃぞ?」

そう言いながら苦笑する、魔王ルキエ。

「とにかく、トールに迷をかけた分だけ、もてなしてやるがよい」

「承知いたしました!!」

火炎將軍ライゼンガは顔を上げ、うなずいた。

「以上じゃ。ケルヴよ、なにか意見はあるか?」

「……魔力の変換……あり得ない。そんなことは……」

「こら、柱が傷むじゃろうが。いいかげんに頭突きはやめよ」

「…………話は、聞いておりました」

宰相ケルヴは額を押さえながら、魔王ルキエの方を見た。

「陛下の判斷こそ最善と考えます。ライゼンガ將軍は帝國と渉をしている最中でございます。対外的に大きな罰を與えては、向こうにつけ込まれる隙を作ってしまうかと」

「帝國との渉か……」

魔王ルキエは、以前けた報告を思い出す。

火炎將軍ライゼンガの領地では、鉱山の開発が行われている。そのため、現在は山に巣を作った魔獣を討伐する準備の真っ最中だ。

討伐のためには兵を集める必要があるのだが、場所が帝國との境界に近い。

帝國側に『魔王領より侵攻の意志あり』と、誤解されても困る。

そのため、ライゼンガは帝國の辺境伯と渉を行っている。

その中で、帝國と魔王領で共同して魔獣を討伐するという話が進んでいるのだ。

(……じゃが、帝國はトールを捨てた國じゃからな……)

あの國が信用できるかどうか、魔王ルキエには確信がない。

共同で魔獣討伐を行っても大丈夫か、不安なところがあるのだ。

「ケルヴよ。帝國の辺境伯との渉は、ライゼンガに一任しておったな」

「はい。すでに何度か、書狀をやりとりしております。近いうちに、將軍の領土に辺境伯がやってくるとか。そうですね、將軍」

「はっ。ケルヴどののおっしゃる通りです」

「そうか。ならば続けてその任に當たるがいい」

魔王ルキエは続ける。

「ただ、無理に帝國との共同作戦を進めなくともよいぞ。魔獣討伐は、魔王領の兵だけでもなんとかなる。相手が信用ならぬと思ったら、渉を打ち切っても構わぬ」

「陛下。それは……」

「なんじゃ、ケルヴよ」

「帝國との共同作戦が実現すれば、魔王領はじまって以來の快挙(かいきょ)となります。陛下の名聲を上げるためには、進めた方がよろしいかと」

「わかっておる。可能ならば実現したい」

不満そうな宰相に、魔王ルキエはうなずき返す。

「じゃが、無理をする必要もない、というだけじゃ。よいな。ライゼンガよ」

「承知いたしました。陛下」

「火炎將軍の忠誠も得られた、その娘も健やかに暮らせるようになった。余は、それで十分じゃよ。余(よ)自の名聲など……」

魔王ルキエはふと、顔の上半分をおおう仮面にれた。

『認識阻害(にんしきそがい)』の仮面は、今も効果を発揮し続けている。

以前は大事に思えたその機能が、ここ數日で、あまり必要ではないと思えるようになった。

トールが、魔王領に來てからだ。

彼と一緒だと素顔をさらして、本音で話すことができる。

それを楽しいと思っているうちに……いつの間にか、火炎將軍ライゼンガの忠誠まで手にれてしまった。仮面は、彼のように力を重んじる武人に対抗するためのものだったのに。

(……余は近いうちに、この仮面を外せるようになるのじゃろうか)

──アグニスが鎧(よろい)をぎ捨てたように。

──自分も素顔で、みんなと向き合うときがくるのかもしれない。

そんなことを思ってしまう魔王ルキエだった。

「……いや、話が逸(そ)れたな。ともかく、お主への罰(ばつ)は下した。これから余はトールからも話を聞くこととするが、あやつも今以上の罰はむまい。まぁ、工房についてリクエストはするかもしれぬが、それは覚悟しておけ」

意にございます。いかなる希でさえも、おけする所存です」

「うむ。お主の忠誠、ありがたく思う」

頭を垂れるライゼンガ將軍に向けて、魔王ルキエは告げた。

「余も──お主の重大な誓いに値するような主君であるように務めよう。以上じゃ」

魔王ルキエはうなずいた。

それで、話は終わりになった。

火炎將軍ライゼンガは一禮して、玉座の間から退出していく。

廊下に控えていたミノタウロスたちがドアを開けたとき、ふと、將軍は振り返り、

「そういえば……陛下、ひとつ訂正させてください」

「なんじゃ? ライゼンガよ」

「宰相(さいしょう)ケルヴどのは火炎巨人(イフリート)の誓いについて、破った場合は『命を取られても文句は言わない』──という意味だとおっしゃいましたが、それは正確ではないのです」

「正確ではない?」

「最初に『我が主君の前で誓います』とつけた場合は、ケルヴどののおっしゃる通りの意味になります。それを付けずに、特定の相手を対象にして誓った場合は、違う意味になるのです」

ライゼンガ將軍は、困ったような顔で、続ける。

「たとえば……思いを寄せた相手を対象にして、あの言葉を口にしたときは……『この誓いとともに、も心もあなたに捧げます。この想いはこの生命の炎とともに燃え続けるでしょう』、という意味になるのです」

「ほぅ。興味深いな」

「重要な誓いですからな、めったに口にするものではないのですが」

ライゼンガは遠い目をして、ため息をついた。

「本當に……子どもの長は早いものですな。よろこんでいいやら、さみしいやら」

「──ん?」

「申し訳ございません。親の繰(く)り言ですよ。それでは失禮いたします」

そう言ってライゼンガ將軍は退出していった。

玉座の間には首をかしげる魔王ルキエと、なにかを察して頭を抱える宰相ケルヴが殘されたのだった。

第26話は、明日の午後6時ごろに更新する予定です。

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