《【書籍化】馴染彼のモラハラがひどいんで絶縁宣言してやった》モラハラ彼を棄てることにした

「颯馬(そうま)先輩、ほーんと使えないですよねえ。それで私の彼氏とかありえないんですけどぉ」

「わかった。じゃあもう別れよう」

「ひあっ……?」

それまで自信満々に腕を組んで、上から目線で俺を馬鹿にし続けていた花火(はなび)の口元がヒクリと引き攣った。

俺が反抗するなんて微塵も思っていなかったのだろう。

青天の霹靂を食らったような顔をしても、ちゃんと可く見えるところはさすがと言える。

伊達に學園で一、二を爭うと呼ばれているわけじゃない。

大きくて小のような瞳と、形のいいし下がり気味の眉、ニキビひとつない陶のような

素の薄いセミロングの髪、華奢な型と、そのわりに大きな

どれだけ大勢の中にいても人目を引く、華やかな雰囲気――……。

花火が廊下を通るとき、すれ違う男は必ず振り返る。

花火は男の理想を、そのまま絵に描いたような外見をしているのだ。

とはいえ俺はこの一個下の馴染、如月(きさらぎ)花火が、顔がいいだけの格ドブスであることを嫌というほど知っている。

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「ちょっと待ってください。何言っちゃってるんですか? 別れる? あははっ! 冗談はその間抜けな顔だけにしてしいんですけどぉ」

ほら、こんなじに。

とんでもないモラハラなのだ。

「冗談じゃない。本気で言ってる」

俺はこれまで、どれだけひどい暴言を吐かれても、じっと我慢し続けてきた。

そうやって俺が楯突いたりせず、謝っていれば、そのうち花火の機嫌が直り、すべて丸く収まると思っていたのだ。

悔しい思いをしても、慘めで泣きたくなっても、とにかく耐えた。

そんな俺を花火は、子供の頃からずっといいようにサンドバッグ扱いしてきたのだ。

中學生になって、ほとんど強引に付き合うことになってからも、その態度は変わらなかった。

むしろ悪化したぐらいだ。

なぜそこまでして花火の傍にいたのか。

それは花火によって、毎日自分の無価値さを刷り込まれていたせいで、まともな判斷能力を失っていたからだ。

モラハラやDVの被害者は、拘束されていなくても相手から逃げることができないというがあれは事実だ。

たしかに俺は花火によって、監されていたわけじゃない。

でも花火の暴力的な発言の數々は、言葉の鎖となって、俺の心を縛り付けていたのだ。

じゃあ、どうして俺が目を覚ますことができたのか。

――ストレスのあまり胃にが空きまくって、院したからだ。

それでやっと気づけた。

俺、このまま花火と関わっていたら殺される……って。

だって人が院している病院までわざわざきて、「せんぱぁい、誰の許可を得て院したんですかぁ? そもそも弱だから、胃にが空いたりするんですよ。臓まで役立たずなんて、使えない男レベル極めるつもりですかぁ?」などと嘲笑うやつなのだから。

そして飛び出したのが、冒頭のセリフである。

使えない、役立たず、彼氏失格、別れないでいてあげるのは私の優しさ――。

ほとんど毎日聞かされてきて、麻痺しかけていたけれど、こんな言葉をぶつけられて黙ってるなんて異常だった。

「だいたい先輩の分際で私を振っていいわけないじゃないですか……! ていうか、なんですか? もしかしてこの私が彼氏にしてあげてるせいで、調子に乗っちゃった系ですか? 可哀想な先輩の目を覚ませてあげますけど、先輩みたいな役立たず、私以外相手してくれる人なんて絶対いませんから」

「たとえそうだとして、花火と付き合い続ける理由にはならないよ」

「……!」

「よかったね。役立たずな彼氏から解放されて。話は終わりだよ。帰って」

蟲を追い払うようにしっしと手を振っても、花火はベッドの脇からどこうとしない。

やれやれ……。

とため息を吐いて立ち上がった俺は、花火の腕を摑んで口へと向かった。

「ちょっとぉ!? なんなんですかぁ!? 放してください! 私はまだ言いたいことが……っ」

「あ、そう。でも俺はない。それにおまえの顔を見てると吐きそうになるから」

「はああっ!? 私にそんな暴言を吐いていいと思ってるんですかっ!?」

「じゃあね。この瞬間から俺とおまえは赤の他人だ」

「ちょ、せんぱ――ッ」

ぎゃあぎゃあ喚ている花火の肩をとんと押し、後ろによろめいた彼が廊下に出た瞬間、病室のドアを閉めてやった。

靜かになった病室で、はぁっと息をする。

ついに俺は自由を勝ち取った。

あの悪魔のようなモラハラとの関係は、これで完全に終わりだ。

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