《【書籍化】馴染彼のモラハラがひどいんで絶縁宣言してやった》『育祭の英雄』と『調子に乗りすぎた敗北者』
3つ目のレビューをいただきました
ありがとうございます!
當日は天候にも恵まれて、晴天のもと、育祭は大いに盛り上がった。
クラスである程度固まっていれば、応援席の並びは自由だ。
俺と蓮池と雪代さんは自然に三人でかたまり、一緒に観戦を楽しむこととなった。
ムカデ競爭、綱引き、ソーラン節、玉投げ、借り競爭、応援合戦、などなど。
見ごたえのある種目が々と続いていく。
雪代さんは玉投げに、蓮池は綱引きに、俺は大縄跳びにそれぞれ參加した。
ちなみにソーラン節は二年生全員強制參加で、応援合戦は全學年合同の種目となる。
――そして、いよいよ二年生のリレーとなった。
「がんばろうね!」
雪代さんの言葉に、蓮池とふたり、頷き返す。
「トップバッターとして全力で走ってくる。あとは任せた」
今度は蓮池の言葉に、雪代さんと頷く。
「第一走者はレーンに並んでください」
案役の生徒會員に言われて、蓮池が去っていく。
俺と雪代さんは並んだまま、蓮池を見守った。
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スピーカーから流れる音楽が、リレーの定番曲『天國と地獄』に代わる。
「位置について、よーい!」
パンッ――。
高らかなピストルの音が白煙をあげて鳴り響く。
四組の生徒が一斉にスタートを切った。
「蓮池くん、がんばれー!」
雪代さんやクラスメイト達が一生懸命聲を出して聲援を送る。
その聲に応えるように、蓮池が頭一つ分飛び出た。
そのままトップでバトンが引き渡される。
クラスメイトは全部で三十一人。
抜いたり抜かれたりを繰り返しつつ、リレーが進んでいく。
「どうしよ……。そろそろ私だ……」
自分の番が近づいたせいで張してきたのだろう。
雪代さんの頬がいつも以上に白くなっている。
「落ち著いて。練習したとおり走れば大丈夫だよ」
「ありがとう。……ね、一ノ瀬くん、一瞬だけ手、貸してくれる?」
「手?」
よくわからないまま、雪代さんに求められて腕をばすと、彼は両手で俺の右手を包むように握ってきた。
「……!」
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「うん。これで勇気もらえた。ありがと……!」
「う、うん」
さっきまで青白かった雪代さんの顔に、ピンクの熱がさす。
俺もちょっとドキドキしながら、ニコッと笑った彼を見送った。
レーンに立ち、バトンをけ取った雪代さんは、やわらかい髪をふわふわと揺らしながら、走り抜けていった。
一生懸命な彼の姿が眩しくて、俺は思わず目を細めた。
転んだり、バトンを落としたり、抜かれたりすることもなく、雪代さんは自分の役目をやり遂げた。
すっきりした表の彼と目が合い、お互い自然な笑顔をわした。
あとは、俺だけだ。
今のところ、二組がかなりのリードをつけて獨走している。
うちのクラスは二位と僅差で三位だ。
そしてついに、アンカーの順番がやってきた。
レーンには走ってくる順番で並ぶことになる。
桐ケ谷、四組の男子、俺、三組の男子という順で立つと、俺以外の奴らはの筋をばしたり、手首を回したりしはじめた。
俺だけ棒立ちでいると、四組の男子越しに桐ケ谷が話しかけてきた。
「なあ、なんで一組は素人なの?」
言われてみれば、三組も四組も運部で知名度のある生徒だ。
「一組にだって陸上部いるだろ。ってあいつは彼にフラれてからタイムがグズグズだったっけ。ははっ」
「……」
桐ケ谷が言っているのは明らかに蓮池のことだ。
「まあ、あいつは何やっても俺に勝てないけど。陸上でも、でも――」
「バトンくるよ」
「えっ、お、おう。んじゃお先」
桐ケ谷は前髪をサラッと掻き上げて、余裕の表で笑うと、バトンをけ取る勢にった。
一位と二位の間はさらに差がついている。
自分のクラスの待機列に視線を向けると、並んで立った蓮池と雪代さんが心配そうな顔で走者の姿を追っていた。
その直後、二組の子が駆け込んできた。
パシッと音を立てて、バトンが桐ケ谷の手に渡される。
育祭の花形リレー走のアンカーということもあり、會場中がにわかに活気づく。
応援団の太鼓の音、の子たちの高い聲、男子たちの野太い聲援。
それらが渾然一となって、五月の青空に響き渡った。
後続の走者たちは、最後のレーンを曲がり終え、ようやく直線コースにったところだ。
さてと。
四組の生徒に続いて、俺もバトンをけ取る準備をはじめた。
桐ケ谷はハイになっていたようだったけれど、俺のほうはが変にざわつくこともなかった。
ここまできたらあとはもう蓮池の教えてくれたとおり走るだけだ。
四組のバトンが渡された。
それから數秒。
俺の手にも、クラスメイト達が引き継いできたバトンが確かなとともに託された。
よし、行こう。
風を切って走り出す。
聲援が遠ざかり、自分の呼吸音だけを近くにじる。
し前を走る四組の生徒がなぜか止まって見え、あっさり追い抜けてしまった。
これで二位。
でも、重要なのは順位じゃない。
視線の先に桐ケ谷の背中が映った。
あれを仕留める。
風の流れが追い風から向かい風に変わる。
らかいグラウンドの土をトンッと軽く蹴って、前へ前へと進む。
一歩踏み出すたび、桐ケ谷の背中がそのたび大きくなっていく。
その背中にぴたりとくっついたとき、獨走狀態で余裕だと思っていたらしいヤツのが目に見えて強張った。
ゴールまで殘りわずか。
最後の直線レーンにったとき、俺と桐ケ谷は橫並びになっていた。
さすが陸上部のエース。
桁違いに速い。
でも、なんか俺、それ以上に速かったようだ。
「うっ……くうっ……」
桐ケ谷が唸る聲を耳の後ろで聞きながら、ゴールテープを切る。
息を呑んで見守っていた生徒たちが、一瞬後、わああっと大歓聲を上げた。
応援席にいたクラスメイト達が、一斉に駆け出してくる。
俺はあっという間に取り囲まれ、気づけば上げされていた。
「ちょ、みんな、落ち著いて……」
宙を舞いながらそう伝えてみるが、興しているクラスメイト達に俺の聲は屆かない。
まいったな。
飛びながら視線をかすと、涙をためてしている雪代さんと、その隣で號泣している蓮池の姿が見えた。
……まあ、あのふたりが喜んでくれたならいいか。
「一ノ瀬、おまえ、まじですごいよ……!」
「めちゃくちゃ速かったし!!」
「ほんと! 一ノ瀬くんのおかげで一位だもん!」
「かっこよかったよなあ!」
「二組のアンカーって桐ケ谷くんでしょ。陸上部のエースなのに、抜かれちゃったのウケる」
「あいつ顔だけで格クソだからざまあみろってじ」
桐ケ谷がもてるのは事実だけれど、どうやら彼の本質を見抜いている一部の子からは不人気なようだ。
やっとのことで解放してもらい、地面に降り立つと、茫然と立ち盡くしている桐ケ谷の姿が視界にってきた。
二組はうちのクラスと真逆でお葬式狀態だし、クラスメイトのもとへ帰るのも気が引けるのだろう。
なんて思ってると、桐ケ谷は二組の生徒たちの視線から逃げるように、一年生の応援席に視線を向けた。
なんとなくつられて俺もそっちを見ると、眉間に皺を寄せてを噛みしめている花火と目が合ってしまった。
自分の彼氏が俺に負かされたのが、悔しくて仕方ないのだろうか。
やれやれ。
花火への嫌がらせだと勘違いされていたら迷だな……。
蓮池のために桐ケ谷に勝ちたいとは思っていたけど、花火の存在なんてこっちはまったく意識していなかったのだから。
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