《【書籍化】馴染彼のモラハラがひどいんで絶縁宣言してやった》雪代さんの告白

『學校の人気者になって、子にチヤホヤされて気分がいいですか? でも、そんなものは幻の幸せなんで簡単に壊れちゃいますよ』

窓ガラス越しに、花火がくぐもった聲でぶ。俺は首を橫に振って、やれやれとため息を吐いた。

「またくだらないことをするつもり? いい加減、俺に構うのをやめたら。花火が何をしてきても俺はなんとも思わないからやるだけ無駄だよ」

「そんなふうに言っていられるのも今のうちですよ。今度こそセンパイが手にれたものを奪い取って獨りぼっちにしてあげますから。というわけで、楽しみにしていて下さいね」

窓ガラス越しに俺を睨みつけた花火は、それだけ言うとスッと姿を消した。

何がしたかったのか。

ていうかやっぱり後をつけていたんじゃないか。

大道寺絵利華の家で覗き見をしていたときは、あんなにわかりやすくバレバレだったのに、どうして今回はここまで完璧に隠れおおせたのか。

……もしかして、大道寺絵利華の時はわざと見つけさせた?

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あのとき、花火を目撃しなければ、俺は大道寺絵利華の背後に花火がいたことを気づかないままだったかもしれない。

花火は嫌がらせのために、大道寺絵利華をけしかけていたのだから、花火によって俺が苦しめられているのだと敢えて知らしめようとした可能は十分あり得た。

花火が窓ガラスを叩いたりしたせいで、それからすぐ図書館司書たちが何事かと集まってきた。

やったのは自分たちではないと説明し、なんとか信じてもらえたものの、さすがに居づらい空気になってしまった。

結局、俺たちは、雪代さんが勧めてくれた本だけ借りて、そそくさと図書館をあとにした。

◇◇◇

そのあとはマックで晝飯を食べて、公園を散歩したりした。

雪代さんと過ごすのは楽しいし、何よりも心が安らぐ。

でも、そう思えば思うほど、窓の向こうにいた花火の尋常じゃない形相が脳裏を蘇った。

俺と花火のごたごたに雪代さんを巻き込むわけにはいかない。

ちゃんと雪代さんのことを思うなら、花火の問題が解決するまでは距離を置くべきではないだろうか?

心の奧で悩んでいるうちに、気づけば日が暮れはじめていた、俺たちの初デートがもうすぐ終わりを迎える。

そのとき、雪代さんが遠慮がちに手を差し出してきた。今日の頭に俺が迷って荷を持としたときのように。

どういう意味だろうと首を傾げると、雪代さんはにこっと笑った。

「デートの終わりに握手しよう?」

「あ、うん」

促されて手を握り返す。

「一ノ瀬くん、また私とデートしてくれる……?」

握った手を離さないまま、雪代さんが恐る恐るというように尋ねてくる。

「も、もちろん」

「ほんと? うれしいな……! 一ノ瀬くん、今日は私とデートしてくれてありがとう! 一緒に過ごせてとっても楽しかったよ」

目をキラキラさせて眩しいくらいの笑顔を浮かべた雪代さんが言う。

その自然な表から、雪代さんが決して無理をしているわけじゃないのはわかった。

だからこそ俺は揺を隠せなかった。

だって、花火にあんな邪魔をされたのに……。普通のの子だったら引いてしまい、俺と関わりたくないと思うような出來事だよ……?

俺が目を丸くしたまま言葉を失っていると雪代さんは笑いながら問いかけてきた。

「なんでそんなに驚いているの?」

「……まさか楽しかったなんて言ってくれるとは思ってなかっにから。花火のこともあったし」

「あ、そっか……! たしかに花火ちゃんのことはびっくりしたけど、忘れちゃってた」

「え!?」

あんなインパクトの強い出來事を忘れてた?

「だって好きな人とデートしてるんだよ? ドキドキしっぱなしだし、一緒にいれることはすごくうれしいし、頭の中は一ノ瀬くんのことで一杯だもん。他のことなんてり込む余地はないよ」

俺は顔がどんどん熱くなっていくのをじながら口元を手で覆った。

「それに私は一ノ瀬くんがいてくれれば何が起きても平気って言ったでしょ? だから私のことは心配しないでね」

を張り、トンって自分のを叩いてみせる。

かわいらしさの中に不思議な安心があって……。

もしかしたら雪代さんは、俺が思っている以上に肝たまの座っているの子なのかもしれない。

もっと雪代さんのことを信頼してみてもいいんじゃないかと思わされた。

「ということで、一ノ瀬くん今日は本當にありがとう」

「あ! 送ってくよ」

「ありがとう。でもまだ明るいから大丈夫だよ。――それじゃあ、また月曜日」

「うん、また明日」

雪代さんが手を振って歩き出す。

改札を通り抜けていったその背中を見送っていると、不意に彼がくるりと振り返った。

「一ノ瀬くーん! 私ねー! 何があっても君の事大好きだよー!」

「……!」

「えへへ! ばいばい!」

今度はさっきより大きく手を振ってから、階段の向こうに消えていった。

周囲の人のからかうような視線を一心に浴びながら、こほんと咳払いをしてから、俺も帰路についたのだった。

◇◇◇

月曜日。

俺が學校に登校していくと、ものすごく奇妙な現象が発生していた。

なぜか男子生徒たちの髪型が、この學校ではほとんど見なかった平凡な黒髪に変わっていたのだ。

今俺とすれ違ったサッカー部の十一番は、茶髪をワックスで逆立てていたのに、別人みたいな優等生スタイルになっている。

「なんかの流行……?」

でもこんな突然、変化って訪れるものなのだろうか。

首を傾げつつ昇降口に向かうと、俺を待っていたらしい蓮池が駆け寄ってきた。

「なあ、一ノ瀬見たか!? 學校中の男たちが、おまえの髪型真似てるぞ!?」

「……えっ? どういうこと!?」

俺が素っ頓狂な聲でんでしまったのは、言うまでもない。

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