《12ハロンの閑話道【書籍化】》終わらない夢(5)
指摘されて気付いたんですが、秋華賞は京都回りじゃん……ヤベェヨヤベェヨ
そのうち直すので多めに見てください
モルニ賞を獲り、その後の2歳以上G1アベイ・ド・ロンシャン賞を獲った辺りから、見る目のない記者達もセルクルの真価に気付き始めた。
『ダンシングブレーヴの再來!』
『再び現れたフェンリル!』
『次代の王者!』
雑誌の見出しはどれも勇ましく、それでいて稽でもある。
まだ分かっていないようだ。セルクルはネジュセルクルでしかありえないのに。
しかし再び現れたフェンリルというのは多納得できる。
フェンリルは近年現れた歐州完全王者で、その統は傍流も傍流の廃れたものだった。そのおかげで繁牝馬に恵まれ、昨年あたりから産駒が暴れまわっている。
セルクルも父はアメリカの馬で、これは歐州においてはあまり付けられる事のない珍しい種だ。母クローヌは王道統に近い形だが、二代前から工夫が見られ、その結果繁としてセルクルを見た場合理想的な量が保存されている。
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まあそうでなくともあれだけ走る馬だ。付けたいと思う生産者は多いだろう。
その前に、俺ともっと遊ぶんだけどな。
秋晴れの空はどこで見ても変わらないが、空の広さは違うらしい。日本の空は電線と立ち並ぶ背の高いビルのせいかどこか狹くじた。
セルクルにかまけすぎだとご立腹のマリアージュに押し付けられた仕事は日本での騎乗だった。來月までセルクルのほうはレースがないので渋々けた。
以前短期免許の取得をしたことがあったのでそれほど戸うことはなかったが、隨分急な話だとは思った。
日本での騎乗はステイタスになりにくいが、金は稼げる。というより日本の賞金は異常に高い。毎週ウィークエンドフェスティバルみたいな賞金額のレースが開催されているのだから、はじめてみた時は目を疑ったものだ。
専屬の話が出ていた騎手がその話を蹴って日本に行くと言った時は隨分とおかしなことをすると思ったが、今になって考えるとあれはかなりクレバーな判斷だった。騎乗技を金に換算するのなら、どこかの専屬になるより日本で乗ったほうが稼げる。
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さて、今回騎乗するのはキョウト競馬場で、メインは日本の牝馬三冠の最終戦らしい。シューカ賞? という名前だとか。日本人はよくあんな字を見分けることが出來るよなと思う。アラビア語並に判別できないぞ……。
幸いこの國では副言語として英語が通じる。そこを経由してになるが流を図ることは出來る。さすがに言葉が全く通じない場所を通訳もつれずに歩いたりはしない。言語といえば、我が國の人間は言葉に関してやたらと誇り高く、外國語を話そうとしない傾向がある。移民に対する國民の付與という口実だが、実のところその理由の殆どは英國に対する意地なのではないかと俺は思っている。余所に行ってまで母國語で話そうとするのはさすがに現実を見ていなさすぎる。
『調子はどうだい』
今回の依頼人ヨシザワがパドックで聲をかけてきた。メインまでいくつかのレー
スで彼の所有する馬に乗る予定である。
『多、慣れない部分もありますが、それでも競馬は競馬ですからね。乗れば何とかなりそうです』
『強気だな』
『馬はどこでも馬ですからね』
『違いない。だがこのレースが済んだら本番前にコースの下見をしておくといい』
『はい。そうします』
賞金にもそれほど興味がない俺にとって今回の騎乗はあまり気乗りのするものではないが、仕事人である以上は勝たねばならない。
それにいつかセルクルとこの競馬場で走るかもしれない。そう思えばしは気持ちも前を向いた。
しかし、このレースはダートか。
ヨシザワは俺が殆どダートのレースを走った事がないのを知っているのだろうか?
何度かひどい目に遭いながら騎乗をこなした。日本のダートは砂浜のような砂に近い質の馬場で、おかげで口の中が激烈に埃っぽくなった。
あまり大した果を上げられなかったがメインの騎乗で巻き返したいところだ。
さて、馬場の下見をしたいのだが、どこをどう行けばいいのだろうか。
『馬場の下見かい?』
英語に振り向けば、し年を取った騎手だった。
『はい。どうやって行けばいいのか分からなくて困っていました』
『なら案するよ。俺、ヨコタ。ヨ・コ・タ』
『ありがとうミスターヨコタ。お願いします。私はクリストフです』
『知ってるよ。この間アベイを勝ってたよね』
『よくご存知ですね――……』
ヨコタさんの案で馬場に出た。
キョウトは3コーナーに特徴の有るオーバルトラックコースだ。ダートコースでもじたが、コーナーの多さは競馬の進行そのものをかなり変える。歐州的な道中の進行では直線で取り殘される事が多そうだ。
『ここが淀の坂。5m上って下る』
『なるほど』
ラチ沿いの足元を確かめながら歩く。坂というからシャンティイやロンシャンのようなを思い浮かべていたが、あそこまで急なものではないようだ。
上りよりも下りの方が厄介そうだ、というのが歩いてみた所だ。
セルクルと走るなら、坂の頂上の時點で前目に付けておきたいかもしれないな。勢いがついた直線では前も止まらないだろう。
『ヨコタさんはメインレースで乗るのですか?』
『いや? 乗らないよ? 乗るんだったらこんな案なんて真似してられないよ』
『あ、それもそうですね』
『納得しちゃうのかよ!』
お互い笑い合う。隨分と親切にしてくれる人だと思っていたが、彼とはが似た部分があるらしい。
ゴール板前を過ぎて裏に戻る。そろそろパドックへ向かう頃合だろう。
『勝ったら奢ってくれよ』
『よいお店を教えてくれたら考えます』
『任せておいて。若いのも引き連れてたかりに行くから』
『止してくださいよ』
『冗談さ。じゃあ、頑張れよ』
今日の相棒は、この時期の牝馬にしては大人しい仔だった。パドックでった時は特別なものをじなかったが、馬場に出て走らせてみると、よく弾むらかいをしていると分かった。
この馬はそこまで腳が切れる方ではないという話だが、このでキレないなんて噓だろう。馬が手を抜いているか今までやる気がなかったかのどちらかだ。
事前の報を見たところで走るのは今日この瞬間のこの馬だ。こっちはせっかく地球の裏側まで遠出して來ているんだ。せめて楽しい時間を提供してもらおうじゃないか。
レースが始まってすぐに分かった。この馬は馬群の中にいると落ち著いてしまって出ようとしないタイプだ。馬としちゃ正しい。だが競走馬としては落第だ。よって今日は頑張ってもらうとしよう。
向こう流しにった。ここから坂の上りまで長い直線だ。外に出すならここしかないだろう。
周囲を確認。前橫は手厚く、後ろに馬はいない。にれられてしまったが後ろ目につけたことが功を奏した、捌ける範囲だ。
手綱を扱くも反応が悪い。やはり落ち著く場所からきたくないようだ。
ということで腰を下ろして腹を蹴る。驚いた馬が一瞬失速し、そのおかげで馬群から遅れて飛び出る。発破が効いたようでその後の手綱は素直になった。
外から追い抜いていく。坂の上りで仕掛けるのはどこの競馬場でもあまりよろしくないが、上りきったら直線まではゆっくり出來る。ダメならダメでその時はその時だ。
オッズから見てもあまり注目されていない馬なのも助けになってすんなりと4番手まで上がる。ここで馬群にってしまうと意味がなくなる。番手を走る馬から離れたし外目を追走する。
坂の頂上、思ったとおり下りにかけてペースが緩んだ。
後ろの馬は回りきる直前か下りの途中で抜きに來るのだろう。そのようにしているのを何度も見た。そして直線は短く平坦だ。
つまり、この馬の勝負どころはそこじゃない。それまでは外から被されないよう進路の確保に注意する。
坂の下り、スタンドの歓聲が大波のように近づいてくる。
背後の馬蹄音が大きくなる。
外から抜かれる際、包まれるような格好になったのでヒヤっとしたが、ここまできたら走る気になっているらしく問題はなかった。
下りきった。直線だ。
進路を塞がれない程度にを挾む。先頭は馬群をで率いていた馬で、見たところそれほど余力は殘っていない。ずるずると下がるのに合わせ後続馬たちが先頭にり代わる。
差は3馬程。セルクルなら――まあもとより勝負にもならないだろうが、ここから抜き去って10馬は千切れるだろう。
抜いた馬同士の競り合い。だが下りから追い通しで馬の息の上がる、その瞬間。
さて、君はどうかな?
鞭を振った。
弾むように走った。
いいね。思っていた以上だ。
るように迫った先頭集団。そしてそのまま並びかけ、半分突き出たところがゴールだった。
耳の痛くなるような歓聲。凄いな、チャンピオンシップフェスティバルでもこうはならないぞ。
戻って手を振ると歓聲がまた一段と大きくなった。
『隨分と聲援が大きかったですが、この馬にはファンが多いのですか?』
検量室にて、笑みの深いヨシザワ氏に尋ねる。
『勝ちきれない馬だったんだ。それと、両親共に國産馬でね。母馬もこのレースを勝っていたから、統に重きを置くファンが喜んでいたのかもしれない』
『なるほど。それじゃあ私はいい働きをすることが出來たようですね』
『ああ。満足している。また頼むよ』
『セルクルの騎乗と重ならなければ、ですけどね』
『勿論、君の予定を尊重するさ』
『良いご縁をありがとうございました。それとこの馬、きっといい仔を出しますよ。がらかくてよく弾む。要所の手応えが素晴らしかった』
『白い丸(あの馬)に乗る君にそう言って貰えると嬉しいよ。たぶんウチの生産にはらないけど、牧場の人には伝えておくよ』
賞金も頂けたし、中々面白い出會いもあった。
それなりに楽しい遊びだったかな。
セルクルと走っている時程ではないけどね。
名前が登場しませんが、クリスがのっていたのはストームライダーの母馬という設定。
弾むは母親譲りだったのです
生産は竹山牧場。つまり吉沢氏は権利を譲っているのでマルッコ君だけでなくアラシ君も逃していたことに
最果ての世界で見る景色
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