《12ハロンの閑話道【書籍化】》夢見る風(3)
その連絡を小箕灘がけたのは、事が起こった翌日だった。
「まあ、うちのクニオがせ無かったってのが全てですよ。私も気軽に併せ馬やるなんて言ったのが悪いんです。そんなにお気になさらずに、えぇ。えぇ。はい。明日には栗東(そっち)に行きますんで。えぇ。はい。その時様子を見て今後の予定は。えぇ。はい。ではまた」
通話を切り、溜息を一つ。
須田から併せ馬を要請された時、そこはかとなく違和というか、背中と膝の裏がむずくなるような悪寒を覚えたのだ。気のせいだと振り切って、特に損の無い提案に了承をだしたが、果たして己が六も中々やるものではないかと自嘲気味に自讃する。
「なんか、有馬の選からこんなのばっかりだな……」
もしやまだ憑かれているのか。或いは勘が鋭くなったか。どちらにせよ覚にを任せられなかったのだから意味は無い。
一先ず直接狀態を確認してからだ。翌日の移に備え、小箕灘は早めの就寢をした。
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「ひん」
よう。ちょっとぶりじゃねーか。
そんな気安さで馬房から顔を出す栗の我が子のたてがみをでつつ、小箕灘は奧で唸った。
「うーんなるほど。これは暫く運減らしたほうがいいな」
これまでの経験から、小箕灘はマルッコの調が艶と周りで大推し量れると推察していた。
そこからすると、馬房の蛍燈に反する尾花栗は彩を欠き、どこか萎んで見える周りなどは狀態が悪いと判斷するに十分であった。しかし、小箕灘はそこまで悲観はしていなかった。
「どうよコミさん。マルッコくんは」
様子を見に來た須田に顔を向け、小箕灘は答える。
「疲れが出ているってくらいで、それほど悪くもないですよ。牧場に居た時はもっと萎んでいましたからね。し休ませて、かし始めたくらいで本番を迎えられそうです」
「それで間に合うの?」
「まあ、マルッコの事だしなんとかするんじゃないですか。なぁ、マルッコ?」
「?」
好のリンゴはないと見るや、秒で意識を飛ばしていたマルッコは訊ねられた気配に首を傾げた。
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本當にコイツはいつになっても変わらないな。小箕灘は苦笑しつつも、どこか暖かい気持ちを抱えた。
そこから頭を切り替え調教師の思考をする。
ドバイの本番までに殘り一月。輸送を考慮すれば実際に日本で調教のためだけに使える時間は実質三週間だ。回復に二週、調整で一週、あとは現地で、と考えた所で再び苦笑する。これではまるで出走後のレース間のようだと。
「マルッコ、ダイスケくんと走ったのは楽しかったか?」
「ひんっ」
ちゃんと勝ったぜ。
嘶きはどこか得意気だった。
「センセイ! 大変です!」
廄務員のクニオが駆け込んできたのはそんな時だった。
「どうしたクニオ。相変えて」
「それが、今連絡があって、クリスが!」
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電話機越しの聲は心配していたほど暗くは無かったが、己が不覚に不甲斐なさをじているようではあった。
「それじゃあ怪我自はそれほど重くはないんだな?」
『はい。ゴメイワクをおかけします』
「いいさ、馬に乗ってればそういうことはある。一先ず命が無事でよかったと喜ぼう」
『ありがとうございます。醫者は軽い骨折で全治三ヶ月だと言っていましタ』
「三ヶ月か……それじゃあそっちのクラシックの乗鞍は全部ご破算か」
『ハイ。代理人も顔を青くしたり赤くしたりしていました』
「はは、あの愉快な代理人の彼か。まあ、しっかり養生してくれよ」
『時間が出來てしまったので、ソチラに遊びにいくかもしれません』
「大歓迎だ。中川さんやマルッコも喜ぶ」
『それでは、これで』
「おう」
通話を切って、一先ずをで下ろす。
クリストフの代理人からの連絡は、クリストフの落馬負傷についてであった。
最終コーナーでから膨らんだ馬に煽られ、馬が大きく揺さぶられた。乗馬自は転倒しなかったものの馬上の騎手はそうもいかない。危うい均衡で保たれている騎手の姿勢は全方向からの衝撃に弱い。咄嗟の判斷で馬上に殘るよりも落ちた方がよいと衝撃に従ってを投げ出し、その結果下敷きになった左腕が折れた。
人馬共に幸いだったのは隊列の一番外を走っていたため後続が居なかった點。後続があれば落馬したクリストフを踏み、さらなる悲劇が量産されていただろう。
「クリス、どうでした?」
恐る恐る様子を伺っていたクニオが訊ねた。栗東でも羽賀でもシャンティイでも最もクリストフと長く付き合った彼は友人が心配なのだろう。
「左腕の骨折で全治三ヶ月。ドバイは乗れないそうだ」
「そうですか……」
「あとでお前も電話してやりな。悲観はしてなかったが、それなりにショックをけている様子ではあった」
「うっす。いやでも、ドバイの騎手はどうするんですか?」
「どうするもなにも、橫田さんにお願いするしかないだろう。予定が空いているといいんだが」
「時期が時期ですからねぇ。クラシックや大阪杯のほうに乗鞍があると、ドバイへの遠征は厳しいがありますからね」
「隨分詳しくなったじゃねえか」
「へへ、俺も勉強してるんですよ」
「橫田さんもマルッコに乗るようになってから他のお手馬は作らなくなったからな、本當にありがたい事だが、今回は急な話だからどうだかな……」
先に騎乗依頼があれば、義理堅い格の橫田は約束を反故にせずこちらの騎乗を斷るだろう。むしろ、そうでなければこの業界で現役を続けられない。
何れにせよ確認しないことには分からない。小箕灘は端末を取り出し、橫田の番號を叩くのだった。
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■■特集! ドバイミーティング■■
いよいよ今月末、3月31日に迫ったドバイワールドミーティング。20NN年は一どんな結末が待って居るのか。世界の名馬達が鎬を削りあう舞臺において、日本の強力古馬路線、そして新進気鋭の若駒達は通用するのか。はたまた日本馬不在の砂路線ではどのような伝説が誕生するのか、目が離せない。
まずは參戦する日本馬についてのおさらいからだ。
■アルクォズスプリント(芝1200m直線)
ダイランドウ(牡5)
■ドバイターフ(芝1800m)
ヴェルトーチカ(牝6)
サミダレミヅキ(牝4)
ラストラプソディー(牡5)
■ドバイシーマクラシック(芝2410m)
キャリオンナイト
サタンマルッコ
以上6頭だ。
やはり注目はアルクォズスプリントのダイランドウと、シーマクラシックのサタンマルッコだろう。
國短距離GⅠにおいて史上初の完全制覇をし遂げたダイランドウ。史上最強短距離馬の呼び聲も高い。しかしそれら評価は國のみに留まり海外にまでは屆いていない。何故ならば彼には國外での実績がなくその適正も未知數であるからだ。
國では疑いようが無い。では海外では。
今回のドバイ遠征はその試金石となるだろう。
『勝つんじゃないかな。それも至極あっさり』
須田調教師はインタビューに対してそのように答えた。同馬の実力に対する陣営の信頼が伺える。
とはいえ出走予定のメンバーも強力だ。
史上最大と稱された昨年度の凱旋門賞。そこへ出走し、昨年末にはジャパンカップにも出走した歐州マイルチャンプのリスリグ。さらにペースメーカーとして急遽ねじ込まれ、サタンマルッコと序盤に競り合った記憶が新しいケインスニア。今回は本職であるスプリントへの參戦だ。他にも歐州、アフリカなどからスプリンターが集い、例年以上のハイレベルなメンツとなっている。
これだけのメンバー、とりわけ実績で飛びぬけているリスリグなどに勝ったとすれば、海外不安説などは払拭されるだろう。
続いてサタンマルッコ。
最早世界の、と冠をつけてなんら恥ずべきところの無い実績を備えた同馬。本誌の取材にも快く応え、くるしい姿を見せてくれた。
寫真:本誌からのプレゼント(大好だというりんご)を食べるサタンマルッコ 今回は得意のクラシックディスタンス。國外からも有力視する聲は多く、挑戦する立場というよりはけて立つ王者どしての立場だろう。昨年度歐州クラシック戦線を戦った若駒達が栗の魔王に戦いを挑む構図となりそうだ。
しかし戦う相手が國戦や凱旋門賞時のような強力メンツでもないのも事実。ここは固いと見るか、それとも定期的に『何か』やらかす同馬、思わぬ事態で結果に紛れがあると見るか。今後の向に注目が必要だろう。
ドバイターフには牝馬三冠を制したサミダレミヅキ、エリザベス王杯を二度制しているヴェルトーチカ、そして実力馬と目されながらも國では惜しいレースの続くラストラプソディー。他國のGⅠ馬達にこれらの日本馬がどう戦うのか、また違った環境においてどのような実力を発揮するのか、注目していきたい。
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ドバイよりも大阪杯が楽しみでしかたない今日この頃。GⅠ馬8頭っすよなんなら寶塚よりGⅠ馬多いのではないか……?
キセキくんがんばえー^q^
キタサンの大阪杯から2年、メンツが豪華になって春の祭典ってじあって大阪杯G1化は大功ですね
個人的には大阪杯が阪神外回りコースになってくれりゃいう事無かったんですが、まあそんなスタート位置ないですからね(´・ω・`)
1800のスタート地點の奧にもうちょっと直線ばしてくれたら理想的なコースなんですがね!
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『HJ小説大賞2021前期』入賞作。 舊題:39歳のおっさんがTS逆行して人生をやり直す話 病に倒れて既に5年以上寢たきりで過ごしている松田圭史、彼は病床でこれまでの人生を後悔と共に振り返っていた。 自分がこうなったのは家族のせいだ、そして女性に生まれていたらもっと楽しい人生が待っていたはずなのに。 そう考えた瞬間、どこからともなく聲が聞こえて松田の意識は闇に飲まれる。 次に目が覚めた瞬間、彼は昔住んでいた懐かしいアパートの一室にいた。その姿を女児の赤ん坊に変えて。 タイトルの先頭に☆が付いている回には、読者の方から頂いた挿絵が掲載されています。不要な方は設定から表示しない様にしてください。 ※殘酷な描寫ありとR15は保険です。 ※月に1回程度の更新を目指します。 ※カクヨムでも連載しています。
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