《12ハロンの閑話道【書籍化】》彼の夏、彼の夏(1)
パカパカランドファーム。
広島よりの瀬戸海にその島は浮かんでいる。
約10萬平方メートル(東京ドーム二個強)と無人島としてはそれなりに大きなそれは、IT世代の波に乗り、一代で財を築き上り詰めた男、城島達郎(じょうじまたつろう)が願った夢の島だ。
今日日、個人所有の無人島は獲得が難しくなっている。當たり前だ。土地に限りがあるように、島にも限りがあるのだから。そんな中、このパカパカランドと名付けられた島は、誰のにもならずほぼ一世紀を過ごした珍しい島だ。
理由は勿論ある。微妙な所で手間がかかる點だ。
距離としては広島県よりボートでアクセスが可能な距離にある。そりゃそうだ瀬戸に浮かぶ島なのだから。ただ、面倒な點としてはボートが停泊できる場所がない・なかったという所だ。
島の北側は遠淺でカヌーや川舟のような喫水の淺い船でなければ近づけず、東南西は切り立った崖になっておりそもそも上陸不能。そのことがタダでさえない無人島購者の意を削いでいた。無人島購という行為そのものが余分とはいえ、余計な手間は省きたいものだから。
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城島は島を買った。そして巨額の費用を投じて海底から工事して中型船舶が停泊可能な埠頭を作り、島の森を整理し、平地を作り、廄舎を作り、宿泊施設を作り、そうしてようやく生産者兼馬主となった。
彼の夢は牧場主になって、競走馬を育てることだった。あと二十年続くかどうか分からない人生、意識がはっきりとしているのはもっと短いかもしれない。とにかく間に合ってくれてよかった。夢が葉った達よりも安堵の方が強かった。
箱を作っただけでは競走馬は育たない。様々な問題や挑戦を繰り返しつつ七年。ようやく軌道に乗った、そんな時だった。
「おじーちゃーん! きたよお!」
「おおヒナ! 久しぶりだなあ」
息子夫婦が夏季休暇に合わせて來島した。城島は多忙な息子夫婦をそれぞれに呼びつけて事ある毎に完した自慢の島を見せびらかしていたが(勿論息子はうんざりした顔を隠さない)三年前に孫娘が生まれてからは控えていた。
それ以來の來訪であるし、何より孫が遊びに來てくれた事が嬉しくてたまらない城島はそれは張り切った。島の馬全てを家族の前にかき集めた。
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「ヒナ見てみろ、おじいちゃんのお馬さんたちだぞ!」
「きゃはー! おっきー! いっぱいー!」
「どうだヒナ、おじいちゃんと乗ってみるか?」
「のるー!」
「おいおい父さん。危ないから止めてくれよ」
「よしじゃあるだけだ、な、ヒナもってみたいよな?」
「さわるー! なでなでしたいー!」
息子の態度が頑なと見るやすぐさま方針転換、この辺りの舵取りはまだまだ錆付いていないと自賛しつつ、一際気の穏やかな一頭を選んで孫の前に引き連れた。一歳らしいあどけない馬は、見慣れぬ小さな人間の姿に耳をピクピクとかしながら鼻をならした。
「あはー! お馬さんだ! パッカパッカ!」
「ヒナ、お馬さんは怖がりさんなんだ。だから近くで大きな聲を出しちゃいけないよ」
「うん! あっ! (うん! わかった!)」
元気良く返事をしようとして途中気付き、口に手を添えて言い直す孫の姿に城島はデレデレと目を下げた。息子の時と違ってなんて素直ないい子なんだろうか。
そして恐る恐る手をばし、肩の辺りにれた。
「わあ、モフモフしてるー」
モフモフ? まあ肩の辺りならある程度らかいかもしれない。子供の素直な想を否定するのはよくないと思い城島はまででかかった言葉を笑顔で飲み込んだ。
られている馬も不快ではないらしく、れている孫を興味深そうに見つめている。
「ねえおじいちゃん。このこおなまえはなんていうの?」
「名前? 名前はねえ、まだないよ」
「そうなの? かわいそう」
「なあ父さん。ヒナに名前をつけさせてみたらどうだ?」
「おお、いい考えだな。ヒナ、何かお名前考えてみようか」
「うん! えーとね、んーあ、決めた!」
そしてヒナは名前を告げた。
「パカパカ! モフモフ!」
「ぼふ」
「きゃはーへんじしたー!」
どこか嫌そうにをならした馬の態度を誤解した孫娘は首筋へ抱きつき思うがままにで回した。
ま、まぁパカパカなら冠名っぽいしいいか。と自分を誤魔化しつつ、城嶋は馬を急にで回してはいけないよと注意するに留めるのだった。
パカパカモフモフと名付けられた馬は、泰然とその抱擁をけ止めていた。
(首が強いのか?)
よろけもせず子供の重をけ止めた事を、その時はそう思った。
パカパカランドファームは天然をテーマにした牧場施設だ。
島の平野部とも呼ぶべき場所は北側の廄舎だけ。トラックは島の海岸沿いにあり、一週はだいたい1600m。南側の崖にかけて坂を上り、北側へ向かって緩やかに傾斜している。あとは自然の丘陵に沿ったと言えば聞こえのいい獣道があるだけだ。島全が放牧地と呼ぶべきかも知れない。
島の中は狹いながらも傾斜があり、立ち並ぶ木々は林業の専門家に整理させたとは言え人が歩くようには出來ていないが、全く立ちれない程でもない。
そんな島の中で、彼は王だった。
ある時城島は、同い年の馬達どころか島の馬全てを率いるように先頭で走る馬がいつも同じであることに気付いた。いつか孫娘が名付けたパカパカモフモフだった。
(いったいいつの間に……)
思い返せばあの馬は日中の殆どを島の山の中で過ごしているらしく、廄舎のある牧草地へは食事の時にしか帰ってこない。山の傾斜の中で育った馬はしなやかで、力強さよりらかさが印象付いた。
と思っていたのもつかの間、いよいよ本格的な訓練の始まる二歳となると馬が急速に長。雄大な馬格を持つ馬となった。これは將來500kgを越える大型の馬になるかもしれない、その時はその程度の認識だったのだが、
(う、うーん514kg……牝馬にしちゃしデカ過ぎるような)
6月のデビュー戦。重を確認し城島は唸った。
訓練された、と前置きがあるものの、基本的に競走馬の重(=大きさ)は走力に比例する。が大きければ歩幅も大きい。歩幅が大きければその分進む。その分進めば速く走る。と至極単純な理由だ。勿論それだけが競馬の全てではない。
しかし大きなはその分足元への負擔となり、翻って怪我のしやすい、強い調教に危険が伴う仕上がりの難しい要素となる。近年レースで活躍する競走馬全の重、馬格が上がったのはこの仕上げを行う調教や施設の技に進歩があったためだ。
一般的に牡馬ならば470~480kg、牝馬ならば460~470kgが平均的な重だが、昨今では牡馬、牝馬ともに500kgの大型馬も多い。
そんな中で牝馬のパカパカモフモフの514kg。勿論これ以上に大きい馬もたくさんいるだろうが、數字として明らかに大きい。
育ててきた中では重ほど大型な印象はけていなかっただけに、これには城島も首を傾げた。早生まれだったから馬の完が早かったのだろうか。
しかし実際のレースを、彼の全力走行を見て理解した。
が詰まっているのだ。
質が違うのだ。筋の、馬としての。
(これは、ひょっとして凄い事になるかもしれない)
確信に近い予。それは慎重に仕上げた翌年、予以上の現実となる。
明日も小品を同じ時間に投稿予定です。
馬重の話はいつかどこかで書きたかった
大型馬(500kg前後)の仕上げは本當に慎重にやってるという話をきいたため
故にサタンマルッコは馬重470kg設定(この辺はオルフェ基準。尚ゴールドシップはでかいもよう)
パカパカランドファーム
名前のモデルはパカパカファーム。噓みたいな名前だが実在するし何ならGⅠ馬も輩出している。
モデル元の実態とはかけ離れた容なのでそこはあしからず。(この話はフィクションです)
最近は人を背中に乗せずに走らせる調教設備なんてものもあり、案外マルッコ君がやってた一人で砂浜を走るのが競走馬にとって負擔無く正解だったりするんじゃないだろうかと思い始めて生まれた牧場。言い方がアレだが基本放し飼いという無茶苦茶な牧場。
育牧場で働いていた人に聞いて「ああ確かに」と思ったエピソードの一つに、馬に乗るのは張するというものがあった。いや普段から乗ってるんだから別に気にならないんじゃないのと思って理由をきくと「壊れるかもしれない1億越えの高級車にのってスピード出せる?」だった。うん。たしかに。
なるほどつまり馬を放し飼いにできる城島氏はよほど豪膽な格ということにしておこう
無人島
かくときに無人島について調べたんですが、當たり前ですが意外とないんですね( ゜ω゜)
作中に出てくる島は広島県にある來島という無人島がモデルです。3億5千萬円。皆さん3連単百萬馬券に1萬円ぶちあててどうですか^^;GⅠでもだいたい年一回はありますよw
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