《12ハロンの閑話道【書籍化】》彼の夏、彼の夏(3)

同日にもう一話更新しています。

「えっ、見學がない?」

安達満(あだち みつる)は電話越しで告げられた言葉に頭を漂白された。

ないって何。怪我? え、なに? どういうこと?

ウェブの一部界隈ではコテハン寫真の人で名の知れた彼は、今年の夏も大型連休を作って応援しているサタンマルッコに會いに行こうと考えていた。

現役競走馬として誠に珍しい(というか異例)事に、サタンマルッコは牧場へ行けば會いにいける競走馬だった。何なら乗れる。

夏や冬、長期休養にったサタンマルッコは常ならば牧場見學と稱してファンサービスのようなものを催していた。それらがミーハーな層にけ、彼の単勝馬券はいつも売れ行きが良いのだがそれは今は関係が無く。

『ええ。今年はこっちじゃなくてフランスへ行くんですわ』

「へえ、フランスに。今年も凱旋門賞ですか?」

どうやら怪我とか調不良とかではなく単純に不在を知らせただけだったようだ。

『いんや、そういうんじゃなくてただの放牧ですわ。妻がいつの間にか懇意にした向うの牧場がありましてね。そっちへダイランドウの連れ添いでってじですわ。おかげでこっち、グッズの売り上げが不安でねぇ。羽賀競馬場でもイベントやらないんで、そっちに影響がでそうなんですわ』

なにやら始まった愚癡のようなものに相槌をうちながら、安達は必要な報を拾い集める。

「なるほどなぁ。ところでその提攜している牧場? っていうのは見學とかそういうのは……やっぱり出來ないですよね」

『うーんどうだろうねぇ。俺が言うのもおかしな話だが、あっちは真っ當に育やってるからね。部外者の立ちりは難しいんじゃないかと思いますわ』

「ああ……やっぱり。そうですよねぇ」

楽しみにしていただけに落膽は大きい。

『まあ、そういうことで……ん? なんだケイコ…………安達さんだよ。ほらホームページの寫真の。うん……うん……はあ? なんでお前がそんなこと……ふーん、別に俺ァどっちだっていいんだけどよ……。

ああすみませんね。安達さん。見學の件だけどね、何とかなるかもしれないよ』

「えっ!!!!!! 本當ですか!!!!!!」

『ケイコが……妻が先方へ話を通してくれるって言ってますわ。ほんといつの間にそんな仲になってたんだか』

「ありがとうございます! それじゃあすぐに予定を調整して、決まり次第お伝えします!」

『お、おう……まぁまた今度羽賀の競馬場にも來て下さいよ。アンタの寫真を見ながらまた一緒に一杯やりましょう』

「はい、是非! それでは失禮します…………ッシャオラアアアアアァァ!」

通話を切って雄たけびを上げた。

行ってやろうじゃないか、二度目のフランス。そのためにも超速で仕事の予定を調整しなくては。

趣味が出來て、積極的な行をするようになって。安達は事を能的に進められるようになった。大半がマルッコにまつわるサムシングなのだが、そうした行力が仕事の出來栄えにも反映されているらしく、今の彼は周囲から見てかなり「デキる」奴になっていた。

今度もきっとやり遂げるだろう。彼の一番はサタンマルッコなのだから。

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