《12ハロンの閑話道【書籍化】》私のダービー馬

今更の報告になるんですが、書籍化のお話いただいておりまして、書籍化へ向けて進行中です。

競馬の話なんでなにがどうなるかはさっぱり分かりませんが(そもそもちゃんと出るのか?)

執筆當初の借金かえしたろ、という機から始めた本作はゴールにたどり著けそうです。

ひとえに皆様の応援ご顧によるものだと思います。

詳細は追って報告いたします。

きまぐれな更新ですが、今後ともよろしくお願いいたします。

競馬は不思議な競技だ。

馬と人、それら二つを一騎と數えて競い合わせる。

馬だけではダメ。人だけでもダメ。二つ揃って初めて競馬だ。

確かに、人がる。

しかしるモノもまた生き

これが面白く、だからこそ難解で、それでこそ挑み甲斐がある。

何やかんやと60年近く競馬を見てきた。まだ飽きない。

仕事にしたって60年もやったらしは飽きそうなだが、懲りない分であると言うべきか、ここまで続けてやって來てしまった訳だ。

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私にとって馬を見ることは、社會を見ることと同じようにじられた。

世の中を見る事に飽きがないのと同じだろうか。人によっては飽きるだろうか。それも人それぞれで面白い。

それだけ続けていれば馬を見る目もえてくる。

生産の人間は速く走りそうな長を遂げそうな馬を見て評価する。

我々は出來上がった作品を走るかどうかで判斷する。

私こと竹中にとってサタンマルッコとは正しくダービー馬であった。

これまで何頭も「この馬こそは」と思い込んだ馬はいた。けれどもどんな不思議か、私が名前を挙げたときに限って彼らは惜しいレースをして破れてしまう。

その後の活躍からすればダービーを勝たなかったのが不思議な馬だって何頭も居た。

もしかすると私の本命はダービーを勝てないのかもしれない。そんな気弱に流れていた心を吹き飛ばしてくれたのがサタンマルッコである。故に私は常日頃この馬の向に目をらせていた。

一つ、解説者として私は拘りを持って勤めている。

それはトラックマンが如く、馬産関係者の敷地に乗り込んで報を収集するような真似をしないというものだ。

そりゃあテレビ番組の取材や撮影に同行してトレセンや牧場を訪れることはあるし、立場上耳に報は多くのファンより遙かに多いものとなっている。

ただ私自はフラットに、そうした報を基にした推論を立てず、誰でも見ることが出來る報だけで予想や解説を行うことを心がけているのである。

その拘りを捨てる時は解説者として引退する時だと考えていた。

いつか來るだろうと思っていたその時は、思いがけず早く訪れた。

それはサタンマルッコが慘敗した天皇賞秋を過ぎてすぐの頃だ。

「サタンマルッコが坂路を走った?」

栗東擔當の新聞記者がなんでもないように語ったその容に私は雷鳴に撃たれたかのような衝撃をけた。

サタンマルッコの坂路嫌いは有名である。追い切りの映像で坂路が出てこないことや中間の調教報、何より廄舎側のインタビューで度々語られた容だ。

そして、私が競馬場やパドックで見続けてきたサタンマルッコという馬のは「唯我獨尊」である。やりたくないことは絶対にやらない。認めていないものには絶対気を許さない。そのサタンマルッコが坂路を走ったというのだ。

気になる。見たい。何かが起きている。確信がある。

そしてもう一つ、心を波立たせる予がある。

――勝負の予だ。

私は拘りを捨てた。同時に予てからの宣言通り、解説者としての仕事を離れた。これには契約上行わねばならないがいくつかあったのでそれらについてはこなしつつも、激化する秋のGⅠ戦線から完全に距離を置いた格好だ。

解説者だなんだと煽てられているが、私のっこは馬券野郎だ。勝負があればしたくなる。そういう安定とは程遠いの屑だ。

だからこそこれを最後の勝負にしようと思った。

家族に迷をかけないだけの金を殘して、他はすべて現金として手元に集めた。

ジュラルミンケース一杯の札束を持って一勝負する……まるでバブルのころのようで、自然と笑みが浮かんだ。

すっかり早起きが苦ではなくなったこのの寂しさをじながら朝靄の栗東トレセンでサタンマルッコの登場まで張り込む。

すると妙なを見た。勝負服を著た橫田騎手だ。

何をしているのかと思いかけたがすぐにピンときた。やがて現れたサタンマルッコと合流すると、矢のように坂路を駆けていった。

「いつもああなんですか?」

坂路観測所で時計を取っていたアルバイトに訊ねると、胡な眼差しでそうだけど、と返事があった。

こうまで報が揃えば誰だって分かる。

サタンマルッコの陣営は勝つつもりなのだ。

誰もがそうである以上に、この世の何を差し置いても。

それからは靜かな毎日だった。

世の流れを一顧だにせず、ただ上がってくる一頭の馬の報を観察し続ける。

こんなことは初めてかもしれない。

自然と決めていた。

勝負は一點。私のダービー馬が引退を表明している有馬記念。その単勝だ。

効率は悪い。勝率も未知數。だが賭けたい。

そしてその日はやってきた。

なんとしてもその姿を見るため、朝一からパドックの最前列を確保し微だにしない。

ひたすら待つ。待つ。待つ――。

カツ、コツ――

そばだてた耳に蹄の音が屆く。

ゆっくりと瞼を上げれば、暗がりに連なる優駿の列。

6番目に彼の馬は現れる。

満ち満ちて輝く黃金。

足が地面にい付けられるかのような覇気。

寒気のするような、マイナス4キロが噓のような馬の充実。

立ち上る呼気すらしく薄っすらと眩くり、軌跡を描くように尾が流れる。

勝った。

言葉は無粋である。私は信頼を単勝で表した。

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