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ノエリアに魔力合わせを勝手にされてから一週間が経った。

ユグハノーツを治める辺境伯の令嬢を気絶させたことで、ひと悶著起きるかと思ったが、気絶から目覚めたノエリアは何も言わずキッと俺を睨みつけると、その場から立ち去っていったのだ。

以來、レベッカに紹介してもらった宿で生活しながらユグハノーツで冒険者生活を問題なく行えていた―――

問題なく行えていると思いたい。

思いたいんだが……。

今日の仕事をけるため、窓口で依頼表を眺めつつ、昨日の報酬の算を待っていると、俺の背後から熱を帯びた視線が突き刺さってるのがじられた。

殺気というにはとげとげしさはなく、かといって視線に優しさをじるわけでもない。

ヒリヒリと背中が焼けそうな熱視線としか言い表せなかった。

「はい、昨日の依頼達料の四〇〇〇オンスです。新米の冒険者の割にフリック様はやけに手堅く稼げる依頼を知っていらっしゃるようですね」

昨日達しておいた依頼の報酬を俺の前に置いたのは、ノエリアの件で俺専屬の窓口係に任命されてしまったレベッカだった。

新たな名に変えたとはいえ、元々冒険者をしていたから一人でも倒しやすい魔や儲けられる依頼などは知している。

それに辺境の魔は強いと聞いていたが、鉄等級でけられる討伐依頼程度ではたいして強い魔はいなかった。

「そうかな？　自分にできそうなのを適當に選んでるだけだが」

「それにしては手堅いのが……」

レベッカは俺がけた依頼の一覧を見て首を傾げていた。

このまま予定通りに依頼をこなしていけば、來月には青銅等級の実績條件は達されるはずなので昇級の話も聞けるはずだ。

等級が上がればけられる依頼難度も上がり報酬も増える。

なので王都よりも価の安い辺境での生活はより安定したものとなるはずだった。

問題はそっちよりも……今、俺の背中に熱視線を送ってる人の扱いに関してだ。

『それよりも、アレをどうにかしてもらえないだろうか……四六時中監視されてて困ってるんだ。昨日なんて宿までってきて隣の部屋に泊まったぞ』

俺が達した依頼の一覧表を見て首を傾げているレベッカに、視線の主をどうにかしてくれるように聲を潛めて頼んでみた。

『あー、無理ですねー。ノエリアお嬢様は一度も魔力合わせで負けたことがなかった人ですし。それに魔法に関しては誰よりも上手に扱えると言い切った方ですから。きっと、自分以上の魔力を持つフリック様のことが気になってしょうがないんじゃないですかね。実害はないですし、辺境伯様からギルドマスターに『娘の行には構わないでくれ』と通達が出てますので対処はいたしかねますよ』

『だけど、こうも四六時中見られてたら気になってしょうがない』

俺へ熱視線を送るノエリアの方へチラリと顔を向けると、スッと柱のに隠れてしまう。

そして、また俺の背中に熱視線が突き刺さるのであった。

魔力合わせの翌日からノエリアの俺に対する監視が始まっていた。

最初は冒険者ギルドの待合室や付でジッと見つめられ続けるだけだった。

それが、移中や魔討伐中などだんだんと監視される時間が増え、昨日は宿屋までついてきていたのだ。

魔力合わせの件で何か俺に言いたいのかとも思ったが、喋りかけようとすると逃げ出すし、今では視線を向けるだけで隠れてしまう。

俺にだけ、わがままな暴君だったアルフィーネとの生活で人一倍、視線や気配に敏になってしまっていた。

そんな俺としては、四六時中監視されている気配がするのが気になってしょうがないのだ。

『そこをなんとか頼めないか？　俺が話しかけようとすると逃げ出すし、同じのレベッカならやめてくれるように説得できるだろ？』

『無理ですー。フリック様がノエリア様の魔力量を上回ってる限り、飽きるまで監視されると思いますよ』

レベッカがニッコリと笑ってノエリアの説得を斷ってきた。

困ったことがあったら相談してくださいって言ったから相談したのに……。

このままじゃ、アルフィーネと生活してた時と変わらないような張の中で生活をしないといけないんだが。

再びノエリアの方へ顔を向けたが、やはり柱のに隠れて視線すら合わせようとしない。

「ふー、しょうがないな……。機會を見てやめてしいと伝えるとするか」

俺はため息を吐くと、ノエリアの説得を一時諦めることにした。

「その方がいいと思いますよ。さすがのノエリアお嬢様も何カ月も続けられるとは思いませんし。で、本日の依頼は決まりましたか？」

打つ手のないノエリアの対策は後回しにして、今日の食い扶持と実績を稼ぐべくレベッカが持ってきた依頼票から魔討伐をいくつか見繕って手渡した。

「決まったよ。今日の依頼はコレとコレとコレで頼むね」

「承知しました。こちらが諾証です。でも、やっぱり今日も手堅いし、冒険者ギルドの昇級査定が高い依頼を選ばれますね。もしかして、経験者です？」

レベッカの視線が俺を値踏みするものに変化していた。

王都の冒険者ギルドで白金等級だったとは言えない。

そんなことを言えば俺がフィーンであるとバレしかねないし、居場所を知ったアルフィーネが飛んでくる可能も捨てきれないのだ。

俺が辺境で平穏な冒険者生活を送るには、一介の新米冒険者フリックを演じるしかないのである。

「そんなわけないだろ。じゃあ、行ってくる」

「あ！　もう行かれるんですか？　フリック様ご安全に！」

レベッカの追及をける前に、俺は窓口を退散して討伐対象の魔がいるユグハノーツ郊外の森へ向かうことにした。

週間総合表紙りありがとうございます。