《剣聖の馴染がパワハラで俺につらく當たるので、絶縁して辺境で魔剣士として出直すことにした。(WEB版)【書籍化&コミカライズ化】【本編・外伝完結済】》sideノエリア:令嬢魔師の憂鬱
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※ノエリア視點
偉大な魔師で顔も見たことがないまま死んだ母フロリーナが、最後の夜を過ごしたとされる宿営地跡に著いた。
大人が三人立ってようやく乗り越えられる深さと幅のあるや石で作られた壁は急造で作ったとは思えないほど立派な出來であった。
突部隊に參加していたマイスから聞いた話では、目の前の幅が広く深いや石の壁を母は魔法で作り出したらしい。
これが大魔師フロリーナの産と言われているのは納得できた。
『大襲來』は魔師たちが師弟制度の枠組みの中、口伝と見聞で繋いできた魔法の文化を完全に崩壊させていた。
この師弟制度は王國が魔師たちに魔法を自分勝手に悪用させないための制度であった。
師匠は弟子と見込んだ者に自らの魔法を教えるのだけれども、それとともに弟子が行なったことへの全面的な責任が発生することになる。
弟子が魔法で不祥事を起こせば師匠に責任が問われる、逆もまた同じように責任が問われる制度になっている。
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そのような環境でずっとこの國の魔法は伝えられてきていたのだ。
一部、王國が研究を認めた魔師のみ魔法の指南書と言われる書を書き殘せたが、それ以外の魔師は弟子に伝えるしかなかった。
それでも師弟制度は機能して魔法の文化を繋いできたが、『大襲來』で戦える人材である魔師たちは員され、そして多くはわたくしの母と同じく未帰還だった。
おかげで研究もされず細々と繋いできた大半の魔法は使える者が失われ、『大襲來後世代』と呼ばれるわたくしたちが扱える魔法は、王國が研究して指南書に殘していた基礎的な魔法だけになっていた。
い時から母の魔法のすごさを聞かされて育ったわたくしは、自らの魔力量が多いことを知ると魔法への興味が膨らみ、『大襲來』を生き殘ったベテラン魔師に弟子りして廃れかけている魔法を収集していた。
そして、その果を王國の研究者に報告書で伝えると共に実地で披をしていた。
その功績により、去年の春に王國から『王國魔法研究員』として認められ指南書を殘す許諾も得ることができていた。
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王國の魔法文化は二〇年経った今も危機的な狀況にある。
大量に魔法を使える人材を失ったあとも、王國は師弟制度を改めず、その枠組みを維持したままで指南書の普及と指導者の各都市へ派遣だけを行なっていた。
わたくしも王都からユグハノーツに派遣されてきた、叡智の賢者の二つ名を持つライナス様を師匠として魔法を學んできていた。
さっきのフリック様の発見されたことも、以前の魔師たちには普通に使われていたのかも知れないし、一緒に活していた冒険者たちも知っていたかもしれない。
けれど、軽量化の魔法は廃れかけており、使える魔師はほんの一握りしかいない。
そのため、今日まで先ほどのような使い方が後の世代に繋がらず埋もれてしまっている魔法はいくつもあった。
「ノエリア、ぼんやりしてると足を踏み外すぞ」
魔法文化の今後について考えごとをしながら歩いていたら、フリック様から聲をかけられた。
知らぬ間にの端にまで寄って歩いていたようだ。
「すみません、考えごとをしていました」
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素材採取と、夕食用に持ってきたドラゴネットを宿営地に置いた後、野営の準備ができるまで二人で周囲の警戒をしていたことを思い出していた。
フリック様と二人で警戒にあたると言ったら、父上が何か騒いでいたけれど沈黙(サイレンス)で口を封じておいた。
魔法の研鑽のため魔師に弟子りする時も、相手が男だとうるさく注文をつけてくるので、自然とあのようにして黙らせることが多くなっていた。
自分としても魔法で口を封じるのは本意ではないが、母と同じように魔法を極めたいと言ったわたくしに『自由にやっていい』と言ったのは父上なので、口に出したことの責任はきちんと取ってほしい。
廃れかけている王國の魔法文化を復興することこそ、わたくしの使命だと思い奔走しているだけなのに。
父上は、生まれてすぐに母親を亡くしたわたくしに対し、贖罪をするつもりで理解してくれているフリをしているだけなのかもしれなかった。
たしかに魔法を研鑽し、集積していくうちに何度も母のフロリーナが居たらと思うことはあった。
弟子りしたベテランの魔師たちは、母を魔法の申し子と言って敬していたし、その偉業をいくつも語ってくれた。
おかげでわたくしの中の母は偉大なる魔師になっていたのだ。
そんな母を『大襲來』で死なせた父上をどこか許せない気持ちが、常に付きまとっているのは偽らざる本心でもあった。
「あー、その。他人なうえに両親が居ない俺が言うべきことじゃないと思うんだが……多は父親の言うことに耳を傾けたほうがいいと思うぞ」
「フリック様はお優しいのですね……。ですが、今まであのようにやってきたので問題ありません」
「そういうものなのか?」
「ええ、わたくしたち父娘はそういう関係ですからご心配なく」
本當なら辺境伯家の令嬢として、禮儀作法や宮廷儀禮など々と余計なことをしなければならないはずである。
けれど、異のことに関してはうるさく口を出すけれど、それ以外のことに関しては全く干渉してこない。
だから母親の件で思うことはあるものの、父上には謝をしている。
「そうか……余計な口をはさんですまなかったな。俺の言葉は忘れてくれ」
「いいえ、ご忠告いただき謝しております。家の者もわたくしたちの関係にやきもきしている者もいましたので……」
異のことに対して口を出した父上に対して、長年わたくしの続けてきた対応に苦言を呈してくる者は家中にはすでにいなかった。
あの対応が、我が家では當たり前のことになっている。
騎士隊長マイスを始め、父上の家臣たちも家庭の事には口をはさめない雰囲気になっていたのだ。
「ああ、マイスさんや護衛の騎士たちも気にしてたみたいだしな。俺もちょっと気になったんで口を挾んでみたが問題ないなら聞き流してくれ」
最近、特に父上からの小言が増えたのは、フリック様と一緒に行するようになったからだと思われる。
たしかに魔法の練習や講義で、時間をともにすることは多くなった。
フリック様が魅力的な男であることは認めるけれど、最初の出會いの時にわたくしがした仕打ちが最悪だったのは忘れていない。
だから父上が懸念されるようなことが起きる可能は……多分、ないはず。
「お気にかけていただきありがとうございます」
「いや、こっちこそ家庭の事に口を出してすまなかった。よっし、敵影なし。いちおう、あとこの宿営地全に聖域(サンクチュアリ)を張っておけば奇襲くらいは防げるよな?」
わたくしがぼんやりと考えごとをしている間に、彼は周囲の偵察を終えていた。
そんな彼が宿営地を魔の奇襲から守るための広域防護壁魔法である聖域(サンクチュアリ)を、かなりの広さのある宿営地全に張ればいいかと尋ねてきた。
「それでは広すぎて魔力の消費が……」
基本的に魔力消費の多い聖域(サンクチュアリ)は、テントの周囲に張っただけで普通の魔師は魔力が盡きてしまう。
わたくしでも、フリック様の提案した範囲だと魔力が盡きそうな気がしてならない。
けれど、フリック様ならその広さでも魔力は盡きなさそうに思えた。
「でも、フリック様なら案外できそうな気も。それに広い方が突破されてからの迎撃の時間が稼げますからね。それに今日はもうこれ以上、調査はしないので魔力も回復できるでしょうし。やってみますか」
「承知した。ノエリアに教えてもらった時に一回使っただけの魔法だから、なるべく忘れないように使ってみたかったんだよな」
フリック様は攻撃魔法の威力調整法をに付けると、驚くべき早さで魔法を習得していた。
半月ほどでわたくしがベテラン魔師から教えられた大半の攻撃魔法は教え終わり、今は支援魔法を教えているところだった。
彼の魔法効果に対する理解力は驚異的である。
一度見せて説明をすれば、発するのだ。
そんなことは普通の指導をけてきた魔師ではありえない。
なぜなら、『なんでそうなるのか?』という疑問が湧き、正しい効果を想像して固定化できないことが多いからだ。
でも彼は説明したとおりの効果を想像し固定化している。
あまりに早く習得できるので、彼になぜそんなに早く固定化ができるのかと聞いたら『だって、そういう効果だろ』という素直な回答がされた。
魔法に疎い彼の中には魔法効果に対する『なんで?』の疑問がないらしい。
魔法はそういうものだと思っているので、わたくしが言った通りの効果を想像し固定化して発させていた。
それだけで魔法を確実に発できるのは、天才だと認めるしかなかった。
魔法は想像力と言われるが、彼を見ていると魔法は自分が思い描いた効果を創り出す、創造力なのかもしれないと思ってしまった。
「安息もたらす靜謐なる空間をこの地に築かん。聖域(サンクチュアリ)」
彼が魔法を発させると、宿営地全が薄いに包まれた。
これで魔たちが奇襲してきても、突破するまでにある程度の時間が稼げるようになる。
「魔力の方は大丈夫ですか?」
「ああ、的にはまだ全然余裕なんだが……」
やはり彼の魔力は、わたくしなんか足元にも及ばないほどの量を有していた。
父上が認めるほどの剣の腕までありながら、魔法の習得の早さは天才的で、さらに魔力もとんでもない量をもっているという人材だった。
やっぱり彼はすごい……。
彼となら一緒に……は自分の愚かさで失った道だ。
彼への敬慕が募るほど、自分が行った愚かな行為に打ちのめされそうだった。
「ノエリア、どうかしたか? そろそろ、テントに戻るぞ。今日は調子悪いのか?」
また、ぼーっとしていたわたくしにフリック様が聲をかけてきた。
「すみません、ぼーっとしてました」
「初めての母親の墓參りで張しているとか?」
フリック様が心配そうな顔をしてこちらを見ていた。
「いいえ、そういうことではないです。さぁ、テントへ戻りましょう」
こちらの不安を悟られないように表を引き締めると、彼とともにテントへ戻ることにした。
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