《剣聖の馴染がパワハラで俺につらく當たるので、絶縁して辺境で魔剣士として出直すことにした。(WEB版)【書籍化&コミカライズ化】【本編・外伝完結済】》19:辺境伯の屋敷を訪問してみた。
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魔境の森の調査任務を終え、ユグハノーツに帰還した。翌日、俺はロイドから借りた剣を返しに屋敷を訪れていた。
辺境伯ロイドの屋敷はユグハノーツを見渡せる小高い丘の上に建てられていた。
王都でアルフィーネが買った貴族の屋敷とは違い、ロイドたちが住む屋敷は堅牢に作られた砦のように頑丈な塀に囲まれていた。
相當高さもあるし、かなり丈夫に作られた塀だ。
魔法でも簡単には壊せないだろうな。
「お待ちしておりましたぞ、フリック殿」
塀の様子を見ながら歩いていた俺に、騎士隊長のマイスが話しかけてきた。
探索の時とは違い、鎧姿から平服に著替えたマイスは気のいいおじさんみたいに見える。
「忙しいのにお時間を取らせてすみません」
「いえ、そのようなことはありません。それにフリック殿ならば、いつ來ていただいても通すように部下には伝えてあるので気軽にお立ち寄りください。ロイド様が剣を與えたことでフリック様は剣士として認められましたからな。同行した者から話を聞いた騎士たちも手合わせをんでいる者もいますので」
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城門のような屋敷のり口で警備をしている騎士たちも、俺に向かって右に左手を當て敬禮を行っていた。
近衛騎士たちと違って辺境伯の騎士たちは真面目な人が多いな。
中からも鍛錬してる聲が聞こえてきてるし、冒険者から採用した人が多いから家柄より腕前が重視されてるのかも。
有事への備えを怠らないままでいるロイドらしい家臣たちだった。
とはいえ、俺は未だ青銅等級に正式にあがっていない駆け出しの冒険者に過ぎない。
気軽に大貴族の屋敷に出りできる分ではないのだ。
「ご配慮には謝しますが……中々、気軽には來られない場所ですよ」
「まぁ、フリック殿ならばそう言われるかと思いましたので、騎士たちとの模擬戦は冒険者ギルドを通して依頼させてもらいます。是非、けていただければありがたい」
「はぁ、指名でのご依頼であればおけしますが……」
「ありがとうございます。では、本來の用事を済ませましょう。ノエリア様もお待ちのようですし」
「ご挨拶して、剣を返すだけなので……」
「ご遠慮なさらず。朝食の支度も終わっておりますので召し上がっていってください」
マイスの先導で、俺は辺境伯ロイドの屋敷の中にっていった。
屋敷の中は大貴族とは思えないほど質素で、王都の貴族たちが競って集めているような華なは一切なく、実用品でまとめられていた。
「ロイド様には贅沢をして、領民に還元した方がいいと申し上げているんですが。ロイド様は贅沢よりも騎士の採用、武や矢弾の備蓄に資金を回してましてな。王都の貴族たちの中にはロイド様のことを『戦爭狂』と言う方もおられるとか」
キョロキョロと屋敷の中の調度品を見ていた俺に、マイスがそうなっている事を説明してくれた。
ロイドは常に『大襲來』に備えている、と言っていたけど本當のようだ。
二〇年経った王都では、これほどまでに質素な生活をしてまで『大襲來』に備えてる貴族はいない。
「なるほど……辺境伯様らしいですね」
「さて、著きましたので私は仕事に戻らせてもらいます。中でロイド様とノエリア様がお待ちなのでどうぞ」
「は、はぁ……」
大きな扉の前に來ると、マイスはそれだけ言い殘して俺の前から去っていった。
殘された俺は仕方なくドアをノックする。
「勝手にってきていいぞ」
扉の奧からは不機嫌そうなロイドの聲がした。
大きな扉を開け、中にるとノエリアとロイドが大きなテーブルの前に著席していた。
「失禮します。調査のおり、お借りした剣をお返しに參りました」
「堅苦しいやつだな。それはお前にやったはずだが」
ロイドは剣を返すといった俺のことを不機嫌そうに見ている。
「父上、フリック様がいらないと仰っているのですから仕方ないでしょう。いさぎよく返卻を認めるべきです」
ロイドの右側に座っていたノエリアがいつものごとく、抑揚のない聲で父親を諫めていた。
「わしが與えた剣を突き返したやつはおらんのだぞ。しかも、今回は『大襲來』を駆け抜けた剣だ」
「そういうのがフリック様には重荷なのだと思案いたしますが」
今回は珍しくノエリアがロイドの口を封じていなかった。
母親の墓參りをしたことで、多なりとも二人のわだかまりは解けたのかも――
「わしの剣が不満か。ま、まさか! 小僧、お前は、剣ではなくノエリアを――」
沈黙(サイレンス)の気泡がロイドの顔を覆っていた。
父娘間のわだかまりと沈黙(サイレンス)は関係ないのかもしれない。
父娘喧嘩を始めそうな雰囲気だったので、俺は剣をロイドに返す理由を話すことにした。
「返すと言いましたけど、自分がこの剣を持つにふさわしい男になるまで辺境伯様にお預かりいただこうと思いまして。け継げる男になった時には再びもらいけるつもりです」
俺の言葉を聞いたロイドは腕を組んで考え込み、口をパクパクとさせていた。
「父上は、『なるほど承知した』と言われております」
すかさずノエリアが通訳をしてくれたが、ロイドの様子から、そうは言ってない気がしてならない。
「ノエリア、それは本當にそう言ってる?」
「ええ、問題ありません。わたくしの通訳は完璧ですのでご安心を」
しばらくすると、ロイドの沈黙(サイレンス)の効果が切れ気泡が割れた。
「そんなことは言っておらんわ」
「そうでしたか? 失禮いたしました」
ロイドの突っ込みにノエリアは淡々とした表で答えていた。
なんだかんだで二人は行き違いが発生してるけど、本當は仲がいいのかもしれない。
俺は二人のやりとりをほほえましく眺めていた。
「わしの與えた剣をわしに預けて、またあのなまくらを使うのか? あの品質の剣では腕は上がらんぞ」
「今回の護衛依頼でいただいた報酬で新しい剣を作ろうと思ってます。今の自分に合った剣を」
金のやりくりが大変だったとはいえ、魔境の森へるのになまくらな剣一本だけで行ったのは俺の慢心だった。
なので、今の俺に見合う信頼できる相棒とでも言うべき剣を作るのは急務だ。
「ほぅ、新しい剣を作るか……」
「はい……辺境伯様に言われたとおり、多の借金をしてでもいい剣を作ろうかと」
「ならば、わしが世話になっている鍛冶師を紹介してやろう。あの剣を打った男だ。変人で気難しい男だが作る剣は全部一級品だぞ」
ロイドの剣を打った鍛冶師……。
あれだけの剣を作る鍛冶師となると相當な腕前の人だと思う。
「ありがとうございます。是非、紹介して頂けるとありがたいです」
「よかろう。先れの使者を出しておいてやる。やつは魔境の森に近い、ヤスバの狩場に工房を構えておる変人だからな。詳しい場所は地図を描いてやろう」
「フリック様、本日の魔法の練習はヤスバの狩場近くで行うことにして、腹ごしらえを先にすませましょう」
ノエリアがテーブルの鈴を鳴らすと、メイドたちがドアから現れ、食事の準備が始まった。
「待て! ノエリア、また小僧と出かけるのか? それはいかんぞ――」
再びロイドの口はノエリアに封じられ、沈黙に包まれたままの朝食を終えると、俺は工房に行くついでにける依頼を探しに冒険者ギルドに顔をだすことにした。
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