《剣聖の馴染がパワハラで俺につらく當たるので、絶縁して辺境で魔剣士として出直すことにした。(WEB版)【書籍化&コミカライズ化】【本編・外伝完結済】》外伝 第二十話 王都の夜
ニコライのなまくらな剣は、切れ味以外、今まで使ってきた木剣とは比べにならないほど使い勝手よかった。
握りは力が込めやすく、柄の重さも最適で振り抜きやすい。
思った通りに剣が扱える理想と言っていいほどの使い勝手だ。
ただ、刀が全てを臺無しにしてくれている。
「フィーン、トドメはあたしが――」
「任せるよ!」
魔の攻撃をけ止めていたフィーンが、あたしの攻撃するための空間を開けてくれた。
討伐依頼をけたウッド・スパイダーは、集団で人を襲う大きな蜘蛛だ。
人と同じくらいの大きさがある。
そんなウッド・スパイダーの頭部になまくらな剣を振り下ろす。
剣自の切れ味がないなら、刀がれた瞬間、振り抜く速さを上げればいい!
刀がウッド・スパイダーの頭部にれると、振り抜くための力を一気にこめた。
「くぅ! 失敗した! フィーン、援護!」
「大丈夫、もういるから!」
振り抜く速度が足りず、なまくらな刀は、ウッド・スパイダーの頭部に打撃を與えただけだった。
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怯んだウッド・スパイダーに向かい、フィーンがあたしと位置をれ替わる。
村で野生を相手にしていた時から、フィーンが導と囮、あたしがトドメという形ができ上っていた。
怒ったウッド・スパイダーが粘著の糸を吐き出そうと、口をかすと、フィーンが當たりを決めて邪魔をする。
「アルフィーネ、いけるかい?」
「う、うん! 今度こそ、決めるから!」
仰け反ったウッド・スパイダーに一気に詰め寄ると、橫なぎに剣を振り抜く。
今度こそ、れた瞬間にもっと速く振り抜かないと!
神経を集中し、刀がウッド・スパイダーの頭部にれた瞬間、力を込め、振り抜く速度を上げた。
振り抜いた速度によって起きた衝撃波が、ウッド・スパイダーの頭部を斬り裂き、鈍い打撃の反応が返ってこなかった。
これって、敵を斬るっていうよりも、空気を斬ってる覚かも!
「できた! フィーン、できたよ!」
「すげぇ……綺麗な切り口になってる。絶対にこのなまくらな剣の切れ味じゃないよな……」
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フィーンが頭部を失って地面に倒れたウッド・スパイダーの様子を興味深く観察していく。
「切れない剣なら、振り抜く速度を上げてみればよかったんだよ! ニコライの剣も鍛錬のためには案外悪くないかも」
「えー、そんなのできるのはアルフィーネだけだろ? 僕は斬れる気がしないよ」
「できるって! あたしができたんだもん! こう、當たった瞬間、ビュッって力を込めて振り抜くだけだし!」
あたしは見本を見せるが、フィーンの表は冴えない。
「いやだから、それはアルフィーネだからでしょ? 僕の振り抜く速度じゃ、それができてないんだって」
「じゃあ、練習しないと! 今日の依頼はこれだけだったよね?」
「うん、そうだけど……これだけじゃあ、そろそろ滯在費が底をつく。移の費用と依頼料が割に合わないし、やっぱ討伐依頼以外をけないと……一向にお金が貯まらないよ」
フィーンの顔が冴えないのは、剣の腕が上がっていないだけじゃなく、滯在費のこともあった。
魔討伐者であるハンターの仕事は、鉄等級では遠くて実りの悪い依頼しか殘っておらず、達しても赤字になることが多々起きている。
すでに王都に來て一か月。
討伐依頼は一〇件ほど達したが、滯在費で手元に殘るお金は増えていない。
お金の話をし始めたら、唐突にお腹が鳴った。
「食事代もケチってるのに……無理なの?」
「うん、今日の依頼でもらえるお金は、支払いを待ってもらってる宿代を払って消える。そうなると、泊まる場所も飯を食べるお金もないよ……」
「ついに野宿か……。できれば、王都でしたいよね。帰り道でご飯になりそうなもの探していく?」
「今からだと、城門が閉まる時間ギリギリだから、探してる暇はないかな……。やっぱ、サーチャーの仕事しよう。そっちでしお金稼いでから、またハンターの依頼けた方がいいよ」
フィーンが、いつもの通りの持論を展開してくる。
それじゃあ、落ち著けるまでずっと納品依頼しないといけなくなるじゃない。
多くの冒険者が、それで長期を逃して、ハンターとして大できないって話をしてた人もいるじゃん。
あたしたちは剣の腕しかないんだから、お金が苦しくても討伐依頼を続けるしかないんだけどなぁ。
もう一度、あたしのお腹が小さく鳴る。
でも、寢る場所も食べるもないじゃ、サーチャーの依頼をけるしかないか……。
「明日、ハンターの依頼なかったら、サーチャーの依頼ける」
「ほんと?」
冴えなかったフィーンの顔にが戻る。
サーチャーの依頼であれば、近場で効率のいい依頼がいくつかあると分かっていたからだ。
ずっと、あたしがそれを拒絶していただけだった。
正直、もっと討伐依頼があって、トントン拍子にランクが上がるかと思ってた。
けど、ランクが上がるような実りのいい依頼は先輩冒険者たちが、先に注していくので、駆け出しのあたしたちだけじゃ、どう頑張っても儲けが出ない依頼しかできない。
今はご飯をまともに食べられるようするのが、先決。
「うん、ご飯食べられないと、続けられないのは理解した」
「分かってくれたらいいんだ。明日はサーチャーの依頼を探そう」
フィーンが討伐の証であるウッド・スパイダーの糸袋を取り出し終えると、あたしたちは依頼達を報告しに王都の冒険者ギルドに急いで戻った。
その日の夜は、宿に泊まる金もなく、夕食を食べることもできず、王都で唯一野宿が認められている下町のスラム街の一角で夜を過ごすことになった。
最後の保存食から、干しを取り出すと、フィーンと二人で半分こにする。
「お腹いっぱいに食べたいね……」
「明日からはきっと稼げるから。納品依頼は何個もけられるし、近場多いから。すぐにお金も貯まるよ」
水でふやかしかさましをした干しを口に放り込むと、味がなくなるまでもごもごする。
冒険者の生活は厳しいって、院長先生たちが言ってたけど、こんなに厳しいなんて思ってなかった。
剣の腕をあげるのも大事だけど、お金が稼げるのが大前提。
ニコライに次の剣を打ってもらうためにもお金は必要だしね。
しばらくは納品生活になりそうだけど、空いた時間は剣の練習に使えばいいよね。
長期のは、干しの欠片だけでは足りないようで、もっと寄越せと腹を鳴かせた。
「アルフィーネ、これもいいよ。僕は食べなくても大丈夫だから」
フィーンが自分の分としてもらった欠片を差し出してくる。
「だめ、ちゃんと半分こしたから。それはフィーンの」
フィーンは欠片の干しはさらに半分にして、あたしの口に押し込んだ。
「アルフィーネはお腹が空くと寢られないのを知ってる。寢ないと、明日に響くからさ。僕は我慢できるから大丈夫だって」
フィーンの優しい言葉と、口に押し込められた干しの欠片が味しくて、自然と目から涙が流れてくる。
「あたし、頑張るから。ちゃんとお金稼ぐ」
「じゃあ、明日に備えて寢ないとね。今日は冷え込みそうだし、布は一枚しかないから、一緒にくるまろう。そっちの方が暖かいだろうし」
「うん、ありがと!」
フィーンと一緒に布にくるまると、しんしんと冷え込み始めた王都の夜も凍えることなく朝を迎えることができた。
それから、あたしたちはサーチャーの依頼をこなすことにしたんだけど、その依頼の最中、王都で二人目の友人となるサーチャーのソフィーと出會うことになる。
本日も更新読んで頂きありがとうございます。
書籍版完結五巻も好評発売中なのでよろしくお願いします。
駆け出し冒険者として生活をし始めた二人が、早くも生活に行き詰った狀況です。
本編でもさらりとれてますが、一五歳から冒険者生活して、五年で白金等級、アルフィーネに至っては剣聖という稱號までもらえたので、傑出した能力を持ってる二人なのですが。
駆け出し時代はどんな冒険者も同じような壁にぶち當たる意味での、今回の話です。
最初から竜一匹とか狩れればいいんですけどね。さすがに依頼としてはけられないw
次話からは、WEB版だとちょっぴりとだけ出たソフィーとの話です。
メイラとかと出會う前、唯一の同の友だちだった人です。書籍版だと、メイラとともにアルフィーネを助ける役回りを手伝ってもらいました。
あと、コミカライズの方もニコニコ靜畫様で一四話③が公開中です。コミックス三巻収録分となります。お時間あったらよろしくです。
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