《【書籍化】斷頭臺に消えた伝説の悪、二度目の人生ではガリ勉地味眼鏡になって平穏をむ【コミカライズ】》黒の思〈ヒセラ〉

私くらいの貌を持って産まれたなら、頂點を目指してみたくなるってものじゃない?

私の名前はヒセラ・エチェベリア。正直に言って絶世のだ。

の髪は艶めいているし、ディープグリーンの瞳は吸い込まれそうなをして、顔の造作は神のように整っている。

ただし殘念だったのが、男爵家の私生児なんていう何の恩恵もない立場に産まれたことだろうか。

父からの援助を得て、そこそこ綺麗なアパートに母と二人で暮らした。母さんは優しかったけど、酔うと雇い主だったという私の父への恨言を口にする。

私はいながらに「馬鹿だな」と思った。

こんなに人なんだから、もっと取りって金を搾り取れば良かったのに。

だからこそ、母を橫目に見ながらこっそり魔の魔法を練習した。

自分が黒い魔力を持っていると気付いたきっかけは、今となっては思い出せない。

世間では煙たがられている力だし、違法なのはわかっていたけど、せっかく持っているものは使わなきゃ勿無いことだけは確かだった。

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一応學校には通わせてもらっていたので、字を読めることも功を奏した。

たまたま出會った魔に頼み込んで、必死で練習して。試しに洗脳魔法を近所の男の子に使った時、簡単に掛かるんだから驚いたわ。

師匠によれば、洗脳魔法にはかけられる側にの土臺が必要らしい。

つまり私の虜にしたいなら、私に対してしでも好意を持っている必要があるってこと。

要するに、これほどのである私にはうってつけの能力というわけだ。

それからは楽しかった。

極刑になる可能があることだってどうでもよかった。バレなければ使っていないのと同じなのだから。

同級生で一番形だった男と人同士になって何でもお願いを聞いてもらったし、時にはお金持ちの男をたぶらかして々と買ってもらったりした。

そして16歳の春。

酒の飲み過ぎが祟って母が死に、私はエチェベリア男爵家へと引き取られることになった。

継母にいびられたりしたら面倒だなって思っていたけど、幸いなことに全寮制の學園に通うことになった。まあ、の良い厄介払いってやつよね。

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こうして、私は我が國の尊き王子様と出會うのである。

初日の朝。たまたま遠目にアグスティン様の姿を確認した時、自分の中にが鎌首をもたげたのをじた。

私ならたとえ男爵家の私生児だとしても人くらいにはなれるんじゃないか。王太子殿下の人だなんて、さぞかし気持ちのいい立場だろうって。

私は早速実行に移した。ハンカチをアグスティン様の前で落として、拾ってもらった瞬間に洗脳魔法を発させる。

思いの外簡単に魔法にかかったアグスティン様に、やっぱり私の外見は男にウケるなと確信する。

ほんと、男ってみんな馬鹿で、可いわよね。

そうして幾日かが経ったある日、アグスティン様にお願いして連れてきてもらったモレス山にて、私は衝撃的な出來事に見舞われることになった。

山道でばったり出會った、おさげで地味な眼鏡っ子。

えっと、クラスメイトだっけ? なんかこんな子、いた気がするけど。

私はまじまじと芋くさを眺め、その隣に立つ男へと視線をらせる。

その瞬間、強烈なが頭の中を焼いた。

知らない男。それなのに凍てつくような若草の瞳で私を見ている。

赤い髪に10代にしては逞しいつき。長で見下ろされるとがすくむようだ。

何より、その手に持った長いトングが、私の頭の奧深くを刺激する。

そうだ、初めて會ったわけじゃない。

私、私は。

この男に、殺された。

命乞いの間すらなく。

トングではなく竜騎士の剣を持った、カミロ・セルバンテスに……!

真っ白になった頭の中に記憶が流れ込んでくる。

今生と同じようにアグスティン様を洗脳したこと。

王太子のくせにあまりにも簡単に洗脳魔法にかかるから、が出てしまったこと。

卒業後は人として様々な恩恵をけたこと。

周囲に反対されればされるほど、洗脳魔法の効果が上がったこと。

ヒセラ妃反対派の力を削ぐために、第二王子のエリアスを事故に見せかけて殺したこと。

そしてレティシア妃を処刑したのは、全て私の企てだったということ。

そう、男爵令嬢なんて安い立場じゃ、正攻法で王妃になんてなれるわけがない。

まずはレティシア妃が勝手に暴走してくれたおかげで、私はただ普通にしているだけで評判が上がった。

がどんどん悪評だらけになっていくのを眺めて、時には困ったふりをして。

王妃に使われたお金よりない額しか使わないようにすれば、誰もがヒセラ様の方が慎ましいと噂した。

最後には濡れをでっち上げて殿下……いいえ、アグスティン陛下に申告してあげた。

アグスティン様にとってはレティシア妃の実家ベニート侯爵家が邪魔だったこともあったみたいね。

前國王派は総じて大嫌いで、その筆頭である侯爵にはいつも諌められて苛立っていたから。

よって、王妃の処刑はすぐに行われた。

悪名高い黒薔薇妃がいなくなってしまえば、もうあの人を認めてやれという空気になる。

無量だったわね。だって、ここまでたどり著くのにどれほどの手間をかけたかわからない程だったもの。

ようやく戴冠して、これから王妃生活を満喫してやるぞって思ったわ。

それなのに。

最後の瞬間にじたのは、混と恐怖、そして悔しさ。

手を盡くして王妃にまでなったのに。暗殺者が何を機にやって來たのか理解しないまま、私はこの男に殺されたのだ。

……落ち著いて。落ち著け。

揺を見せるな。まだ狀況がわからない。

とにかく一番違和のない反応を示さないと!

「貴は確か、クラスメイトの……!」

まずは同士話すのが普通と判斷して、芋に聲をかける。

から返ってきた答えは、想像を絶するだった。

「ご、ご機嫌よう。レティシア・ベニートです。ヒセラ様」

……何ですって?

レティシア・ベニートって……あの黒薔薇妃レティシア・ベニート⁉︎

噓でしょう?

一度目の時はあんなに派手で綺麗で、誰よりも目立っていて、努力なんて大嫌いで、そんなところがアグスティン様に嫌われていることも気付かないお馬鹿さんだったのに……!

どう見てもガリ勉じゃない!!!

私はすっかり唖然としてしまって、その後の會話を上の空でこなす事になった。

気がついた時には解散していたので、山道を降りながらアグスティン殿下に気になったことを問いかけてみる。

「アグスティン様、今のお二人、婚約者同士なんですか?」

しかしながら、アグスティン様からは反応がない。

……あの二人が気になるんだ?

「ねえ、アグスティン様! 聞いておられますか?」

苛立った私はつい聲を荒げてしまった。アグスティン様はようやく瞳を震わせて、私と目を合わせるようにした。

「ああ、すまない。何だった」

「今出會ったお二人が婚約されているって本當ですか、って聞きました」

「……どうでもいいだろう、そんなこと。私たちには関係ない」

なるほど。このぼかした言い方、さっきあの二人を婚約者って呼んでいたのはただの嫌味じゃなかったみたいね。

頭の中で點と點が繋がっていく。

一度目の人生にて、天才竜騎士カミロ・セルバンテスはレティシア妃のことが好きだった、ように見えた。

私くらいしかじ取っていなかったと思うけど、そういったことにはすぐ気がつく方だ。

つまり私とアグスティン様が殺されたのは、レティシア妃の復讐ってことになる。

……ちょっと待ってよ。そもそも、どうしてあの二人は婚約しているわけ?

だってそうでしょ。私しか記憶を取り戻していないのであれば、周囲の関係も寸分違わず同じじゃないとおかしい。

私より先に、記憶を取り戻している?

誰が?

決まってる。

あの目……カミロ・セルバンテスは、間違いなく記憶を取り戻している。

レティシア妃も、外見が違いすぎるあたり多分思い出しているわね。

つまりあの男はようやく想いを遂げたってことか。

ふうん、なるほど。じゃあもう、レティシア妃を利用することはできないわけだ。

実際に今生のレティシア妃はアグスティン様と婚約していないから、利用しにくいってのもあるけど。

あんな男が側に張り付いてたんじゃ無理。

また殺されるのは、絶対に免だ。

「ヒセラ、君はボランティア部に參加したいと思うか?」

「ボランティア部ですか? そうですね、私は手蕓部なので中々難しいですが、素晴らしい活をされていると思いますよ」

アグスティン様の質問に、當たり障りの無い答えを返してやる。

レティシア妃のことが気になってるの? この様子だと、アグスティン様は記憶を取り戻さなかったみたいだけど。

頭のいいが好きなんだっけ。ほんと、男って馬鹿ばっかり。

「……折角だし、街にでも寄って行こうか」

「本當ですか? 行きましょ、アグスティン様」

腕を取って歩きながら、私は笑みが顔に浮かぶのを抑えきれなかった。

理不盡に殺されて最低だった一度目の人生。

どうして時を遡ったのか知らないけど、こんな幸運は二度とないだろう。

二度目の人生でも、私はこの貌と魔の魔法を駆使して頂點を目指してやる。

レティシア妃が道化になってくれないなら……アグスティン様の新しい婚約者を、利用すればいいだけの話だ。

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