《【書籍化】斷頭臺に消えた伝説の悪、二度目の人生ではガリ勉地味眼鏡になって平穏をむ【コミカライズ】》助っ人の目的は一貫してブレない〈カミロ〉

久しぶりの更新になってしまい申し訳ありません( ; ; )

どうぞお付き合いくださいませ〜!

——次にレティにもたれたら、どうなるかわかっているだろうな。

俺の視力は人並みはずれて良い。

油斷なくテレンシオを睨みつけていたら、自陣にいるニコラスが非難がましいび聲を上げた。

「カミロおおおお! 魔法の暴発って、お前、あり得ないだろうがああ! しっかり集中しろおおおおお!」

用意された席からを乗り出し、拳を振り上げて熱弁している。

何って、レティにもたれるなんて暴挙に出た居眠り小僧を叩き起こしてやったんだろ。あいつ本當に聲がでかいな。

他の仲間達も立ち上がり、それぞれに聲援を送ってくれているようだ。ただし彼らの聲は観衆のざわめきに掻き消されているので、やっぱりニコラスの聲量がおかしいのだろう。

「悪かった! ちゃんとするから安心しろ!」

聲を張り上げて言葉を返してやる。

「本當に頼むぞ、カミロおおおおおお!」

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うるさい。いや、悪いのは俺だと分かってはいるけどさ。

ニコラスは大將なんだから、どっしり構えていれば良いんだよ。

俺はもう一度客席の様子を確認した。どうやらテレンシオはすっかり目を覚ましているし、レティシアも困しつつも見守ってくれているようだ。

隣に座っているのが気に食わないが、またあの野郎がレティにもたれたら魔法を使って起こしてやることにしよう。

剣を構え直して相手を正面から見據える。先程の雷魔法の威力をじたのだろう、彼は唖然として隙だらけになっていたのだが、俺が気迫を叩きつけたのをけ止める膽力はあったようだ。

気を取り直したように剣を構えた立ち姿に心の中で禮を取る。わざと魔法を暴発させるだなんて、驚かせて申し訳ないことをしてしまった。

今年の全國大會には出場していないので知らない相手だが、マンサネラでレギュラーを務める実力は並のものではないはずだ。

つまり竜騎士時代の実力を取り戻してしまった現在においても、ある程度の力は出してもいいということになる。

とにかくレティが心配だ。良いところを見せようとか、突然退部したことへのお詫びとか、そんなことはもうどうでもいい。

——早く終わらせて帰ろう。

俺は剣の柄を握りしめると、強く地面を蹴った。

同時に背後からの風魔法を発させて、前へと進む推進力にする。

『セルバンテス選手、風魔法を発しました! いきなりの猛攻は吉と出るか!』

解説が何か言っているが、戦いが始まれば一つの雑音も聞こえなくなる。

ただ目の前の敵の一挙手一投足だけに意識を集中する。

刃を落とした剣を使うのがルールでも、底にあるのは命をかけた戦いだということ。急所に刃を當てられたら負けの真剣勝負、それがマルディークだ。

間合いにった瞬間に首筋目掛けて剣戟を繰り出すと、相手選手のギリギリの対応によって弾かれた。高らかな金屬音が鳴ったのと同時、退がることをせずに勢を立て直す。

「くそっ、速すぎる……!」

相手は悪態をついたかと思うと大きく間合いを取って、巨大な火球を出現させた。

火魔法が得意であるが故に発も早いのだろう。俺が移に風魔法を使ったタイミングでの魔法攻撃は、敵ながら悪くない判斷だと言える。

しかし風魔法じゃなくても防ぐ手段はいくらでもある。

前方に水のを張った瞬間、火球がぶつかって大量の水蒸気が噴出した。白く霞む視界の中でも方向覚を失うことはない。

躊躇いなく駆け出して相手へと薄する。そこでようやく俺の姿を捉えたらしく、驚愕に見開かれた瞳が見つめ返してくる。

俺は一切の躊躇もなく、相手の首筋へと剣を突きつけた。

水蒸気の中での一瞬の攻防の後、徐々に晴れていく視界の中、無意識に遮斷していた會場のどよめきも耳に屆き始める。

そうしてようやく俺たちの姿が客席から確認できたであろう瞬間、空気を割る様な歓聲が競技場を包み込んだ。

『ここはスーパースターが圧倒的実力を示しました! セルバンテス選手、先鋒戦に快勝だ〜!』

相手が剣を下ろすのを待って、俺も剣を突きつけていた腕から力を抜く。さっぱりしたような苦笑を浮かべた彼と握手をわせば、また歓聲が大きくなった。

やっぱりマルディークは好きだ。

魔法が屬ごとに一度しか使えないため、経験と勘と度がものを言うところが面白い。

だけど実力差がありすぎると手加減をしなければならず、それが対戦相手への侮辱行為に値する以上は竜騎士になるまで試合には出られない。

だから辭めざるを得なかった訳だが、さほどの未練は無いんだよな。

俺は観客席のある一點を見上げた。流石に手を振ることはできないけど、じっと眼鏡の奧の瞳を見つめれば、驚いたように揺れる黒いおさげ。

うん、やっぱりレティは危なっかしいし、何より一緒にいたいのだから仕方がない。

——カミロ、やったわね! お疲れ様!

その時、レティの口元がそんな言葉を紡いだ様に見えて、俺は思わず目を見張った。

幻覚かと思ったけど、興のあまり立ち上がって喜びを表現するボランティア部の仲間に負けじと、レティもまた立って手を振っている。

會場中が同じような反応を示しているから目立つことは無い。そうは言っても婚約を公表しないことを喜んでいたくせに、そんなことをして良いのかよ。

ああ、まったく。本當にレティは俺を喜ばせるのが上手だ。

俺は全に向けているように見せかけつつ、レティに向かって手を振った。

ボランティア部の周囲に座っていた生徒たちが一斉に沸き立ったのは、もう耳にも視界にもってこない。

溢れるような幸福を抱えたまま、俺は男泣きする勢いのニコラスたちが待つ自陣に戻るのだった。

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