《【書籍化】斷頭臺に消えた伝説の悪、二度目の人生ではガリ勉地味眼鏡になって平穏をむ【コミカライズ】》千年の神様〉

ーーああ、良かった。

事の顛末を確認した私は、そっと小さなため息を吐いた。

初めは興味本位だった。

神の世界からは人の世がよく見える。いつも魔法の研究ばっかりしている冴えない男がいるなと気付いた私は、何故だか彼と話してみたくなって、初めて地上に降り立った。

神というものはが大きい。魔力を使って人間と同じ大きさになって、散歩中の男に話しかけてみる。

「私は時の神、シーラ。あなたの時間を私にくださる?」

「……はあ?」

訝しげに首を傾げた男は、レオカディオ・ネメシオと名乗った。

最初こそ頭のおかしいに話しかけられたって調子だったけど、私達はすぐに打ち解けていった。

どうしてあんなにも、レオカディオと話す時間が楽しかったのか。

まだまだ未だった私はの中に生まれたの意味がわからなくて、何度も人間界へと降り立った。

「見てくれ、シーラ。魔力はやはり人によって大きな差がある。測定を作れば向き不向きがわかるようになると思うんだ!」

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「まあ、すごいのね!」

「完したらシーラも測定してみよう」

「それは楽しみだわ。私の魔力なんて人のものを遙かに超えているけどね」

「ああ、はいはい。神様だもんな」

「もう、全然信じていないでしょう!」

私はレオカディオと話す時だけは本當に楽しくて、いつも笑っていた。

この時間が恐ろしい結末を呼び込むことになるとも知らずに。

季節が巡った。花咲く春が終わり、太の輝きが厳しい夏が來て、落ち葉の舞う秋が過ぎ、雪が白を添える冬を凌いだ。

何度も、何度も。レオカディオと出會っては會話をする日々は優しく、そして殘酷に過ぎる。

出會ってから五回目の冬に、彼は死んだ。

私は人の儚さを嘆いた。たった五年、神の覚からすれば瞬きほどの時間。

まだまだ彼と話をしたかったのに、どうして。

會いたい。レオカディオに會いたい。

私は絶し、我が生の無な長さを憎み、恨んで。

私のに芽生えていたものが、人の世でと呼ばれるものだと知った。

私が人間だったならばこれで終わり。さして珍しくもない話だ。

しかし自が唯一の願いを葉える絶対的な力を持っていることに、私はすぐに気が付いてしまった。

自分のために力を使うことは神に課された唯一の忌。それをわかっていても止められなかった。

私は迷いなく、五年分の時を遡った。

あの日と同じように偶然を裝って散歩中のレオカディオに聲をかける。

「私は時の神、シーラ。あなたの時間を私にくださる?」

「……はあ?」

ああ、また彼に會えるだなんて。こんなに幸せなことってないわ。

季節が巡った。そして五年目の冬にまた彼は死に、私は再び時を遡った。

何度も、何度も。ただ自分のを満たすためだけに、時を戻した。

そしてレオカディオと何度目かもわからない対面を果たした後のこと。

私はようやく異変に気付いた。人の世の至る所に、あってはならない黒い魔力が出現していたことに。

黒い魔力は私がだからなのか、にばかり宿った。そして異形の力を手にれた彼たちは、各地で悪さをし始める。

そう、私が何度も同じ時を繰り返し、更には地上に降り立ったせいで魔力の均衡が崩れ、このような事態を引き起こしてしまったのだ。

ああ、私は。神という立場を私利私のために使ったことで、人の世にとんでもないものを生み出してしまった。

もうレオカディオには會えない。私は私が背負った罪を、しでも償わなければならないのだから。

それからは必死だった。

黒い魔力を手にれた者は、やがて魔と呼ばれるようになった。私は魔がもたらした悲劇を見つける度に、逐一時を戻した。

しかし時を戻すたびに人は一度目の記憶をしまい込んでしまう。

時が戻る最中でも軸にした一人だけは呼び出すことができたから、私はその者に記憶について説明して、悲劇を回避するようにと伝えて送り出した。こうすると一度目の記憶を思い出しやすくなるのだ。

……まあ、たまに説明を一つか二つ忘れてしまうこともあったけど。最近では、記憶が戻る條件の「軸にした者より先に死んでいること」を伝え忘れて、後で気付いたりしたのよね。

そんなことを繰り返しているうちに千年が過ぎたけれど、黒い魔力を本的に消すことはできなかった。

悔いを殘したまま、私は今日消える。

「シーラ様」

背後から呼びかけられて、私はゆっくりと振り返った。

そこには白髪に金の目をした、新たな時の神がいる。

「はじめまして。代に來てくれたのね」

神の任期は約二千年であり、すでに私のは砂のように崩れ始めている。全ての力を使い果たしたから、次代の時の神に役目を託すのだ。

「……私は貴方の拭いなどしませんよ」

私とは同じでも顔貌の違う神が言う。やはり神というのは利己的で、無慈悲なものだ。

「わかっているわ。迷をかけて、ごめんなさいね」

「まあ、神として最低限の対処くらいはしてあげます。せいぜいゆっくりなさって下さい」

労いの言葉は事の他優しく響いた。私は小さな笑みを浮かべたまま、白い空間にを溶かしていった。

ああ、これで、もう終わるのね。

この先は二度と時は戻らない。けれど時間とはそういうものなのだから、本來の形に戻っただけと言うべきなのか。

この千年で魔についての研究も大分進み、社會は秩序が構築されて、近頃はそう悲劇は起こらなくなった。

きっと人は魔と共存できるし、大丈夫なのだと信じよう。

そういえば、最後の悲劇について。

時を戻すきっかけになったカミロ・セルバンテスは、この先も大好きなの子と幸せに生きていくのかしら。

考えてみれば、本來黒い魔力がなければ別々の道を歩んでいた二人なのよね。私はつくづく人の世を捻じ曲げてしまったわ。

けど、最後の笑みは幸せそうだったから、これで良かったのだと思いたい……。

……噓。

そんな。

レオカディオ、なの?

どうして。ああ、あなたもしかして……魔力がなかったから、最後の人生で私と別れた後に、思い出してしまったのね。

ごめんなさい。待っていてくれたの?

ありがとう。私も、ずっとずっと、會いたかったわ。

私って本當はこんなに背が高いのだけど、気にならない?

そう、良かった。

ええそうね、一緒に行きましょう。

ずっと、一緒に……。

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