《【書籍化】斷頭臺に消えた伝説の悪、二度目の人生ではガリ勉地味眼鏡になって平穏をむ【コミカライズ】》後片付けも終わり、來たるは冬

晝下がりの職員室は働く人たちの活気に満ちていた。私はリナ先生に借りていた本を差し出して、折目正しく頭を下げた。

「この本、とても勉強になりました。ありがとうございました」

の機に著いたリナ先生は、本をけ取ると嬉しそうな笑みを見せてくれた。

「どういたしまして、レティシアさん。孤児院の子供たちの進捗はどうですか」

「読み書きは年相応の能力がついて來たかと思います。算數はしずつ、でしょうか」

「順調ですね。しずつでも活ができれば、子供たちにとっての大きな力になると思いますよ」

リナ先生は理知的に、しかしとても穏やかに話す。

その表から私たちの活を心から応援してくれていることが伝わってきて、背中を押される思いがした。

「レティシアさんは読み書きの教室を開く夢があるのですよね。この本なども參考になるかと」

「わあ……! ありがとうございます!」

リナ先生は機の隅に積まれていた本を何冊か手渡してくれた。以前に相談したことから、どうやら本を探して用意してくださったらしい。

本當に素敵な先生。いつか教室が開けたら、リナ先生みたいになりたいな。

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「とても素晴らしい夢だと思います。応援していますから、いつでも相談してくださいね」

「はい! 頑張ります!」

私は直角に禮をして職員室を後にした。

借りたばかりの數冊の本を抱えて廊下を歩く。窓の外を見れば校庭に植えられた木が寒そうに震えており、冬の訪れを告げていた。

あの事件から一月以上が経過して、直後の喧騒も噓のように収まっている。

結果から言えば、ヒセラ様は自主退學という形で學園を去った。

これは陛下から直接伺った話なのだけど、まだ子供ということで死刑を免れ、強い力を持ったさる魔法使いの元で修行をすることになったらしい。

良かったと思う。何せこの世界ではまだ誰も死んでいないのだ。事件が解決した今となっては、ヒセラ様だけ死刑になっては大きな後味の悪さを殘しただろうから。

修行は大変かもしれないけど、立派な魔法使いになってくれたらいいな。

私が怪我をしたことは世間の知るところとなり、その日のうちに両親も駆けつけてきた。私が寮に戻って數分後の到著だったから、居ないのが知られなくて良かったとで下ろしたものだ。

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なんと同時に國王陛下までお越しになって謝って下さったのだから大変だった。

アグスティン殿下は陛下にこてんぱんに怒られたみたいで、思い切りビンタしたお咎めも特には無かった。

更にはセルバンテス公爵様までいらしていたのは驚いた。どうやら陛下が移するにあたって、最も早い足として竜を駆ることになったらしい。

々と労って下さったことには謝の気持ちで一杯だけど、「婚約者が大変な時にカミロは何をしていたんだ」って怒っておられたのは、事を説明できなくて申し訳なかったな……。

そして騒し落ち著いた頃、魔調査隊の四人で最後の會議を開いた。

エリアス様とアロンドラには本當にお世話になったから、謝罪と謝を伝えることから始めて、それからは々な話をした。

そうして、記憶が戻る條件は「カミロより先に亡くなっていること」が有力なので、若者ばかりの學園では記憶が戻る可能のある者はほぼ居ないだろうという判斷に至った。

そんな訳で以前ほどは眼鏡を外さないように神経を使わずに済んでいる。

修理に出していた相棒も帰ってきて、今ではすっかりいつも通りの毎日だ。

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「やあ、レティシア嬢」

「エリアス様。ごきげんよう」

エリアス様と行き合って、お互いに挨拶をわす。

事件においてはエリアス様を巻き込んだことがすごく申し訳なかったのだけど、一つだけ収穫もあった。

なんとヒセラ様がぽろりと零したらしいのだ。エリアス殿下を事故に見せかけて暗殺したのは私の獨斷だ、と。

「一度目の人生」という単語は無しでの発言だった。聞き取りをしていた件の魔法使い様も、何を言っているのかと不思議に思ったらしい。

一応と前置きした上で心當たりはあるかと確認され、エリアス様は笑顔でいいえと返しておいたとか。

私達は狂言の可能も考えたけど、わざわざ噓をつく理由は無いように思えた。

何せヒセラ様は、一番の重要事項である悪い魔について、既に洗いざらい証言したらしいのだ。

聞き取り調査はあっさりと終わり、悪い魔を捕らえるのも時間の問題だろうとのこと。

それなのに変な噓をついても調査が長引いて、自分が面倒な思いをするだけだものね。

だからエリアス様は自暴自棄になっての自白だろうと判斷したし、カミロとアロンドラ、そして私も同じ意見に落ち著いた。

ヒセラ様の罪について、私から言うことは何もない。

もちろん怒りは湧いてくるけれど、私はカミロの行いをどうでもいいの一言で片付けた悪なのだ。ならば一度目の人生の罪については、誰であっても責めることはできない。

ここは僥倖であると捉えるべきだ。何故ならエリアス様はこれで心置きなく留學に出ることができるのだから。

「エリアス様、あれから留學についての目星はつきましたか?」

私は世間話をと思って微笑んだのだけど、返ってきた反応は鈍かった。

「うーん……実は、悩んでいるんだよね」

「まあ、そうなのですか?」

「まあね。この國で勉強を続けていくのも悪くないと思い始めたんだ」

我が國は世界でも有數の大國だから、有名大學で學問を収めでもすれば相當の経験になることは間違いない。何よりエリアス様がむなら、それが葉ってしいと思う。

私は大きく頷いて、いつもと変わらない麗しい笑みを見上げた。

「素敵ですね。エリアス様のむ道に進まれることを祈っています」

「ありがとう。まあでも、國のために必要と判斷したら、いつでも海外に向かう覚悟だけどね」

エリアス様は楽しげに笑って見せる。しかしふと思い出したように目を瞬かせると、思案げな聲でそういえばと言った。

「兄上は近頃、僕に王位を譲るとまで言い出してね」

「……え?」

「事件以來妙に元気がなくて、人が変わったみたいに謙虛なんだ。洗脳が解けて目が覚めた時はあそこまでじゃなかったはずなんだけど、どうしちゃったのかな」

私はの巡りが急速に下に向かうのをじた。

それは、もしかして。記憶が戻った上にひっぱたかれたことが、大ダメージになっているのでは⁉︎

「へ、へえ〜……。そうですかー……」

「僕は國王になんてなりたくないのに、參っちゃうよね。気まぐれだとは思うんだけど」

あはは、と気楽に笑うエリアス様。私は左右に視線を泳がせたくなるのを必死で我慢して、普通に見えるようにと念じながら一緒に笑った。

ごめんなさい、エリアス様。もしかするとアグスティン殿下は本気かもしれません……!

「それはそれとして、レティシア嬢。どうかカミロと仲良くね」

エリアス様は言うなり、私の肩をポンと叩いてきた。

彼の笑顔は揶揄いと本気のり混じった、力強いものだった。

「いいかい。ヒセラ嬢じゃないけど、あの狂犬を制できるのは君しかいないんだ。僕だっていつもあいつを止められるとは限らないんだから」

「あの、エリアス様? 狂犬は流石に、他に言い方があるような」

「まずは君が怪我をしないこと、トラブルに巻き込まれないこと。あとは適當に構ってやれば、あいつは勝手に生き延びるはずだ」

いや、どんな言い草ですか⁉︎

まあ確かに、仰ることは間違ってはいないと思うけど。エリアス様ってたまに毒舌家よね……⁉︎

「頼んだからね、レティシア嬢」

「あ、あの、はい。頑張ります」

私は圧倒されつつもこくこくと頷いた。

エリアス様は私の返事を聞くと満足げに微笑んで、気負いのない作で立ち去って行った。

ふと窓の外を見れば白いものがちらつき始めている。初冬の今は積もることはないだろうが、初雪が観測される程度には冷え込んでいるらしい。

今の季節は十二月。今日は先輩たちが參加する、最後の部活の日だ。

ボランティア部のメンバーが勢揃いした部室にて、私たちは円卓を囲んでいる。

卓上には山のようなお菓子と、食堂から頂戴してきた軽食の數々。飲みの準備もバッチリだ。

全員がオレンジジュースのグラスを手に持ったことを確認し、私は小さく咳払いをした。

「えー、では皆さんご一緒に。……先輩方、三年間お疲れ様でした!」

お疲れ様でした!と後輩たちの聲が重なったところで、私達は中央でグラスを鳴らした。

そう、今日は部長とクルシタさんの引退パーティーなのである。

「こちらこそありがとう! 三年間楽しかったぞ!」

「みんなありがとうねえ。嬉しいわあ」

部長が快活に笑い、クルシタさんはおっとりと微笑む。

先輩方は今日で引退。これでもう活の度に無條件で會える人達ではなくなってしまう。

尊敬すべき立派な先輩であり、この部活に居場所を見出せたのはお二人のおだった。私にとってとても大切な人たち。

寂しいな……。

「部長は大學の推薦合格おめでとうございます!」

ルナが朗らかに言って、カミロとテレンシオ、そして私も同じように祝いの言葉を述べる。

部長は見事推薦の切符を勝ち取って、春からは大學生になるのだ。

「隨分と楽しく活させてもらったからな! 推薦がもらえたのも皆のおだ、ありがとう!」

部長ったら、なんて謙虛な。

ちゃっかりしたところのある人だけど、何だかんだで誠実で優しくて、頼もしい先輩だったな。これからは部長が予算を引っ張って來てくれることも無くなるから、代わりに頑張らないと。

私はハムサンドを手に取って齧り付いた。ふと斜向かいを見ると、クルシタさんが上品ながらも迷いのない手つきでクッキーを召し上がっている。

「クルシタさんは卒業後、どうなさるんですか?」

「私? 結婚するわよお」

突然の報告に、全部員が吹っ飛んだ。

ガタガタと椅子がく音が響き、いち早く復活したテレンシオがテーブルに手を突いて抗議を始める。

「ちょっと、早く言ってくださいよ! それなら今日もっと気合れてお祝いしてもよかったのに!」

意外と良識的な事を言う。何だかんだでこの部活の仲間のことが好きよね、テレンシオって。

「最近決まったのよお。えっと……名前は、ちょっとうろ覚えなんだけど。私、食費に糸目を付けない人なら誰でもいいからあ」

「すごい考え方ですね……⁉︎」

淡々と鶏のフライを咀嚼するクルシタさんに、思わず驚愕の聲を上げてしまったのはカミロだ。うん、私もそう思う。

「いやしかし、何にせよめでたい! クルシタ、おめでとう!」

「ありがとうマルティン。貴方もおめでとう」

この大食いファイターを止めたのって、一どこのどなたなのかしら……⁉︎

だけど部長の言う通り、おめでたいことが重なるって素晴らしいわよね。

「クルシタさんも部長も、おめでとうございます! もう一度、かんぱーい!」

私達はもう一度グラスを高く掲げて乾杯した。みんなの笑顔がガラスが鳴る音と共に弾けて、部屋の中がますます明るくなったような気がする。

生き馬の目を抜く社界ではあり得ない気楽な関係。きっとボランティア部で得たご縁は、この先も寶になるだろう。

「うふふ。新部長のレティシアちゃん、これから頑張ってねえ」

「う……! 頑張ります!」

クルシタさんに笑みを向けられた私はめつつも深く頷いた。

実のところ私は次の部長に就任しているのだ。責任重大、より一層進しよう。

「あとはカミロ副部長だな。二人でしっかりこの部活を守ってくれたまえ!」

「はい、任せてください!」

部長の軽快な申し送りに対して、カミロはいつもの如く爽やかだ。

……そうなのよね。活暦から考えて副部長はテレンシオになるはずが、いつの間にかカミロに決まっていたのよね。

一応はボランティア部にることを緒にしていたカミロだけど、最近はやんわりバレてきてしまったらしい。

本人曰くこそこそするのはもう止めにして、明らかに自分目當てっぽい子は副部長権限で部を斷るそうだ。

ちなみにテレンシオが副部長を嫌がったのかと思って本人に聞いてみたけど、何やら青ざめて目を逸らされてしまった。別に怒ったりしないのにな。

「はい、お邪魔しますよ。お楽しみですね、皆さん」

「あ、リナ先生!」

リナ先生の登場に、ルナがぱっと立ち上がって荷け取りに行く。私達は一斉に沸き立って、大好きな顧問の先生と豪華な差しれを迎えれた。

學生時代が短いことを、私はよく知っている。

きっと最後の一年もあっという間だろう。

だからこの貴重な経験を噛み締めて、これからの時も過ごしていけたらいいな。

次回最終回です。

本日の夜に更新予定です。ぜひお付き合い下さい!

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