《【書籍化】わしジジイ、齢六十を超えてから自らの天賦の才に気付く【8/26から電撃マオウでコミカライズスタート!】》最初の魔討伐
ぐっすり眠りの疲れを癒したディルは、いつものようにかなり朝早くに目が覚めた。
基本的に老人の朝は早いのである。
曲がった背骨を一杯ググッとばし、外へ出て冷たい風で意識を覚醒させる。
冷気が自分の老を苛め始める前に中へり、外套を羽織った。
宿屋の朝はそれほど早くないのか、アリスの姿はけ付けにはなかった。
青に染められている空が、徐々に黃がかっていく。
暖かくなる空気とをじながら、街道を歩き冒険者ギルドへ向かうことにした。
未だ完全には朝日が昇っていないにもかかわらず、既に幾つかの店は営業を始めていた。
恐らく終日で営業していたのであろう酒場からはグロッキー気味なウェイトレスの姿が見える。
遠くからはカンカンと鎚が鉄を叩く暴で質な音が聞こえており、その騒な音を聞き裝備の問題も解決しなければと思い出す。
頼る形にはなるけれど、どの店がいいのかミースにオススメを聞いてみることにしようかの。
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ぐぅぐぅと鳴るお腹を押さえ、ディルは顔を下げて出店が視界にらないようにしながら、歩く速度を上げた。
(単価の高い出店ではなく、ある程度しっかりとしたような食堂で食事をしたいからの)
爺は漂っている芳しいタレの香りに鼻をピクピクとかしながらも、決して出店へと視線を向けはしないと、心に決めた。
「もっしゃもっしゃ……おふぁよう、ミーフ」
「あ、おはようございますディルさん。……食べながら話すのはあんまりよくないと思いますよ」
「しゅまんの、耐えきれなくなっちゃって」
銀貨一枚分購した串を頬張りながら、ディルはギルドへと足を踏みれた。
今まで麥と野菜、それに時折干しをといった簡素な食生活を送っていたディルである。
悲しいかな、彼には田舎にはない刺激的な香りに耐えられるがなかった。
ついでに言うと稅金でかなりの現を持っていかれてしまうし、基本的に稅は現納であったために、彼はあまり貨幣というものを使ったことがなかった。
そのためディルには巾著袋の中にれている銀のが、まるでなんでもしいと換できる魔法のアイテムか何かのように思えたのだ。
平たく言うと彼は都會のに負けた、金銭覚の鈍いよくいる田舎者の爺なのである。
たとえスキルを手にれても、格や在り方というものは突然には変わらないようだった。
串三本で銀貨一枚という、高いのか安いのかよくわからない値段設定の食事を終える。
ディルはとりあえず腹にがれ、ある程度の満足をじながら、ゴミをポケットにれた。
「なんかいい仕事ある? 出來ればあんまり遠くない場所でスライムかゴブリンを一匹ずつ狩れる場所がいいんじゃけど」
「はい、幾つか見繕っておきました」
「ありがとの、助かる。あと鉄の剣がしいんじゃけど、良い鍛冶屋とか教えてもらえたりせんか?」
「そうですね……でも良い買おうとすると高いですよ?」
「そうか、やっぱりそうじゃよね」
今持っている普通のボロい木剣だけでは、一どれだけ戦えるものかわかったものではない。
自分の金銭覚のなさを既に察し始めていたディルは、今日一日で鉄剣を買えるぐらいの金を稼いでしまおうと決める。
「最低限戦える剣を買うと幾らぐらいかの?」
「そうですね……銀貨五枚から、金貨一枚あたりを見ていただけると」
「……思ってたより、高いの」
「鍛冶屋さんも、慈善事業じゃありませんからね」
一日では無理そうだと早速計畫を変更し、ディルはどれくらい倒せば鉄剣を買えるのかを概算してみることにした。
ゴブリンが一匹銅貨三枚ということなので、ゴブリン換算で考えてみる。
まず自分が毎日使うことになる費用は宿代の銀貨一枚、そして今朝の食事を二回と考えると銀貨が更に二枚。
が資本だからと更に一食追加するとしたら合わせて銀貨四枚になる。
銀貨四枚ということは、銅貨四十枚である。ということは最低でもゴブリンを一日十三倒さなければそもそも生きていくことが出來ない。
金貨一枚は銀貨十枚、即ち銅貨百枚。換算すると三十三ゴブリンである。
一日二十ゴブリンを殺して、かつ無駄遣いを控えたとしても金が貯まるまでは五日弱かかる。剣以外の裝備を整えたり薬を揃えるとなれば、まだまだり用になるのは間違いない。
「あれ…………思ってたより、冒険者ってハード?」
「當たり前じゃないですか、何を今さら」
冒険者は當たればデカい、だが當てることが出來なければ早晩死んでいく。
良くも悪くもそんな商売である、ミースは諭すようにそう口にした。
「うーん……皆こんなんでよくやっていけるの」
「あのね、ここギルドの建の中だから。そういうこと言っちゃダメだよ?」
「あいやすまんかった、つい心の聲が」
「それもそれでどうかと思うけどね」
冒険者としてやっていくのは、自分のように住環境がしっかりしていない人間だと、かなり大変なことなのではなかろうか。
雑魚寢で宿代を抑え、自炊して食費を抑えてもどうやっても一日の生活費は銀貨一枚は超えるだろう。
ということは一日最低でもゴブリンを四倒さなければいけないことになる。
今後怪我した時のことや、調を崩した時のための蓄えということを考えると、あまり割りに合った職とは思えなかった。
「だから商隊の護衛なんかになるのは、冒険者にとって理想の退職方法なのよ」
「それをギルドの職員が言ってもいいものなのかの?」
「そういう方面の箝口令はなきに等しいから大丈夫。ギルド職員の言葉の一つや二つで揺れるような冒険者は、大抵は大しないもの」
じゃあわしは大しそうにないの。まぁ、するつもりもないわけじゃが。
護衛も採取も出來ない自分には適當に魔を狩ることしかできなそうだという思いを、ディルは話を聞くにつけ強めていた。
「で、今日はどこへ行ったらいいんじゃ?」
「あ、それなんだけどね。今日は初めてってことで、他のパーティーに混ぜてもらえるように頼んでおいたか……」
「おいおい、なんでじいさんがここにいるんだよ」
「そこどいてよ、私達今日はゴブリンを狩りに行かなくちゃいけないんだから」
あー、と聲にならない聲をあげてからディルは天井を仰ぐ。
後ろの聲と今の話から、先が読めてしまったからだった。
「なんとなく予想ができちゃったんじゃけど、合っとる?」
「…………はい、ディルさんの後ろにいるその二人が、今日一緒に行するパーティーメンバーの方々です」
振り返るとそこには、赤髪の年とライムの長い髪を紐で縛ったの姿があった。
「え……ミースさん今日の紹介は、強い人って言ってたじゃんか‼」
「ひどい、私達のこと騙したのね‼」
爺は髭をもしゃもしゃしながら、二人を優しい目で見つめた。
今さらバカにされることを嫌がるような年齢ではないために、特に悪を抱いたりはしない。
わしにも若い頃は、こんな時もあったの。
その跳ねっ返りの強そうな態度に思うところがあり、ディルは何も言わずに訳知り顔で頷いた。
それを年たちは怪訝そうな顔をして、目を細めてからため息をこぼした。
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