《【書籍化】わしジジイ、齢六十を超えてから自らの天賦の才に気付く【8/26から電撃マオウでコミカライズスタート!】》生活の知恵
とりあえず落ち合ってから休憩をし、三人は食事を摂ることにした。
ディルが背負っているリュックから冷めた串を取り出したのを見て、二人が驚いたような顔をする。
「屋臺の串焼きは冷めたら不味いだろ、なんでそのチョイスなんだよ」
「値段もぼったくりだしね」
「やっぱりそうか……銀貨一枚は高すぎると思ったんじゃ」
ディルの晝食は朝に食べた串の殘り一本である。本來ならこれを夕食にするつもりだったのだが、どうやらクーリ達の発言から冒険者は基本一日三食らしいということを察し、もう食べてしまうことにしたのである。
葉にくるんだ串は冷め、白っぽい脂が浮いてしまっていた。溫め直せば味しく食べられるだろうが、殘念ながらディルには火魔法の才能はない。
しょんぼりとしながら串を見つめる老人の背中には、哀愁が漂っている。
「ご飯はどこで買うのがええんじゃろうか?」
「普通にパン屋行って、廃棄処分の奴とか貰えば安く済むぞ。後食堂の食べ殘しのごった煮とかも不味いけど腹は溜まる」
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「でもあれ、本當にお腹が溜まるだけで味はヤバいのよね……」
どうやらディルの知らない生活の知恵というやつがまだまだたくさんありそうである。その辺りも追々學んでいかなければならないだろう。
「雑草食んだり腐りかけのを買い取ったりとか、腹を溜める方法自はいっぱいあるぞ」
「一回でもお腹壊すと薬買わなくちゃいけなくなるから、普通に食べた方が安く上がるのよね」
「そうそう、慣れるまでは大人しくまともに殘飯とかごった煮で済ませとくのが吉だ」
「二人の晝食はなんなんじゃ?」
クーリとミルチが背嚢から取り出したのは、野菜らしきの炒めだった。
恐らく葉野菜の芯の部分を使っているからだろうか、所々殘っている緑の部分はあるものの合いは全的に白っぽい。
「食堂だとまともに食えない部分は捨てるからな、そこが狙えるんだ」
「ゴミを漁ったりするのは倍率高いから、私たちはお金を払って買い取らせてもらってるの」
食事は基本的には他人が捨てる部分を買い取り、強引に食べてしまうのが安上がりだと二人は語った。
タダで殘飯を漁ろうとするとスラムの面々と爭うことになったり衛兵につき出されたりする可能があるらしい。とりあえず無料で済まそうとするのだけは止めとけという説明に素直に頷くディル。
「それだと一食どれくらいになるんじゃ?」
「んー……、銅貨二枚くらいか?」
「頑張れば一枚にも押さえられるわよ。でも食べられる野草の知識のないディルおじいさんはあんまり冒険しないで二枚払った方がいいと思うわ」
「二枚で済むんか……串焼きで空腹からせる程度の量で銀貨一枚と考えると隨分と安いのう」
「そりゃそうだろ、あんな出店で食うのなんて観客か仕事上がりのおっさん達、あるいは酔っぱらいくらいなもんだぜ」
「まぁある程度の需要があるからこそり立ってるんだろうけどね。お金はあるところにはあるってことかしら」
「わしみたいにお金なくても買っちゃう人もおるしな」
「ははっ、まあ良い教訓だと思えばいいさ。それくらいばんばか買えるくらいの大になってから笑い話の種にでもすりゃあいい」
どうやら二人は食事は最大限に切り詰め、貯蓄と裝備の充実に金を回しているらしい。しかもどうやら財布を握っているのはミルチの方であり、クーリは財政面は彼に頼りっきりらしい。
最初からに敷かれていると後でめちゃくちゃ後悔するぞと自分の経験談を聞かせようかとも思ったが、どうやら二人はまだそういう関係ではないらしいので止しておくことにした。
食事の最中に戦闘スタイルについての話をしておくことにした。ミルチは魔法使いであり、ゴブリン程度なら一撃で殺せるだけの魔法が數発は放てるらしい。クーリは生粋の戦士で、ゴブリンを三匹までなら相手取れると言っていた。
ディルは自分は剣士であると説明したのだが、彼が持っているのは家から持ってきたボロい木剣である。著の著のままで鎧も著けていないため、クーリ達と比べると裝備の差はかなり大きかった。
クーリは鉄の剣を腰に提げ、皮鎧にを包んでいる。所々に金屬補強のしてあり、背中には応急手當て用の薬や生活用がっているらしい。
ミルチは茶っぽいローブに魔力制用の先細りしている杖という格好で、クーリと同じくしっかりとした作りの背嚢を背負っている。
対するディルはボロい剣を糸で腰に巻き付けているだけで、著ている服は普段著の麻の服である。背中に小がこぼれてしまいそうなの空いたナップザックがあり、腰には殘り一枚の銀貨をれた薄汚れた巾著袋をつけている。
あれ、わしの見た目かなりヤバくね? こうして裝備を確認する段になって、ディルは自分が敬遠されるのも當然な格好をしていることにようやく気付く。
こんな格好をしている老人の同行を許してくれるあたり、二人はかなりの優しさを持ち合わせているように思えた。
剣士だが持っているのは木の剣です、などと老人が言い出そうものならまず間違いなくボケているのではないかと心配するのが普通の反応だろう。文句をつけながらも面倒を見てくれるあたり、人の良さが滲み出ているじがする。
「やれるんだな?」
クーリが尋ねる調子も、懐疑的なそれではなく確認的な意味合いの強いものであった。先ほどのかけっこのおかげか、どうやらある程度の信頼は得られたらしい。
「まぁ、お荷にはならんつもりじゃよ。調子も戻り始めてきたしの」
「うし、それならもうちょい歩いてさっさと森にっちまおう。ゴブリンは間引かないとすぐに増えるから、冒険者的にはありがたい限りだよ。ゴブリンさまさまってやつだ」
「放置しておいたせいで村が潰れた例だってあるんだから、そういう言い方はどうかと思うわ」
「ん、悪い」
「いいわ、別に怒ってないし」
「それじゃあ食事も終わったし、そろそろ行くとしようかの」
三人は食事を終え、本格的にゴブリン狩りを始めることにした。
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