《【書籍化】わしジジイ、齢六十を超えてから自らの天賦の才に気付く【8/26から電撃マオウでコミカライズスタート!】》最低で最高
ゴブリン達の住居を探すのはそれほど難しくないというのは、あまり生態について詳しくないディルであっても容易に理解することが出來た。
彼らには思考能力と呼ばれるものがほとんどない、故に自分達の足跡を隠すようなことも當然しない。
彼らの足跡を追いかけていけば、それだけで彼らの居を特定することが出來た。距離もそれほどかかったわけではない、移にのために使用した見切りは一回だけだった。
の近くへる時、クーリが小さく呟いた。
「じいさん、魔の巣を潰した経験はあるか?」
「ない」
「そうか、それなら一応注意しておくが……躊躇うな。まだいたいけな子供だろうと、殺せ。そうしなければ俺達の知っている人達が殺される、容赦はするな」
「……わかった」
今でこそ人間達による領域が大きく広がっているが、そもそもの元を辿れば人間と魔というのは同じ世界で生存競爭を行う、潛在的な敵同士である。
魔と人間との間では生が行えぬため、人間同士の爭いと比べるとしはマシかもしれない。ただ殺され餌にされるだけで、生きたまま地獄を味合わされる心配はないのだから。だがそれは別に、魔を放置していい理由にはならない。
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今はまだ、人間が勝負には勝っている。だがゴブリンの繁能力は驚異的だ、もしかすれば數十年後には、彼らが世界中の土地を闊歩する陸の支配者になっている可能は高い。
その時に殺される人間の中には、マリルやトール、あるいはこの街で生きているミースやアリスがる可能だってある。そう考えれば、手心を加えることなどありえない。
言葉の通じる人間を殺すとなれば若干の抵抗はじるかもしれないが、ゴブリン相手ならばなんとかなるというのが実際に一殺してみてのディルの想である。
クーリはかなり自分のことをおもんばかっているのはわかったが、その考えはしばかり間違っていると言わざるをえなかった。
ディルも昔は野良犬を殺してから鍋にしたり、王都で死刑の執行を見てはしゃいでいたこともある。殘酷なことに対して、最低限の耐はついているのである。
(じゃが……心配してもらえるだけ、ありがたいってもんじゃ)
クーリの心配は無用なものではあるが、ディルにはその心遣いがありがたかった。人の心からの思いを無下にすることなど、ジジイの矜持が許さない。
「よし、行こうかの。そう心配せんでも大丈夫やよ、案外ジジイの神は強いからの」
「そ、そうか……」
し不思議そうな顔をしているクーリの前に出て、ディルは一番乗りでの中へっていった。
中にいたのは雌のゴブリンが二、そして一回りの小さな子供らしきゴブリンが三。ディルの侵に気付いた雌のゴブリンは我が子を守ろうと立ち上がり、子供のゴブリンは恐怖からか鳴き聲を上げて後ずさった。
「謝りはせん、じゃから好きに恨むといい」
ディルは音もなくき、雌ゴブリンの目玉に木の剣を突き刺した。眼神経の奧にある脳にまで剣を屆かせてから、態勢を崩させる重力に従って木剣を抜く。そして自分目掛けて素手でやって來たもう一の頭に剣を打ち付けて倒す。彼が二を相手取っている間に、奧の方に逃げようとしていた子供のゴブリン達の首をクーリが刈り取っていた。
やっぱり魔も……子供を守ろうとするもんじゃの。
ししんみりとした気分になってから、爺は再びクーリに耳の切り取りを頼んだ。
特に意味があるわけではないが、ディルは一ヶ所に集められたゴブリン達に黙禱を捧げた。
すまんの、こっちも生きなくちゃならんのじゃ。
目をつぶりに手を當てながら祈っていたディルの肩が、ポンポンと叩かれる。
「ほら、言わんこっちゃない。別に全部俺がやっても良かったんだぜ?」
「いや、いずれやらなくちゃいかんことじゃし今やっとこうと思ったんじゃよ」
「まぁ、こればっかりは慣れだからな。回數をこなしていくしか対処法はない、俺も最初の頃は丸一日ご飯がを通らなかったしな」
「そうか……難儀なもんじゃの、冒険者というやつも」
「當たり前だろ、最低の職さ。だけどその分夢とロマンが詰まってる、だからなろうとするやつが後を絶たないんだ」
もしかしたら自分が考えていたよりも、冒険者というのは厳しい商売なのかもしれない。正直に言って、見通しが甘かったと言わざるを得ないだろう。
「ほらディルおじいちゃん、辛気くさい顔してないで次行くわよ。もっと稼がないと」
「……それもそうじゃの」
(じゃがまぁ、これもまた自分が選んだ道だしの)
ギアンの街は村では考えられなかったほどの刺激に満ちているし、孫ほど年の離れた知り合いも沢山出來た。まだ長い時間過ごしたわけではないが、この生活も中々どうして悪くはないだろう。
頑張って生きていこう、農作業の出來ない爺ではなく新人冒険者のディルとして。
彼は決意を固め、最後にもう一度だけゴブリン達の死骸を見た。
それからうんと一つ頷き、そしてを後にした。
外へ出た時のディルの顔は、六十を超えているとは思えないほどに活力に満ちている。ここから、彼の冒険者生活が始まるのだ。
ディルはまだ見ぬ未來を思い、よぼよぼの顔に力強い笑みを浮かべる。そしてクーリ達の後を、必死になって追い始めた。
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